コラム
メンタルヘルス

中途採用の新入社員がメンタルヘルス問題を抱えていたら?現場マネジャーがすべきこと

「メンタルヘルスの不調を抱えている転職者は、実はとても多いのではないか?」

これは、筆者が中小企業で採用活動に携わるなかで感じていたことです。中小企業であれば“採用活動の主軸は転職者からの中途採用”というケースも多いのではないでしょうか。となると、「中途入社してきた部下のメンタルヘルス不調が発覚」といった事態にも備える必要があります。本記事では、そんな“中途採用社員のメンタルヘルス”について考えていきたいと思います。

中小企業における中途採用とメンタルヘルス

冒頭で「メンタルヘルス不調を抱える転職者は多いのでは」と述べました。最初にその背景から見ていきましょう。

大企業でもない我が社に応募するには“ワケ”がある

そもそも転職する人は、「前職に問題や不満を抱えている人が少なくない」のがリアルな話です。

キャリアアップの目標とされるような大企業・有名企業は別としても、知名度や雇用条件が抜きんでているわけではない中小企業への転職理由は、きれい事ばかりではありません。中小企業が中途採用で人材の獲得を目指す以上は、メンタルヘルス不調の転職者を採用する可能性がある、といえます。

メンタルヘルス不調者を排除して優秀な人材を確保できるか

採用ノウハウとして、「メンタルヘルス不調がある人を見破って、不採用にするには?」「応募者のストレス耐性を、面接で見抜く手法」といったトピックを見かけます。

ですが、今回お伝えしたいのは、そういったニーズとは逆行するお話です。人権や差別の観点をいったん置いたとしても、筆者の実務経験では、「そんな視点で応募者を選別できるほど、現代の中小企業における人材獲得競争は甘くない」と痛感しているからです。

そもそもメンタルヘルス不調とは何か

話を先に進める前に、誤解のないよう“メンタルヘルス不調の定義”を確認しておきます。厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によれば、「メンタルヘルス不調」は以下のとおり定義されています。

精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう。

メンタルヘルス不調の定義

強い不安やストレスがある労働者「54.2%」

ここでデータを見てみましょう。厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、54.2%もの人たちが、強い不安やストレスと感じる事柄があると回答しています。この数字は、想像以上に多いと感じるのではないでしょうか。

強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合
厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)」を元に筆者作成

ワケあり人材を戦力化できる会社・できない会社

 まして求人に応募してくる人たちは“何らかの理由”で職場を去ることを決意し、転職活動中の身です。不安やストレスを抱えていないほうが珍しく、ある意味で誰もが「ワケあり」といえるかもしれません。

「メンタルヘルス不調者を、採用プロセスでどうやって排除するか?」に注力する企業と、「ワケあり・なしにかかわらず、自社に合う人材を獲得して、いかに戦力化するか?」に注力する企業。どちらの伸びしろが大きいのか、自明の理ではないでしょうか。

中途採用の部下がメンタルヘルス不調の時すべきこと

次に考えたいのは「中途採用の部下が入社した後でメンタルヘルス不調が表面化したらどう対応すべきか?」という視点です。

全体の利益から逆算する

考え方のベースとして、「全員にとって、ベストな結末は何か?」という観点を持っておくと、判断に迷いにくくなります。

会社にとっては戦力化してくれるのがベスト

会社にとっては、部下が健康を取り戻し、戦力化してくれるのがベストです。「メンタルヘルス不調を隠して入社した社員を、どうすれば解雇できるか?」との論点を見かけることもあります。

しかしながら、そもそも自社の採用選考プロセスに則って適性・能力を評価し、組織として「採用」と判断した人物のはずです。本来の力を発揮できれば会社に貢献する可能性が高く、まずは「本来の力を発揮できる方法を模索する」のが筋といえます。

最悪なケースを避ける

部下にとっても、新天地である転職先で自分の力を発揮し、活躍することがベストなはずです。と同時に「部下の心身の健康が損なわれないこと」が最優先となります。最悪なケースでは、命が失われることさえあるからです。

打ち明けやすい雰囲気をつくる

具体的にどう解決していくか検討するうえで、カギを握るのが「情報収集」です。

メンタルヘルス問題の難しさは、客観的な測定方法が確立しておらず、情報を本人から取得する必要があること、およびその情報は要配慮個人情報に該当することにあります。

本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

要配慮個人情報とは?

上司としては部下の意思を尊重し、自ら情報を打ち明けてくれるよう、その雰囲気づくりに徹することが必要です。

忙しそうな雰囲気を出さない

無意識にやってしまいがちなのが、部下に「忙しそうで声をかけにくい」と思わせること。普段は集中して仕事をするタイプの方も、「部下が話しかけやすい隙」を意図的に演出して、話を聞く余裕を態度で見せましょう。

土台を固めてから1対1で話す

雰囲気づくりの土台を固めてから、1対1で話す機会(面談、ランチなど)をつくると、部下は悩みを打ち明けやすくなります。雰囲気づくりなしに呼び出しても、部下は萎縮するばかりで本当のことを打ち明けられなくなるため、順序を意識してみてください。

戦力を見積もって上層部に報告する

マネジャーの立場では、部下への温かく思いやりある対応とは別に、頭の中で冷静な“損益計算”をすることも重要です。人命、およびそれに通ずる心身の健康は第一に優先すべき事項ですが、第二には会社の利益を考え、マネジャーとしての職務を果たすバランス感覚が求められます。

具体的には、部下の様子を観察し、「労働力」としてどの程度のパワーを期待できるか、見積もりを出しましょう。当初の予測に対して80%なのか、50%なのか、30%なのか…といった具合に数値化すると、上層部・経営陣との話もつけやすくなります。不足分を、一時的に派遣社員やアルバイトなどで補うのか、ほかの社員がフォローするのか、もう1名採用するのか…と、具体的なアクションを検討しやすくなるからです。

配置や接し方の工夫で戦力化を図る

部下を実際にどうサポートしていくかは、不調の内容や程度により大きく変わります。産業医など専門家と連携して、最善策を考えていきましょう。

勤務を継続できる場合(あるいは休養や治療の結果、その状態まで回復した場合)には、環境づくりがポイントとなります。ストレス反応を引き起こすストレス源のことを「ストレッサー」と呼びますが、ストレッサーへのアプローチ方法は、大きく3つに分けられます。

  • A. 問題の解決
    脅威となっている問題を解決する、あるいは脅威でなくなるようはたらきかける
  • B. 環境の変化
    ストレッサーのない環境、あるいは適度なストレッサーのある環境へ避難する
  • C. 思考しない
    思考のコントロールや認知的評価の修正によりあれこれ考えないようにする

そもそも転職は、「B. 環境の変化」にあたるストレス対処法です。うまくいけば、転職をきっかけとしてメンタルヘルス不調から抜け出せることも多いのです。筆者が見てきた限りでは、転職による環境の変化の後でメンタルヘルス不調がぶり返すのは、「前職のデジャブ」が多いようです。たとえば、以下が挙げられます。

  • 前職のパワハラ上司と、同性・同年代で似た雰囲気の上司のもとに配属された
  • 顧客からの執拗なクレームがストレスだったが、転職後も同じ状況が起きてしまった
  • 目標達成のプレッシャーから解放されたくて転職したのに、また同職種でノルマに追われている

逆にいえば、部下本人と十分なコミュニケーションをとれていて、「どんな環境を避けるべきなのか」の情報共有ができていれば、部下の力を発揮しやすい環境をつくれる、といえます。

さいごに

本記事では中途採用者のメンタルヘルスについて取り上げました。筆者自身も、メンタルヘルス不調に陥ったことがあります。その経験からいえるのは、「困ったときに助けになってくれた会社には感謝の気持ちが生まれ、恩を返したくなる」ということです。エンゲージメントが高まります。

その後、メンタルヘルス不調の部下たちをサポートする機会がありました。部下たちを見ても、回復後の定着率や活躍度は、めざましいものです。採用現場では、こころの病気に対する誤解や偏見が、まだまだ多く見られます。誤解や偏見は、転職者・応募者のみならず、会社の不利益となる公算が高いことを、お伝えしたいと思います。

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〈三島 つむぎ〉
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

   
       

         
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