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睡眠不足は生活習慣病のリスクを高めることが知られています。
また、生産性を下げ、人為的ミスの危険性を増大させるため、経済的な損失にも繋がります。企業にとっても従業員の睡眠不足改善に取り組むことは重要です。
そこでこの記事では、睡眠不足が抱えるリスクや企業による睡眠不足改善のための取り組みについて提案していきます。ぜひ参考にしてみてくださいね。
それでは、まず日本人の睡眠の状況や、睡眠不足が健康に与える悪影響について解説します。
経済協力開発機構(OECD)の21年版調査では、調査の対象となった国の中で日本は睡眠時間が最小であるという結果でした。
また、日本人の中でも、特に就労者の睡眠時間は国際比較すると短いと言われています。
下の図に、就労者の男女別の睡眠時間を国際比較した結果を示します。
女性は、家事や育児の負担が大きいために、男性よりも睡眠時間が短いことが考えられます。
また、令和4年1月に厚生労働省が発表した、令和3年度の調査報告の結果は以下のようになっています。
この調査によると、睡眠時間が7時間以下の人が合計の67.7%を占めています。
同じ調査では、睡眠時間の取れている度合いについても調べています。
この結果からは、睡眠時間が足りていないと感じる人が多いことの他にも、夜中に目が覚めたり、寝付きが悪かったり、また日中に眠気を感じるといったような人もいるということが読み取れます。
睡眠時間の不足や睡眠障害がもたらす健康への影響は、以下の図のように関連しています。
それぞれについて、詳しく解説しますね。
短時間睡眠や不眠が続き、慢性的に寝不足になると、日中の眠気や意欲低下、記憶力減退などの精神機能の低下を引き起こします。
また、作業効率や注意力の低下、抑うつなども出現し、結果的に人為的ミスの危険性を増大させることにつながってしまいます。
諸外国では、アラスカでのタンカー事故やスペースシャトルのチャレンジャー号墜落、スリーマイル島での原発事故などの、勤労者の睡眠問題が原因となったような大きな産業事故がいくつも報告されています。
日本でも、過酷な勤務条件による長距離ドライバーの居眠り運転などの問題があります。
このような睡眠問題によって生じる経済・社会資本の損失は、アメリカ・日本ともに年間数兆円にのぼると試算されています。
慢性的な寝不足状態にある人は、糖尿病や心筋梗塞・狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。
また、日本人の約2割は交代勤務に従事しています。
夜勤をすると、体内時計と生活時間との間にずれが生じやすくなり、体内時計にとって不適切な時間帯に食事をとることが生活習慣病の原因の一つになると推測がなされています。
また、睡眠障害は企業が今後対策ととるべき健康関連項目の一つです。
東京大学が、企業が考慮すべき健康関連項目について、医療費と生産性低下のコストを合算し分析しました。
その結果、抑うつや睡眠障害などのメンタル分野の対策の重要性が示されたのです。
行政も、健康日本21で、睡眠については「十分な睡眠の確保」に取り組んできました。
一方、睡眠の質を上げたり、メンタル分野のケアは、保健行政でのカバーは現時点ではカバーしきれていない側面があります。
今後、ヘルスケア産業対策によって、産業化が進められる余地が大きい分野とも考えられます。
厚生労働省による、「健康づくりのための指針2014」の「睡眠12箇条」では、以下のようなポイントがあげられています。
この中でも、取り組みやすいのは「10.眠くなってから寝床に入り、起きる時間は遅らせない」ということかと思われます。
まずは、「起きる時間」を一定にすることが良好な睡眠をとる一歩でしょう。
もちろん、眠れない症状が強い場合には、睡眠を専門に取り扱う医師などに相談することも大切です。
次に、従業員が良質な睡眠を取るために企業が取りうる対応について提案します。
従業員に対して、睡眠時間や睡眠の質などを問うような、睡眠に関するアンケート調査を実施してみましょう。
可能であれば、ウェアラブル端末などを活用し、睡眠時間や睡眠の質、睡眠前のリラックス度、日中のパフォーマンスレベルを計測し、「見える化」するのも良いですね。
その企業ならではの、睡眠の問題が洗い出される効果が期待できます。
例えば、交代勤務が多く生活リズムの乱れが気になったり、長時間労働になりがちで睡眠時間がなかなか取れなかったり、という問題があるかもしれません。
できる範囲で、現実的な対策を打ち出すのが良いでしょう。
たかが睡眠不足、日中の眠気とあなどってはいけないということを、管理職から従業員まで、社員全体で共有することが大切です。
長時間働くことが美徳という考えもあるかもしれません。
しかし、睡眠の量や質を高めるためには、作業の効率化などで残業をなるべく減らすことが望ましい場合があります。
まずは、睡眠不足がもたらす健康障害や、企業の生産性低下などの問題についての知識を持つようにしたいですね。
アンケートなどの調査結果を元に、従業員の睡眠データを可視化し、問題点などの分析を行います。
そして、従業員に対して良好な睡眠を取るための指導を実施しましょう。
まずは、個人のレベルで気をつけることができるポイントを中心にすると、生活に取り入れやすいかと思います。
先にご紹介した「睡眠12箇条」も参考にし、起きる時間は一定にしよう、などといったことです。
夜間に必要な睡眠時間を確保できなかった場合には、午後の眠気を改善するために昼寝が役立ちます。
午後の早い時間に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業効率の改善に効果的とされています。
昼休みなどに仮眠時間を設けたり、仮眠がとれるようなスペースを設けることも睡眠不足の解消に役立つでしょう。
相談窓口を設置し、従業員が睡眠に関する悩みを打ち明けられるようにするのもよいでしょう。
治療が必要な睡眠障害を抱える従業員をピックアップし、受診勧奨にスムーズに繋げられる効果も期待できます。
今回は、睡眠の改善に対して企業が取り組めそうな対策をいくつか提案しました。
企業の業務内容や規模によっては難しいものもあると思いますが、まずは個人レベルでも取り組むことができそうなものから、意識を共有するとよいでしょう。
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行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。