コラム
産業医を採用するにあたって
産業医

産業医を採用するには

従業員の健康の維持増進や従業員が安全で快適に働ける職場環境づくりにおいて、産業医の役割は重大です。そのため選任義務があるからとただ採用するのではなく、職務を十分に果たしてくれる産業医を見つけて採用できれば、企業にとっても従業員にとっても大きなメリットがあるでしょう。また自社のニーズに合った産業医を選任することで、産業保健分野のさまざまな課題の解決にもつながるはずです。

では具体的にはどのように産業医を探せばよいのでしょうか。自社にとって最適な産業医を採用するために必要な準備から契約までの流れ、注意点などを解説していきます。

産業医の採用が必要な理由

産業医の採用が必要な理由は、まず一つ目に法律において定められているからです。労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令第5条により、常時使用する従業員が50人以上の事業場には産業医の選任が義務付けられています。労働安全衛生規則第13条第1項には、選任すべき事由が発生してから14日以内に選任する旨が定められています。

二つ目には、事業者にとって産業医の意見や役割は重要であるという点が挙げられます。産業医は産業保健に関する専門的な知見を持つ医師です。従業員の健康状態について医学的視点と職場環境とを照らし合わせて述べられる産業医の意見は、事業者が判断を行う際に大きな手がかりになるでしょう。事業者は産業医の意見を聴くことで、従業員の安全に配慮した適切な措置を講じることが可能になります。

また産業医を選任すれば、従業員が産業医との面談や相談を通じて日頃から健康やメンタルヘルスに関するアドバイスを受けられるようになります。産業医の採用が必要な理由の3つ目として、この点が挙げられるでしょう。産業医は事業者と従業員の間で中立の立場をとります。職場環境の改善を進言するなど事業者に働きかける一方で、必要に応じて従業員と面談をするなどして、従業員の心と体の健康と安全をサポートしてくれます。従業員が身近な存在に感じられる産業医を採用できれば、面談や相談の実施頻度も増えるでしょう。

産業医の採用が必要な理由を3つ挙げてきましたが、そのどれもが従業員の健康の維持、増進につながるものです。少子高齢化問題や労働人口の減少が叫ばれて久しい昨今、既存の労働力を長期的に維持していく戦略は重要です。従業員に長い期間働いてもらうためには健康を維持することが不可欠であり、そのための取り組みには産業医の知見が大いに活用できます。

健康状態を長期間、良好に保つことで人生の幸福度も高まる傾向にあります。幸福度が高まるとメンタルヘルスも安定しやすく、業務に対するモチベーションも保たれやすくなります。健康維持への取り組みにより生産性が向上するという良好なサイクルが生まれやすくなるでしょう。

従業員50人未満の事業場では産業医の選任義務はありません。しかし次のような場合には産業医の採用を検討するとよいでしょう。

  • 従業員の健康を守る健康経営を実現したい
  • 従業員の幸福度を高めたい
  • 労働力の長期的確保を実現したい
  • メンタルヘルス対策を整えたい
  • 職場環境を専門的視点からみてもらい改善のアドバイスを求めたい

参考)一般社団法人 スマートシティ・インスティテュート「地域幸福度(Well-Being)指標 先行調査結果に基づくアップデート」p.8、14

次からは、企業にとって頼れる産業医を採用するために必要な準備から採用までの流れを解説していきます。

準備:産業医を探し始める前に知っておくべきこと

産業医を探し始める前に知っておくべきこととして、次の3つが挙げられます。

  1. 産業医の選任期限
  2. 産業医の選任基準
  3. 産業医に対する自社のニーズ

それぞれについて詳しく解説していきます。

産業医の選任には期限がある

産業医の選任には期限があります。

“産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。”

引用)e-Gov 労働安全衛生規則第13条第1項第1号

事業者は産業医の選任が必要になる条件を満たした日から14日以内に、産業医を選任しなければなりません。例えば、新規採用により従業員数が50人を超えたのが4月1日だとした場合、4月14日までに産業医を選任します。良い産業医と契約するためには、選任条件を満たしてから慌てて探し始めるよりも、従業員が50人を超えそうな時期を見越して早めに探し始めると良いでしょう。

また事業場に常駐する専属の産業医を採用したい場合は、さらに注意が必要です。産業医の転職には引継ぎ期間を含めて最低3カ月が必要であるといわれています。つまり企業に在籍しながら転職活動をしている産業医と話がまとまった場合などには、自社で働いてもらうまでに、少なくとも3カ月は待たなければなりません。産業医の採用活動は早めに開始することが重要です。

産業医の選任基準を確認する

産業医を探し始める前に、産業医の選任基準を確認しておきましょう。産業医を選任する際には、選任すべき人数や産業医の勤務形態などを把握しておくことが大切です。

採用する産業医の人数

採用する産業医の人数は、事業場の規模に応じて異なります。また次の項目で詳述しますが、事業場の規模により産業医の勤務形態にも違いがあります。

従業員数産業医の人数産業医の勤務形態
50人未満     産業医の選任義務はなし
50~499人     1人       嘱託(非常勤)でも可
500~999人1人嘱託(非常勤)でも可  特定業務(※)に常時 500 人以上が従事する場合は専属(常勤)の産業医が必要
1,000~3,000人1人専属(常勤)の産業医が必要
3,001人~2人専属(常勤)の産業医が必要
※労働安全衛生規則第13条第1項第3号に記されている主に危険物や有害物を取扱う業務

産業医を選任する基準となる従業員(事業場で常時使用する労働者)には、継続的に雇用されているパートやアルバイト、派遣社員などの非正規労働者も含まれます。

参考)厚生労働省「産業医について~その役割を知ってもらうために~」
参考)e-Gov 労働安全衛生規則第13条

産業医の種類「嘱託産業医」と「専属産業医」

産業医の種類には「嘱託産業医」と「専属産業医」の2種類があり、主な違いはその勤務形態にあります。それぞれを詳しく解説します。

【嘱託産業医】

事業場に常勤はせず、月に1回〜数回事業場を訪問し、職務に当たります。嘱託産業医の多くは病院やクリニックなどの医療機関で働きながら、1社ないし複数の企業と産業医契約を結んで活動しています。

医療機関で働きながら産業医として活動している場合、日頃から多くの患者や医師と関わっているため、広い視点と豊富な実務経験による活動が期待できるでしょう。また、常勤していないことにより、事業場や従業員を客観視しやすい場合もあり、事業場の小さな変化に気づいてもらいやすいという点も嘱託産業医の特徴の一つです。

【専属産業医】

専属産業医は選任された事業場に常勤する産業医です。事業場に常駐するため、職場環境を細かく把握してもらえる他、従業員と関わる機会も多く信頼関係を構築しやすいのも特徴です。産業医と従業員との信頼関係が構築できれば、従業員のメンタルヘルス不調が起きたときにも相談しやすくなり、休職や退職などのリスクも低減できる可能性が高まります。コミュニケーション力が高く、メンタルヘルスに強い産業医を選任できると、専属産業医のメリットを最大限に生かせるでしょう。

また事業場に常駐していることにより、経営層と産業医の連携が取りやすくなるのも大きなメリットです。産業医が経営方針を理解しやすく、企業の健康経営をスムーズに進めやすくなります。

事業場のニーズを把握する

事業場のニーズを把握することは、産業医を探し始める前に行っておくべき重要な事柄の一つです。産業医に行ってもらいたいことを明確にし、そのニーズに合った得意分野や強みなどを持つ産業医を探さないと、想定していた業務が行われないといった事態に陥る可能性が出てくるでしょう。

医療機関での実務経験や産業医としての知識や経験、本人の人柄など、産業医それぞれに得意分野や強みは異なります。そういったことを何も考慮せずに産業医を選任してしまうと、例えばメンタルヘルス対策を強化したいと考えていたのにコミュニケーションが苦手でメンタルヘルス分野の知識や経験が乏しい産業医だった、などということが採用後に発覚するケースもあるでしょう。

自社のニーズを把握し、求める産業医像を明確にすることで、経験や人柄を考慮しての選考が可能になり、ミスマッチを防ぐことができます。

探す:産業医の採用方法

産業医採用にあたっての依頼・相談

産業医の採用方法には、主に次の5つの方法があります。

  1. 健康診断を依頼している健診機関に相談する
  2. 近隣の診療所などに相談する
  3. 知人などに紹介してもらう
  4. 地域の医師会に相談する
  5. 産業医紹介サービスに紹介してもらう

5つの方法について、それぞれ解説していきます。

健康診断を依頼している健診機関に相談する

健康診断を依頼している健診機関に相談すると、在籍している医師の中に産業医の資格を持つ医師がいる場合があり、産業医として紹介してもらえる場合があります。

もし産業医を紹介してもらうことができれば、健診機関では従業員の健康診断データを所持しているため、健康状態の数値的変化をいち早く察知できたり、健康管理を行いやすくなったりするでしょう。健康診断の実施や実施後の保健指導、意見聴取など、健康診断にまつわる一連の流れを総合的に見てもらえる点も大きなメリットです。

ただし健康診断が集中する時期は健診機関において医師が多忙になるため、産業医面談などをお願いする場合に、事業者が希望するスケジュールにならない場合もあります。

近隣の診療所などに相談する

近隣の診療所などに相談すると、産業医資格を持つ医師が見つかり、事業場の産業医を引き受けてもらえる場合があります。

診療所やクリニックなど医療機関の医師は常に第一線で患者と向き合っているため、豊富な実務経験を持つ人も多く、また高いコミュニケーション力も期待できます。ホームページなどに産業医に関する内容を記載している医療機関もあるため、確認してみるとよいでしょう。

知人などに紹介してもらう

知人などに紹介してもらうと、信頼関係を築きやすい産業医を見つけられる可能性が高いでしょう。知り合いの経営者や取引先などに相談して紹介してもらえると、その産業医に対する知人の率直な意見を聞くことができます。紹介であるため人となりも掴みやすく、もし採用に至れば信頼関係を築きやすいでしょう。

ただし知人の紹介だから、人柄が良いからといった理由だけで選任するのは避けましょう。産業医としての経歴や実績、自社のニーズに合う専門知識を持っているかどうかといった点についてもあらかじめ確認が必要です。採用後に自社に合わなかったことに気づき、解任する事態になってしまうと、相談した知人に不快な思いをさせてしまう可能性もあります。

地域の医師会に相談する

地域の医師会に相談すると、産業医の資格を持つ地元の医師を紹介してもらえる場合があります。各都道府県や地域には地域住民の健康を守るために、地域の医療や保健活動に取り組む医師会が存在し、医師会の中には産業医を紹介してくれるところがあります。全く知らない医師よりも地元で医療活動を行う医師を紹介してもらえるほうが安心できるという場合もあるでしょう。

紹介してもらった産業医との契約は企業との直接契約になる場合が多いため、業務内容を取り決めたり契約書を準備したりするなど、契約締結までに時間を要する場合があります。また支店などがあり、異なる地域で産業医を選任する必要がある場合は、支店 (地域)ごとに探さなければなりません。

産業医紹介サービスに紹介してもらう

産業医紹介サービスに紹介してもらうと、産業医探しから契約締結までを任せられる他、採用後の産業医との連携や調整、運用のサポートを行ってもらえる場合があります。業種に適した得意分野を持つ産業医、メンタルヘルスに強い産業医など、産業医を選ぶ際には自社の要望に寄り添った産業医探しをしてもらえるでしょう。

産業医紹介サービスを活用する際は、産業医を探す際のあらゆる手間を削減できる分、紹介料金がかかる場合があります。紹介会社によって料金やフォロー体制などが異なるため、各社の特徴を調査し、見積もり取って比較したりしてみましょう。

面談:採用面接での産業医への確認事項

産業医の採用面接

採用面接での産業医への確認事項は、あらかじめ決めておくと面接がスムーズに行えるでしょう。次のような点を確認し、またどんな点を重要視するか決めておくとミスマッチを防げるでしょう。

  • 産業医としての実務経験と実績、得意分野
  • 産業衛生や産業保健に関する資格の有無
  • 人柄や雰囲気、従業員が相談しやすいか
  • 産業医としての考え方や業務の進め方
  • 従業員との面談で気をつけていること
  • 対応可能な業務、関与の程度
  • 従業員からのメンタルヘルスに関する相談など、相談事例を一例挙げてどのように話を進めるかといったことなどを質問・確認する

上記のポイントを面接時に聞くことで、産業医の実務経験から人柄、コミュニケーション力までを一通り確認できます。これらの中で自社が求める産業医に必要なものは何か、経歴か人柄かといったことが明確になっていれば、採用決定の判断をよりしやすくなるでしょう。

採用:産業医との契約時の注意事項

産業医との契約時の注意事項には、主に次の4点が挙げられます。産業医の採用が決定したら、次の点に留意しながら契約の締結を進めていきましょう。

  1. 契約形態を確認する
  2. 契約書を準備する
  3. 契約期間を決める
  4. 産業医選任届を提出する

それぞれの注意点について解説していきます。

契約形態を確認する

契約書を作成するために、まず契約形態を確認します。産業医との契約形態は主に「雇用契約」か「業務委託契約」の2種類です。

【雇用契約】
雇用契約は、労働者が雇用主のもとで労働に従事し、雇用主が労働に対する賃金を労働者に支払うことを約束する契約です。産業医と雇用契約を結ぶ際は、多くの場合、正社員ではなく契約社員、もしくは嘱託社員としての契約になります。医療業界では兼業する働き方が一般的であり、専属産業医として採用する場合でも、正社員として契約できないことがあります。

【業務委託契約】
業務委託契約は、特定の業務を外部に委託し、その対価として受託者に報酬を支払う際に受託者と結ぶ契約です。そのため業務委託契約を結んだ産業医が契約書にない業務を拒否するケースもあります。業務委託契約を結ぶ際は依頼する業務内容や報酬などの条件を入念に確認して契約書を作成し、トラブルを防ぎましょう。

産業医紹介サービスなど産業医の斡旋サービスを利用する場合は、「紹介会社と企業との契約」、または「紹介後に産業医と企業との直接契約」の2つのパターンがあります。

契約書を準備する

契約書を準備する際は、産業医に求める業務を遂行してもらうため、トラブル防止のためにも、抜け漏れがないよう丁寧に作成することが大切です。次に挙げるのは業務委託契約を結ぶ際に、契約書に明記すべき基本項目です。業務委託契約書を作成する際には忘れずに記載するとよいでしょう。

【業務委託契約書の基本項目】

  • 産業医選任:どこの事業場についての選任か
  • 職務内容:産業医に取り組んでもらう業務内容など
  • 企業の責務:産業医の円滑な業務遂行のために協力する旨を記載する
  • 情報の取り扱い:健康診断などで知り得た個人情報の取り扱いや注意について
  • 報酬:支払う報酬額の算出条件や支払日など
  • 補償:業務中などに起こった損害に対する補償内容について
  • 契約の有効期間:契約の有効期間、解約条件について
  • 反社会勢力:反社会勢力と関与しないことや罰則について
  • 協議:契約書外の事項はお互いの協議、指定の裁判所で行うことを記載

基本的な項目が記載された契約書のフォーマットは、さまざまな医師会がHP上で公開しており、ダウンロードが可能です。

また顧問弁護士などに過去のトラブル事例などを確認し、産業医と結ぶ契約書に追記したほうがよい項目があるか尋ね、あれば記載しておくとよいでしょう。万が一のトラブル時により対処しやすくなります。

参考)日本医師会「産業医契約書の手引き」
参考)公益社団法人 福岡県医師会
参考)公益社団法人 千葉県医師会

契約期間を決める

契約期間を決めることも重要です。産業医との契約期間の多くは1〜2年です。長期的に選任することを前提とする場合は、契約の自動更新を記載するケースもあります。自動更新する場合は契約期間満了前に産業医と話し合う機会を設け、産業医の活動内容や契約内容についてのすり合わせを行うと、以降の産業医の活動が企業の求める内容により近づいていくでしょう。

契約を結んだら産業医選任届を提出する

産業医と契約を結んだら産業医選任届を管轄の労働基準監督署に提出します。提出方法は直接持参する方法、郵送する方法、電子申請する方法の3種類です。電子申請をする際は「e-GOV電子申請」よりアカウントを作成することで申請できるようになります。

選任届を提出する際に必要なものは、「産業医選任報告書」と「産業医の医師免許のコピー」、「産業医証明書類」の3点です。産業医選任報告書は労働基準監督署の窓口で入手するか、厚生労働省のHPからダウンロードします。

厚生労働省の入力支援サービスを活用すると、オンライン上で書類の作成が可能です。入力支援サービスで入力した書類はそのまま電子申請できるものではないため、入力が完了したら印刷して労働基準監督署に提出しましょう。

産業医選任報告書のダウンロード:厚生労働省|総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告
産業医選任報告書のオンライン入力:厚生労働省|労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス

まとめ

自社にマッチした産業医を採用するには、「産業医に何を求めるか」を明確にすることが重要です。産業医を採用する際の準備や注意点をあらかじめ把握し、面談で産業医像を具体化させることで、採用可否の判断に迷いが生じにくくなります。

産業医を探す方法は複数ありますが、多くの産業医が登録している産業医紹介サービスを活用すると、求める産業医を効率よく探せるでしょう。

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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

   
       

         
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