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新型コロナウイルス、5類指定で何が変わる?感染症の分類と企業が採るべき対応を医師が解説

感染症法、という言葉を耳にしたことがある方はいらっしゃるでしょうか。日本では、感染症は「感染症法」という法律に基づき、一類から五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、そして新感染症に分類されています。

今回は、それぞれの感染症についてどのようなものがあるのか、就業制限の対象となるのはどんな感染症かについて、解説していきます。

日本では感染症はどのように分類されている?

はじめに、日本で感染症を分類している法律やどのような感染症があるのか見ていきましょう。

(1)感染症法とは?

日本には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」)という法律があります。
感染症法は、感染性が強く、生命および健康に重大な影響を与える感染症を指定し、その予防・まん延防止について規定した法律です。

法律の対象とする感染症を感染力や症状の重さなどに基づいて、一類感染症から五類感染症に分類し、さらに指定感染症や新感染症についても定めています。 

(2)感染症法で規定されている感染症は?

では、感染症法ではどのような分類がなされているのでしょうか。

1.一類感染症

感染力や、これらに感染した際の症状の重さから、危険性が極めて高い感染症が指定されています。
エボラ出血熱や、クリミア・コンゴ出血熱、ペストなどがあります。
一類感染症がもし国内で発生した場合は、患者や無症状の保菌者、疑いがある方についても入院をするように要請したり、建物などへの立ち入り制限・封鎖、交通制限を行うことができるようになります。

・参考:感染症法に基づく主な措置の概要

2.二類感染症

一類ほどではありませんが、感染した際の症状の重さから、危険性が高い感染症です。
過去に流行したコロナウイルス(SARSやMERS)と新型の鳥インフルエンザウイルスはいずれもこの2類に分類されています。
結核もこちらに含まれます。正岡子規や宮沢賢治といった著名人が患った病気であることで、ご存知の方もいるでしょう。

3.三類感染症

集団食中毒など、主に食べ物や飲み水を介して集団発生し、多くの感染者を発生させる可能性のある、腸管感染症が対象となっています。
日本でも集団食中毒で話題となる腸管出血性大腸菌感染症や、アジアからの輸入感染症として比較的頻度の高い赤痢や腸チフスなどが分類されます。

4.四類感染症

四類は少々特殊で、「人畜共通感染症」と呼ばれ、動物や虫などを介して人に感染する感染症の一群のことです。
例えば、東北地方でマダニに噛まれることで感染するリケッチア感染症(ツツガムシ病)や、北海道で野生のキツネを触ることで感染するエキノコックス症、蚊により媒介されるマラリアや日本脳炎などが挙げられます。

5.五類感染症

危険度はさほど高くないものの、感染拡大を防止すべき感染症です。国が感染症発生動向調査を行い、流行状況情報を公開しています。
麻疹(はしか)や風疹、おたふく風邪や水ぼうそう、手足口病やインフルエンザなど、しばしば流行が見られ世の中では比較的よく耳にする身近な感染症が含まれています。
五類感染症は、就業制限や行動制限等の法的な拘束力はなく、感染予防の方法や隔離を実施するかどうかは患者さん自身の判断となります。

6.新型インフルエンザ等感染症

一般に、現在の国民の多くが、これらの感染症に対する免疫を獲得していないことから、全国で急速なまん延によって、国民の生命や健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものを指しています。新型インフルエンザや、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナと表記)が含まれています。

ところで、メディアなどで新型コロナが「二類相当」と表現されているのを耳にしたことがあるかもしれません。
これは、患者や擬似症(その感染症と確定している訳ではないが、疑わしい人のこと)に対して、入院を要請できる点や、就業制限をかけられる点など、厳しい法的な措置を行えることから、そのように表現されているものと思われますが、実際には二類ではありません。

参考までに、2023年1月現在の厚生労働省による感染症の一覧を示します。
【感染症法における感染症の分類】厚生労働省より

また、この他にも新感染症、また指定感染症というカテゴリーがありますが、これらに該当する感染症は現時点ではありません。以下のように定義がされています。

分類指定されている感染症分類の考え方
指定感染症※政令で指定   現在感染症法で位置付けられていない感染症について、1~3類、新型インフルエンザ等感染症と同等の危険性があり、措置を講ずる必要があるもの
新感染症人から人に伝染する未知の感染症であって、罹患した場合の症状が重篤であり、かつ、まん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあるもの
引用:感染症法の対象となる感染症の分類と考え方

企業に関係してくるのは、「就業制限」の有無

ここまで、日本での感染症の分類について解説してきました。
ここからは、企業において特に関係があると考えられる、「就業制限」について見ていきましょう。

(1)就業制限とは何か

就業制限とは、感染症法に基づき、感染症を公衆にまん延させるおそれがなくなるまでの期間、就業を制限するものとされています。

(2)どんな感染症が就業制限の対象となる?

就業制限の対象は、一類感染症の患者及び二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者とされています。

また、労働安全衛生法で、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。」とあります。

このように複数の法律によって、企業に対して感染症のまん延を防ぐための規定が設けられています。
一類、二類感染症は、周囲の人に感染を広げた場合のリスクを考えて、仕事をすることが制限されます。この場合、仕事の内容は問いません。

一方、腸管感染症が分類に含まれる三類感染症は、排菌している間(菌を排出していて、人に感染させる可能性のある間)は、飲食の調理などに従事することを規制します。
飲食店や調理の仕事の場合は、三類感染症に罹患した人は仕事をお休みすることになります。
感染症の特性に合わせて、制限される仕事にも違いがあるのです。

新型コロナ感染症の今と今後について

ここからは、新型コロナの現在の位置づけと、今後について述べていきたいと思います。

(1)新型コロナのこれまでの法的な位置づけは?

以下の図で、新型コロナに関係するさまざまな対応を示します。下線が引いてあるものは、法の裏付けがあるものです。

新型コロナウイルス法律上の位置づけ
引用:新型コロナウイルス感染症の 法律上の位置づけ見直しについて p3

新型コロナは、2020年より日本国内で流行が始まり、当初は「指定感染症」に分類されていました。
次第に、新型コロナの特性がわかってきたこともあり、2021年2月に、法的なカテゴリーが「新型インフルエンザ等感染症」へと変更されます。
行動自粛や緊急事態宣言は感染症法に基づくものではなく、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を法的根拠にしています。

(2)今後の見通しは?

2022年11月以降、専門家による新型コロナの見直しに向けた議論が進められていました。

そして、2023年1月20日の総理会見では、原則として、2023年の春、新型インフルエンザ等感染症から外し、五類感染症とする方向とする方針を表明しています。以下の点が、今後変更になる見込みです。

  • 患者や濃厚接触者の外出自粛について
  • 医療提供体制や、公費支援

一方、ワクチンについては、類型の見直しにかかわらず、予防接種法に基づいて実施する方針とも述べられています。
新型コロナが五類感染症となった場合には就業制限はないので、感染していると判明していても、職場へ出勤することに法的な問題はありません。

また、濃厚接触者に対しての自宅待機期間も法的な規定はなくなります。
感染した場合の治療費については、通常の病気と同じように、保険診療となるでしょう。

ワクチンについても、現在は、全額公費負担ですが、五類感染症となる場合はその限りではなく、定期接種などにならない場合は自費での接種になる可能性もあると考えられます。

しかし、感染症法上の分類が変わっても、ウイルスの性質が変わるわけではありません。新型コロナは、高齢者や持病のある方に感染すると重症化のリスクが高いことが知られています。
(参考:新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 第8.1版 p12

企業においては、感染症の分類が変わっても、引き続き油断をせず、対策をとっていくことが大切です。

まとめ

今回は、感染症とは何か、どんな感染症があるのか、就業制限の対象となるのはどんな感染症か、について解説しました。
また、新型コロナウイルス感染症のこれまでと今後についても述べました。
企業は多くの人が集まる場ですので、感染症に対しては、油断せずに今後も取り組んでいくようにして下さい。

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〈nishicherry2480〉
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

   
       

         
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