目次
1on1やコーチング、メンタルコントロール……マネージメントの手法は数多くあり、部下のために試行錯誤している人は多い。
そのなかでもとくに多くの企業で取り入れられているのが、フィードバックだ。かんたんにいえばフィードバックとは、「相手の行動への評価を伝え、改善や成長をうながすこと」を指す。
さてこのフィードバックだが、多くのメリットがある一方で、やり方をまちがえると、相手を不愉快にしモチベーションを下げてしまう可能性もある。
というわけでさっそく、ネガティブとポジティブなフィードバックに関して、わたしの実体験を紹介していこう。
以前アルバイトをしていた横浜の結婚式場で、ある日、スタッフ全員の名前が書いてある紙が配られた。「その人について思うことを書いてほしい」とのこと。
Aさん、Bさん、Cさん……それぞれに対して思っていることを書いて、提出。後日、ほかの人がわたしに対して書いた人数ぶんのコメントを受け取った。
要は、相互評価タイプのフィードバックだ。
各コメントは匿名なので、だれがどれを書いたかはわからない。もちろん、自分のコメントも、相手には匿名で伝えられている。
匿名コメントであれば忌憚のない意見が集まり、普段言えないことも伝えられるはず……きっと、そんな意図で導入されたのだと思う。
しかし結果から言うと、「ただ不愉快」。
もらったコメントのほとんどは好意的だったが、ひとつネガティブなものがあった。それは、「接客が居酒屋ノリなことがある」というものだ。
実際わたしは居酒屋バイトと掛け持ちしていたから、言葉遣いがカジュアルすぎたのかもしれない。
そうは理解しつつも、正直な話、このコメントにはかなりムカついた。
というのも、「居酒屋ノリ」と言われても、具体的にいつ、だれに対する、どんな態度を指しているのかわからないのだ。
そもそもわたしとしては、「できるだけ明るく楽しい雰囲気に」と意識して、誠心誠意接客しているつもりだった。
「余興で楽器を演奏なさるんですね! きっと喜んでいただけると思います。何の曲を演奏されるんですか? あっそれはその時のお楽しみにしておいたほうがいいかな(笑)」のように。
そういったコミュニケーションを「居酒屋ノリ」と言われたら、たしかにそうかもしれない。でもそれは、悪いことなんだろうか。
そのコメントをした人にとっては好ましくないことだったのだろうが、こっちの言い分だって聞いてほしい。そうは思うものの、匿名コメントだから反論も説明もできない。
納得がいかないネガティブ・フィードバックを受けたわたしの頭を占めていたのは、「だれがこれを書いたんだ……?」というモヤモヤだ。
にこにこと一緒に働いているこのスタッフのなかに、わたしへのネガティブコメントを書いた人がいる。いったいだれが? なんだかもう、だれも信じられない……。
各コメントを参考に上司が面談するならまだわかるが、なぜコメントを直接配ってしまったのだ……。
しかもこのコメント用紙、スタッフ全員の名前が書いてあるから、必然的に自分の名前の欄は空欄になる(自分自身へはコメントしないから)。つまり、回収した上司だけは、だれが書いたのかわかるのだ。
上司はきっと、ネガティブなコメントは一切もらってないんだろうな。ああ、しょーもない。
とまぁこんな感じで、受け取ったフィードバックでモチベーションが思いっきり下がったわけだが、わたし自身もよろしくないフィードバックをしていたので、人のことは言えない。
実は当時、内心あまり好きではない人がいた。社員のAさんだ。
その結婚式場は大型モールのなかにあり、休憩室はほかのテナントで働いている人と共通。別のレストランで働いている友だちと偶然休憩が重なったので、ワイワイおしゃべりしていたときのこと。
そこにAさんがやってきて、「休憩室にいる人は将来お客様になるかもしれないから、休憩室でも気を抜かずに丁寧な言葉遣いをしてね」と注意されたのだ。
えっ、休憩中に気を抜いてなにが悪いの?
納得しないまま「はぁ……すんません」ととりあえず謝ると、Aさんはわたしを注意したその足で喫煙室に行き、制服でタバコを吸い始めた。
休憩中でも丁寧な口調を求めるクセに、自分はタバコのにおいをぷんぷんさせて接客するの?とドン引き。
……という一件があったので、Aさんの欄には、「タバコ臭い人がなにを言っても説得力がない」とコメントした(喫煙者が悪い、というわけではなく、あくまで「結婚式場」の「制服」で喫煙することに対する意見である)。
書いた本人のわたしがいうのもおかしいが、こんなコメント、果たしてAさんのためになるんだろうか?
たぶん、「こんなふうに思われてたんだ……」とショックを受けるか、腹が立つだけだろう。「居酒屋ノリ」というネガティブ・フィードバックを受けてモチベを失ったわたしと、同じように。
フィードバックは、ただ「自分が相手をどう思っているか」を伝えるだけでは意味がない。受け取る本人が納得できる内容かつ、次につながるものでなくてはいけないのだ。
相手のためにならないネガティブなフィードバックは、ただの悪口である。
では納得してもらうためには、どう伝えるのがいいか。
それは、「客観的事実」に対し、「実際の結果」と「主観的な評価」を伝え、「次はどうするべきかの提案」を順序だてて説明していくことだろう。
わたしの「居酒屋ノリ」の例でいえば、
事実→このときこういう言葉遣いをした
結果→結婚式場の雰囲気に合わない、ほかの人の接客とちがって浮いている
評価→居酒屋ノリはよくない
提案→接客態度は問題ないが言葉遣いをもう少しフォーマルに
のように。
こう言われればわたしも納得するし、具体的に、なぜ、どこを改善するべきかも理解できる。
だれだって、ネガティブな評価なんて聞きたくない。
だからこそ伝える側は、客観的な事実と主観的評価を分けて伝え、相手の話を聞きながら、納得してもらえるように最善を尽くさなくてはいけない。
それを怠れば、相手はへそを曲げ、モチベが下がり、最悪離職に至る可能性すらある。
そういう意味で、ネガティブ・フィードバックは、上司が責任をもって伝えるべきなのだ。
さて、ではポジティブなフィードバックならどうだろう?
ネガティブなフィードバックは「上司が丁寧に伝えるほうがいい」と思うが、ポジティブなフィードバックに関しては、個人個人が伝えるほうがいいと思っている。
以前別の職場で、「褒めカード」なるものがあった。
スタッフを褒めるカードを毎月3枚書いて提出し、月初に上司がまとめて本人に渡すのだ。
たとえばAさんが、お子様連れのお客様を接客中、かがんで子どもに話しかけていたとする。
わたしは自分の名前入りの褒めカードに、「Aさんの子どもへの接客がよかった」と書く。それをAさんは、翌月のはじめに上司からもらうのだ。
数行のコメントが書かれただけの小さなカードだが、これが意外とうれしいもので、「話したことなかったけど、あの人は自分のことを見てくれていたんだ……!」「小さな気遣いに気付いてくれる人もいるんだな」と、かなりモチベーションが上がった。
上司から褒められるのももちろんモチベアップにはなるが、「まわりの人たちに認められている!」というのも、自己肯定感が爆上がりする。
だからポジティブなフィードバックは、お互い直接伝えられるシステムがあるといいと思う。ほかの人のいいところを意識的に探すので、まわりの仕事ぶりを観察するようにもなるし。
(ちなみにもう10年近くも前の話だが、当時もらった褒めカードは未だに机の引き出しに保管している)
フィードバックは相手への評価を伝えるという性質上、受け取る側の気持ちを十分に考慮しなくてはいけない。
ポジティブなフィードバックであれば、お互い伝え合うことで、一体感や信頼関係が生まれていくだろう。
一方、ネガティブなフィードバックは、取扱要注意だ。
ネガティブな意見を伝えるときは、まわりの意見を吸い上げてしっかり整理したうえで、客観的事実と主観的評価を分けて伝え、相手の意見を聞き、改善方法も一緒に伝えないといけない。
相手が納得して次につなげようと思うことではじめて、フィードバックに意味が生まれる。
そのため、ポジティブな評価とネガティブな評価は別物として扱い、それぞれ適した方法でフィードバックするのがいいだろう。
少なくとも、疑心暗鬼になる匿名相互フィードバックなんて、絶対にやってはいけない。
産業医に関する課題解決はメディカルトラストへ!
株式会社メディカルトラストは、1,000事業所以上の産業医選任・50名以下の小規模事業場の支援を含めると2,000以上の事業場に選ばれ、業歴20年以上の経験と実績で、幅広く産業保健のサポートをしています。
産業医サービス 全国医師面談サービス 保健師・看護師サービス ストレスチェックサービス
お困りのこと、お悩みのことがございましたら、まずは気軽にご相談ください!
〈雨宮 紫苑〉
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。