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日本人のがんの原因のうち重要なものに、細菌やウイルスなどへの感染があります。
一方、がんの予防のためには、生活習慣の改善の他に、「感染」への対策が大切です。
この記事では、細菌やウイルスの感染が原因となるようながんについて解説します。
そして、企業が従業員のがんを予防するための取り組みについてご提案していきます。
現在、日本人の2人に1人が一生のうち一度はがんになる、ともいわれているほど、がんは身近な問題です。
がん予防についての研究から、現在では、日本人のがんの予防のためには、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの改善可能な生活習慣に「感染」を加えた6つの要因が重要だと考えられています。
また、日本人におけるがんの要因は以下の図のようになっています。
この調査では、「感染」が原因となるがんの割合は、男性18.1%、女性14.7%となっており、感染ががんの原因として重要だと考えられます。
実際に、細菌やウイルスが原因となるがんとしては、以下の図のようなものがあります。
この図に掲載されている要因の他にも、エプスタインバーウイルス(EBV)というウイルス感染によって、鼻咽頭(びいんとう)がん(上咽頭(じょういんとう)がん)という鼻の奥のがんや、悪性リンパ腫という血液のがんが引き起こされることもわかっています。
ここからそれぞれについて、感染症の予防の観点からも詳しく説明していきます。
肝細胞がんは、肝臓の細胞ががん化したものです。
B型・C型肝炎ウイルスは、血液などの体液を介して人から人に感染します。
これらのウイルスに感染すると、慢性的に肝臓に炎症が起こっている状態となり、肝細胞がんが発生しやすくなると考えられています。
肝臓は沈黙の臓器ともいわれ、ウイルスに感染しても症状がでないこともあります。
そのため、一生に一度は肝炎ウイルスの検査を受けるべきとされています。
感染しているかどうかは、血液検査で調べることができます。
胃がんは、胃の壁の内側をおおう粘膜の細胞が何らかの原因でがん細胞となり、増殖していくことで発生します。
ヘリコバクターピロリ菌という細菌の一種が感染することで、胃粘膜が慢性的な炎症を起こし、様々なダメージを受けやすくなり、胃がんのリスクが高まるといわれています。
感染しているかどうかは、胃の内視鏡検査や血液検査などで調べることができ、服薬による「除菌療法」を行うことができます。
子宮頸がんとは、子宮頸部にできるがんのことです。
大部分の子宮頸がんは、がんになる前の状態(前がん(ぜんがん)状態といいます)を経てからがんになります。
子宮頸がんの発生には、その多くにヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papillomavirus)の感染が関連しています。
HPVは性交渉によって感染するものの、多くは自然に体から排除されます。
しかし、もし感染した状態が続くと、前がん状態や子宮頸がんへと進行していくことがあります。
子宮頸がんを早期発見するために、20歳以上の女性には2年に1回がん検診をうけることが勧められます。
HPVワクチンには子宮頸がんの前段階になるのを防ぐ効果が認められていますが、全てのタイプのHPVに対しての効果はないので、子宮頸がん検診は受けるべきといえます。
成人T細胞白血病リンパ腫は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)というウイルスに感染することが原因で起こる病気です。
血液・体液などを介して感染します。
また、母乳からも感染する可能性があるため、現在では、妊娠30週までに、妊婦に対してHTVL-1抗体のチェックが行われています。
その他には、現在定期的なチェックは義務付けられていません。
上咽頭がんやバーキットリンパ腫という悪性リンパ腫に、EBVというヘルペスウイルスの一種が関係しているということが明らかになっています。
EBVの感染については、HTLV-1と同様に定期的なチェックは義務付けられてはいません。
では、次に感染症によるがん予防の対策について提案していきます。
細菌やウイルス感染が原因となるがんに対しては、感染しないことが最も大切です。
とはいえ、現在では衛生状態が昔の日本よりもずっとよくなっており、医療の現場でも適切な感染対策が行われるようになっています。
そのため、日常の生活においては、例えば他人の血液に不用意に触れない、などに気を付けると良いでしょう。
肝炎ウイルスやピロリ菌に対しては、検査をしたことがない方については一度検査を行ってみることをおすすめします。
また、20歳以上の女性は2年に1回は子宮頸がんを受けましょう。
次は、企業レベルでできる対策についても提案していきます。
企業は従業員に対して、がんの予防などに関する健康教育を行い、ヘルスリテラシーを高めましょう。
がんの早期発見や予防に関する情報を共有し、従業員が自身の健康に対してより積極的に関わっていけるようにサポートできるとよいですね。
可能であれば、企業や健保で、従業員のがん検診の費用を負担することも有効と考えられます。
がん検診に関するメリットやデメリット、結果の解釈などがわかるような説明資料を準備することも、従業員ががん検診の理解を深める一助となります。
今回ご紹介した5つのうち、職域でのがん検診の項目に入っているのは、胃がん検診と子宮がん検診です。
胃がん検診については、ヘリコバクターピロリ菌検査は職域検診での推奨レベルは高くはないのですが、「個人の判断による受診は妨げない」とあります。
ヘリコバクターピロリ菌に感染しているかどうかの検査は、血液や便、息などを検査するというものがあります。
自治体によっては、ピロリ菌のチェックを無料で行うことができる場合もあります。
企業による職場の検診でも、希望者には検査をオプションで追加したり、難しい場合には自治体の制度を利用することを勧める、というのもよいでしょう。
これは、感染症との関連があるがん検診に限った話ではありませんが、従業員のがん検診の受診状況を把握を可能な範囲で行いましょう。
もしも精密検査が必要な場合には、受診勧奨を行うことが大切です。
がんは早期発見、早期治療すれば治る見込みが高くなり、職場復帰が早くなることも期待できるからです。
がんを予防するために重要な要素について解説しました。
そして、ウイルスや細菌の感染と関係があるがんについても述べました。
筆者は健康診断の問診や診察を行っていますが、今まで診察をしてきた女性受診者の中には、子宮がん検診で子宮頸がんが早期段階で発見され、治療が早く受けられたという方も数人いらっしゃいました。
がんは早期の段階では無症状のことが多いので、がん検診を受けることは重要です。
企業としても、感染対策ががん予防にも繋がるという意識を持つことは大切だと思います。
この記事が、皆さんの知識を深めるための参考になれば幸いです。
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行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。