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最近、映画業界でのセクハラについての話題が注目されています。セクハラは、被害者が周囲に知られたくないと強く思うため、なかなか表面化しにくいという特徴があります。特に立場を利用したセクハラは、被害者が泣き寝入りするケースが少なくありません。今回は、そんな表面化しにくいセクハラについて筆者の経験とともに考えられる対応方法についてまとめました。
厚生労働省の調査によると、過去3年間のハラスメント相談件数の傾向は下のようになっています(図1)。
【図1 種類別ハラスメント相談件数の傾向】
増減傾向は様々ですが、3割近くの企業でセクハラの相談があったことがわかります。
また、この相談を実際に企業がハラスメントに該当すると判断したかどうかの割合は下の図2のようになっています(図2)。
【図2 ハラスメント該当件数の傾向】
セクハラの相談があった企業のうち、8割がセクハラに該当すると判断しているのです。ただ、セクハラの場合、ハラスメントを受けた当事者が相談すらしないケースがあります。特に若い人の場合、立場が絡むと相談しにくいものなのです。
そしてこの調査では、セクハラを含む全てのハラスメントにおいて、「上司(役員以外)から部下へ」のハラスメントの割合が最も多かった、としています。
筆者にも新入社員時代、様々なことがありました。
まずひとつは、休日に上司から「飲みに行かないか」と電話がかかってきたことから始まりました。筆者は何も考えずに誘いに乗り、都内のある場所で食事をすることになりました。仕事のアドバイスをもらえるという期待が少しありました。そして、その場では普通に仕事の話などをしながら店で過ごしましたが、問題はその帰り道です。
タクシーで送ると言われ、その車内でのことです。とたんに体を触られたり、キスを迫られたりしました。それでもなんとか耐えてやり過ごし、タクシーを降りてもことは止まりませんでした。その上司を振り切って自宅に帰りましたが、その後はインターホンを連打され、出ずにいると繰り返し電話がかかってきました。そのまま諦めてくれるのを待ち、なんとかその日はやり過ごしたのですが、これで筆者の精神が落ち着くわけではありません。その翌日から、何事もなかったかのように職場で顔を合わせなければならないのです。
筆者に残ったのはただただ「悔しさ」でした。相手の方が立場が強いのですから、訴えたことが本人にばれてしまうと自分が不利な立場に立たされるのではないかという不安もありました。偶然ではありますがその後上司が異動し、ようやく胸をなで下ろしました。
また、これは別の上司の話です。仕事の後に普通に「一杯飲もう」と誘われました。この上司は新入社員指導に熱心な人で「時間があったらお前とゆっくり話したい」ということを日頃から口にしていました。筆者としては忙しい上司が時間を取ってくれた、という認識です。会話は至って普通でした。しかし途中で、上司が思わぬ事を口にしました。「お前は、局内で興味があるランキング5位に入っている」。筆者はただただ苦笑いするしかありませんでした。
前者の場合は論外ですが、後者の発言も大変なセクハラであることは間違いありません。では、なぜ訴えられずにいたのでしょう。まず、二人きりの空間で起きたものだということが問題を難しくしています。証拠がない限り、ウソだと思われたらどうしようと考えてしまうからです。その上で、相手は日々接する上司です。訴えを起こしたことで関係が悪化することを心配してしまいます。
個人での予防策があるとすれば、よほど信頼のおける相手でない限り、社外で異性の上司と2人きりになる機会を作らないことです。
また、身近な同性であれば相談しやすいでしょう。情報を共有するうちに、自分以外にも被害者がいればその上司は常習犯であり、相談窓口にも訴えやすくなります。そして筆者の若い時代にはありませんでしたが、今はスマートフォンの時代ですから、録音・撮影の証拠は残しやすいことと思います。
先ほどの厚生労働省の調査によると、企業が取っているハラスメント対策は以下のようなものです(図3)。
【図3 企業のハラスメント予防策】
多くの企業が一般的な対策を取っていることがわかりますが、問題は被害者が申し出ないまま抱えているケースが存在するという点です。
これを解消するには、アンケート調査を定期的に実施する必要があります。また、調査に当たっては匿名性を担保することです。かつ、直接的な質問ではない調査も良いでしょう。調査の意図をぼかすことで、回答者の警戒を少しでも和らげる手法です。
また、若手社員に上司との飲食は強制でない旨をしっかり伝えておくほか、究極的には若手社員を個人的に食事などに誘う行為を禁じてしまう手段も検討すると良いでしょう。世知辛いと感じてしまうかもしれませんが、場合によっては必要な措置です。
セクハラへの対応は相談があってからの対応も重要ですが、「起こさないこと」を第一に考える必要があります。また、繰り返しになりますが、「相談できていない状態」を早期に発見することが重要です。ハラスメントは止まったとしても、被害者の心の中には残り続けます。よって、被害者へのアフターケアを欠かさないようにする必要もあります。被害者の会社への信頼を取り戻すためにも、一時的な対策で終わらせないようにしましょう。
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<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。