コラム
復職者への支援
産業医

復職してもまた休職してしまう社員への適切な復職支援

厚生労働省が公表した「令和3年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」によると、仕事や職業生活に関する強いストレスを感じる労働者が、全体の約半数を占めていることがわかります。

(参考:厚生労働省 「令和3年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」

メンタルヘルス不調を引き起こして休職する労働者も少なくありません。復職した後も症状の再発・悪化などによって再び休職する従業員もみられます。中には自己判断で復職する従業員もみられるため、休職と復職の繰り返しを防ぐには産業医の適切な関与が重要です。

この記事では、休職と復職を繰り返す従業員への支援の必要性や職場復帰支援の流れ、復職支援における産業医の役割について解説します。

休職と復職を繰り返す従業員への支援の必要性

メンタルヘルス不調による休職と復職を繰り返す従業員への支援は、経営リスクを軽減するためにも重要です。支援の必要性について簡単に解説します。

メンタルヘルスの不調は再発しやすい

メンタルヘルス不調は仕事やプライベートなどさまざまな要因で起こり、しかも再発しやすいといわれています。例えばうつ病の場合だと、初めて発病した人の60%が再発し、再々発の確率は70〜90%という研究データもあります。

(参考:山本哲也他「反復性の大うつ病エピソード経験者が示す認知的反応性の特異性(心理学研究 2014年第85巻第1号 p.29–39)」

しかし、職場でもメンタルヘルス不調の再発防止を念頭においた支援を行うことで再発率を抑えられる可能性があります。再発を繰り返す従業員には、慎重な復職可否の判断や復職後の働き方への配慮など、企業・組織ができる範囲で丁寧な支援を進めていくことが重要です。

経営リスクの起こる可能性が生じる

メンタルヘルス不調の従業員への支援は、経営リスクの軽減にも効果を発揮します。

休職者が出ると他の従業員の業務量が増え、モチベーションが低下したり働く環境が悪化したりする可能性があります。従業員の退職による、生産性の低下やノウハウ流出のリスクが高まる点にも注意が必要です。さらに、業務が原因でメンタルヘルス不調が生じたと判断された場合には、事業者が安全配慮義務を果たしていないと従業員から主張され、損害賠償請求を受ける可能性もあります。

善管注意義務の観点からも、休職と復職を繰り返す従業員には事業者として細やかな支援・対応が必要といえます。

職場復帰支援の流れ

休職した社員への職場復帰支援の流れは、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の中で5つのステップとして公開されています。

(参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」

  • 第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア
  • 第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
  • 第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
  • 第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
  • 第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ

復職後に再び休職した従業員が職場復帰する際にも本手引きを参考に、適切な復職支援を行うとよいでしょう。それぞれのステップについて、具体的に解説していきます。

第1ステップ・病気休業開始及び休業中のケア

職場復帰支援の第1ステップは、病気休業開始及び休業中のケアから始まります。

メンタルヘルス不調の従業員から休職に関する診断書の提出があった段階で、安心して休職できるよう以下の情報提供を行います。

  • 休職できる最長期間
  • 傷病手当金の手続き方法
  • 休職中の連絡窓口と定期連絡の方法
  • メンタルヘルスに関する相談窓口

休職中の定期連絡の際には、本人の体調確認や社内の状況に関する情報提供を行います。オンライン会議システムやSNSのビデオ通話を活用するなど、休職者の体調に合わせて柔軟にケアを進めていくのがポイントです。

第2ステップ・主治医による職場復帰可能の判断

職場復帰支援の第2ステップは、主治医による職場復帰可能の判断が必要になります。

休職者から職場復帰したいと申し出があったら、復職できると記載された主治医の診断書を提出してもらいます。復職時点で働ける時間数や業務内容といった、就業上の配慮についても明記してもらうのがポイントです。

休職者の同意が得られれば、主治医と連絡を取り合ったり本人の受診時に同席したりすることも可能です。主治医によっては職場の担当者(人事労務担当者や休職者の上司など)だけでの面談に対応してくれる場合があります。面談料金がかかる場合には、職場復帰支援の一環として会社での負担を検討してもよいでしょう。

第3ステップ・職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

職場復帰支援の第3ステップは、職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成をするフェーズです。

主治医の診断内容と休職者本人の希望を踏まえて、人事労務担当者と休職者の上司などと連携しながら事業者として職場復帰の可否を判断します。本人の同意を得て、家族との話し合いを持つのも一つの方法です。

職場復帰ができると判断した場合は、以下の内容を盛り込んだ職場復帰支援プランを作成します。職場復帰支援をスムーズに実施できるよう、主治医や産業医からプランの妥当性について意見を求めるのが大切です。

  • 職場復帰日
  • 現場として可能な就業上の配慮内容
  • 人事労務管理の一環として対応できる内容
  • 復職後のフォローアップ体制

第4ステップ・最終的な職場復帰の決定

職場復帰支援の第4ステップは、第3ステップで作成した職場復帰支援プランをもとに職場復帰に関する最終的な決定を行い、休職者に通知することになります。

職場の現況を確認して復帰後のイメージを作りやすくするために、面談形式での通知が効果的です。再び休職する状況にならないよう、現時点での症状や服薬状況、希望する配慮について再確認しておきましょう。

第5ステップ・職場復帰後のフォローアップ

職場復帰支援の第5ステップは、職場復帰後のフォローアップです。

職場復帰後は上司や人事労務担当者が定期的に面談を行い、体調や通院・治療の状況、仕事面での様子などを把握するようにします。必要に応じて、職場復帰支援プランを見直すことも大切です。併せて、ストレスの少ない職場づくりに向けて、職場環境の評価・改善などにも取り組んでいきましょう。

休職と復職の繰り返しを防ぐために事業者がすべきこと

事業者による休職・復職者への支援

休職と復職の繰り返しを防ぐために事業者がすべきことは、以下の5点です。

  • メンタルヘルス不調の原因の確認
  • 試し出勤制度を導入する
  • 復職の可否は適切に判断する
  • 段階的な支援と業務内容などへの配慮
  • 休職に関する就業規則を見直す

メンタルヘルス不調の従業員が休職と復職を繰り返さないように、事業者として取り組めることについて解説します。

メンタルヘルス不調の原因の確認

復職面談の際に、メンタルヘルス不調が起こった原因について確認しておくと再度の休職を防ぐ対策につなげられます。仮に、業務内容や人間関係といった職場環境の問題が原因での不調の場合、同じ業務や部署に復職すると再度の休職リスクが高い可能性があるので注意が必要です。部署の上司やメンバー、産業医などから職場環境について情報収集した上で、再びメンタルヘルス不調が起こりにくい環境を整えることが大切です。

試し出勤制度を導入する

試し出勤(リハビリ出勤)制度を導入して、職場環境に慣れる機会を設けるとスムーズな復職を目指せます。傷病手当金の支給期間は、これまで支給開始日から「最長1年6カ月」でしたが、2022年1月より支給開始日から「通算1年6カ月」に制度改正されました。それに伴い、試し出勤時に賃金を支給した場合でも支給終了日が繰り下げられるため、柔軟な制度を設計できます。試し出勤制度によって休職者の不安を和らげ、体調などに合わせた復帰準備を行えるようになります。

復職の可否は適切に判断する

復職後に再びメンタルヘルス不調が起こらないよう、休職者への復職可否の判断は慎重に行います。主治医の診断書をもとに復職判断を行うケースが多いですが、休職者の希望を尊重する形で早期の復職に言及する診断書もあるようです。診断書の内容に疑義がある場合は事業者の指定する医師の受診を案内するのも、的確な復職可否の判断には必要でしょう。併せて、業務遂行能力の回復度合い、人間関係や労働の密度といった環境面の判断も必要です。

段階的な支援と業務内容などへの配慮

復職後は部署や会社が可能な範囲で、業務内容への配慮や回復度合いに応じた支援を提供することが再度の休職を防ぐためには重要です。例えば、復職後の一定期間は業務量を減らしたり勤務時間・休憩時間を調整したりする配慮が想定されます。復職者への配慮を重視するあまり他の従業員の負荷が増えないよう、支援内容・期間を検討するようにしましょう。

休職に関する就業規則を見直す

休職と復職の繰り返しを抑止する観点から、就業規則の休職に関する規定の見直しを検討してもよいでしょう。休職制度は法定外の福利厚生制度として位置づけられており、事業者の裁量で休職の条件や期間などを決めても差し支えありません。同じ傷病に対する休職期間の通算規定や休職期間満了後の自然退職制度を盛り込む方法が想定されます。

復職支援における産業医の役割

産業医による復職支援

復職支援における産業医の役割は、休職者の心身の状態と職場で必要とされる業務遂行能力を考慮した上で、事業者へアドバイスすることです。独立かつ中立的な立場から、診断書の記載内容と職場の要望とを精査して、双方にとってメリットある意見が求められます。

また労働安全衛生法では、労働者が産業医などに健康に関して相談できる体制の整備が努力義務として定められています。産業医に気兼ねなく相談できる体制が整っていれば、休職後も安心して復職できるでしょう。

まとめ

復職後に再び休職した従業員への支援は企業・組織が可能な範囲で、他の従業員への負担増にも配慮する形で進めていくのがポイントです。メンタルヘルス不調の再発率は高い一方、働く環境の工夫次第で再発を防げる可能性もあります。復職と休職の繰り返しを防ぐためには、産業医の協力を得て復職可否の判断を慎重に行い、復職者の担当業務や働き方についても現場の意見を踏まえて検討していくようにしましょう。

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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

   
       

         
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