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事業所では労働安全衛生法に基づき、労働者のメンタルヘルスケアのための取り組みを行う必要があります。心の不調によって、休職や退職を余儀なくされる労働者は少なくありません。特に一定規模の企業では、衛生委員会を設置し、労働者の健康を維持および増進に努めることが義務付けられています。
本記事では、労働安全衛生法に基づくメンタルヘルス対策や、衛生員会の役割について解説します。
事業所においてメンタルヘルス対策が必要といわれている理由は、心の不調によって休職や退職を余儀なくされる労働者の割合が意外と高いためです。
厚生労働省が毎年実施している労働安全衛生調査(実態調査)によると、令和3年11月1日~令和4年10月31日までの一年間にメンタルヘルス不調によって連続1カ月以上休業や退職した労働者がいた事業所の割合は13.3%に上っています。(※)
※参考:厚生労働省. 「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要 事業所調査」P1.
休職や退職までいかなくとも職場で不安やストレスを抱えている人は多く、同調査によると強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄があると回答した人は8割以上を占めています。(※)
※参考:厚生労働省. 「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要 個人調査」P1.
強いストレスや不安を抱えたまま仕事をしていると、パフォーマンスが著しく低下し、労働生産性が落ち込む恐れがあります。また、心の不調が長引くと、休業や退職に追い込まれるケースが増え、早期離職につながることも考えられます。
少子高齢化によって労働生産人口が年々減少している現代日本では、どの産業も人手不足に陥っており、貴重な人材を失うのは大きな痛手です。労働者のメンタルヘルス対策を実施し、なるべく健やかな状態で労働に従事してもらうことは、労働者本人のみならず、企業全体の成長と発展に欠かせない取り組みとされています。
国は労働安全衛生法の第七十条の二で、第六十九条第一項の事業者が講ずべき健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとすると定めています。(※)
そのため事業者は、これを元に労働者の心の健康づくりに取り組むのが一般的とされています。
以下では国が定めた指針を元に、労働安全衛生法に沿ったメンタルヘルス対策の進め方について説明します。
1つ目に、メンタルヘルス対策の方針を周知することです。メンタルヘルス対策を効果的に進めるには、企業が一方的に押し付けるのではなく、労働者の理解・協力を得て取り組む必要があります。心の健康づくりに積極的に取り組む姿勢を見せれば、労働者は安心し、それだけでストレスが緩和されるかもしれません。
2つ目に、メンタルヘルスケアの基礎を理解することです。
厚生労働省では、メンタルヘルスケアの基礎として、以下4つを留意事項に掲げています。(※)
※出典:厚生労働省. 「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」P4.
1では、労働者本人から心身の状況の聞き取り調査を行い、情報を取得する必要があります。心身の状況やメンタルヘルスの不調を抱えるようになったプロセスは労働者ごとに異なるため、個人差に留意しながら適切な対策を講じることが大切です。
2はメンタルヘルス対策を講じるにあたって特に配慮が必要な項目です。心の不調が職場の人間関係や家庭の問題に起因している場合、職場に事情を知られたくないと考える人は少なくありません。個人情報の保護を徹底することで、誰もが安心してメンタルヘルスケアを受けられる環境を整える必要があります。
3は人事労務管理とのつながりを強化することです。労働者の心の健康の悪化は、配属や人事異動などと深く関係しているケースが多いため、人事労務管理との連携は欠かせません。部署や部門単体で処理するのではなく、人事労務管理の担当者と十分なコミュニケーションを取り、二人三脚で取り組むことが大切です。
4は労働者の精神状態の不調の原因が職場や仕事以外のところにあるケースで注意したいポイントです。プライベートな問題が仕事にも悪影響を及ぼしている場合、個人的な要因も踏まえて対処する必要があります。ただ、プライベートな問題に企業がどこまで踏み込むかは線引きが難しいため、労働者本人が能動的に相談できる仕組みを整備することが解決の近道になります。
3つ目に、衛生委員会による調査・審議をすることです。厚生労働省では、常時使用する労働者の数が50人以上の事業所について、衛生委員会の設置を義務づけています。(※)
※参考:厚生労働省. 「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」.
衛生委員会とは、労働者の危険や健康障害を防止するための対策について、労働者の意見を反映させるような取り組みになっているかどうか、調査・審議することを目的に結成される組織です。
衛生委員会による調査・審議の結果、労働者の意見が反映されていないと判断された場合、メンタルヘルスに関する対策の内容を見直さなければなりません。審議の内容は多岐に亘りますが、一例を挙げると、以下のような点が対象になります。
これらの項目を衛生委員会が調査・審議し、一定の評価を得た対策が現場で実施されることになります。
厚生労働省では、心の健康づくりについて以下4つのケアを継続的かつ計画的に行うことが重要としています。(※)
※出典:厚生労働省. 「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」P7.
セルフケアとは、労働者自らがストレスを自覚し、メンタルヘルスケアに取り組むための支援を行うことです。労働者の中には自身のストレスを自覚していないケースも多いため、ストレスチェック等を活用し、隠れたストレスを抱えていないかどうか確認します。その上で、必要に応じて会社が実施しているメンタルヘルスケアの利用を促す支援を行うことが大切です。
ラインによるケアとは、職場環境の把握や労働者からの相談対応などに率先して取り組み、労働者が働きやすい環境を整えることです。管理監督者は部下にいつもと違う様子や症状が見られた際、いち早く察知して然るべき支援を行わなければなりません。もしメンタルヘルスの不調で休業を余儀なくされた部下がいれば、職場復帰への支援を行うのも管理監督者の役割です。
部下の管理監督には相応のスキルや知識が必要になるため、会社では必要に応じて講座・セミナーを開くなど、管理監督者としてどのようにラインによるケアに取り組むべきか指導・教育する体制を整える必要があります。
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、セルフケアやラインによるケアがスムーズかつ有効に実施されるよう、事業場内保健スタッフが適切な支援を行うことです。産業保健スタッフならではの豊富な知識と経験を元に、メンタルヘルス対策の企画立案や、個人情報の取り扱い、職場復帰の支援などをメインに行います。メンタルヘルス対策に初めて取り組む事業所がスムーズに対策を講じるためには、専門家である産業保健スタッフとの連携が必要不可欠です。
事業場外資源によるケアとは、事業場内だけで支援が不足すると感じた場合、情報提供やサービスの活用、ネットワークの形成などをアウトソーシングすることです。この場合、企業と外部事業者との間で密な連携を取り、足並みを揃えて取り組んでいく必要があります。
労働安全衛生法では、労働者の心身が健やかな状態で仕事に従事できるよう、然るべき対策を講じることを事業所に義務づけています。国が提示している労働安全衛生法に基づいたメンタルヘルス対策の指針を元に、事業所内で労働者のメンタルヘルスケアに取り組む体制を整えましょう。
初めてメンタルヘルス対策を計画・実施する企業では、どのような計画を立てればよいか分からないかもしれません。また、衛生委員会の調査・審議で一定の評価を得るには、どのような対策を講じればよいのか分からないという場合もあるかもしれません。そのようなときは、職場のメンタルヘルスケアに通じたプロの産業医の力を借り、自社に適した取り組みを提案・支援してもらう方法が効果的です。
メディカルトラストでは、企業ごとの現状をしっかり把握した上で、適した産業医を紹介するサービスを実施しています。全国330箇所を超える提携医療機関ネットワークを形成しており、どの地域でもきめ細かな対応を行うことが可能です。
自社のメンタルヘルス対策の立案や計画にお悩みなら、ぜひメディカルトラストへご相談ください。
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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。