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産業医とは、労働衛生などにまつわる専門知識を持ち、労働者が健康に働けるよう支援を行う医師です。50人以上の労働者が働く事業場では、産業医の選任が義務付けられています。
選任された産業医は義務付けられている職務を果たさなければなりません。しかし具体的にはどのような職務が義務で、産業医にどのような業務を依頼すべきか、漠然としている事業者や労務担当者も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では産業医の職務内容を取り上げながら、事業者が具体的に産業医に何を依頼できるのかを紹介します。産業医と協力関係を築き連携していくことで、労働衛生管理体制の構築や健康経営の実践などにつなげ、自社の課題を解決していきましょう。
産業医は事業場に選任されると、衛生委員会への出席や職場巡視などを通して、労働者の健康管理や職場環境の維持・管理、作業の安全確保を行います。例えば、健康診断の結果に基づいて当該労働者や現場状況に必要な措置を講じたり、高ストレス者や長時間労働者への面談を実施したり、事業者に健康経営の助言を与えたりするなどです。
しかし、産業医を選任するだけでは、健康で安心して働ける職場づくりが実現できるとは限りません。産業医を上手に活用するには、選任後に産業医に何を依頼するかを明確にしていくことが重要です。
産業医との協力体制を整えることは、企業にとって法令を遵守するだけではなく、それ以外の効果も期待できます。例えば、健康診断後のフォローを行うことで、生活習慣病の予防や改善に繋がる可能性があります。産業医へ相談しやすい体制を作ると、従業員の心身の健康を維持しやすく、結果として組織のパフォーマンスが向上するでしょう。さらに産業医との連携が円滑であることは企業のイメージアップにも繋がります。
産業医の職務は労働安全衛生規則第14条第1項に定められています。厚生労働省が所管する労働者健康安全機構(JOHAS)が作成した「産業医ができること」では、この法律を一般にも理解しやすい表現に変えて、次のように記しています。
(引用:独立行政法人労働者健康安全機構. 「中小企業事業者の為に産業医ができること」)
このように産業医は幅広い職務を担い、健康で安心して働ける職場づくりをサポートします。
産業医が行う主要な職務内容と、事業者が産業医に依頼できる主な内容を解説します。なお業種によって職務内容や依頼できる内容は若干異なるため、産業医を選任する際に依頼すべき内容を洗い出すことをおすすめします。
産業医は職場を巡視し、医学的な観点から従業員の健康維持や作業環境の改善について助言を行います。健康を害する要因がないか、基礎疾患のある従業員が病気を悪化させるような環境ではないか、などをチェックします。
職場巡視は労働安全衛生規則第15条で義務付けられている職務です。産業医は原則として月1回以上、巡視する必要があります。ただし2017年の法改正により、要件を満たす場合ならば2カ月に1回以上の実施でもよいことになりました。要件とは、①2カ月に1回の巡視に事業者が同意すること、②事業者が産業医へ衛生管理者の巡視結果や健康に問題のある労働者の情報などを毎月提供することです。
常時50人以上の従業員を使用する事業場では、衛生委員会の設置と運営が義務付けられています。衛生委員会は労使間において、労働者の労働環境や健康に対する管理体制などを調査、審議する機関です。産業医は衛生委員会(業種によっては安全衛生委員会)の構成メンバーとなります。職場環境や働き方、健康管理体制などについて、医学的な立場から助言、指導しなければなりません。この職務は労働安全衛生法18条に定められた義務です。
事業者は産業医へ意見を仰ぐことはできますが、衛生委員会の責任者やまとめ役などに指名することはできません。委員会で依頼できる内容は助言や指導の他、議事録のチェックと署名、健康講話などです。
事業者には健康診断の実施が義務付けられています。健康診断に係る産業医の業務は主に健康診断の実施後に行われ、結果に基づく従業員への保健指導、就業上の措置に係る意見の提示、事業者が負う安全配慮義務を遂行するための助言などがあります。
事業者は健康診断の結果に異常所見のある従業員から申し出を受けた場合、産業医面談(保健指導)を行う必要があります。産業医に面談の実施を依頼しましょう。
また事業者は労働安全衛生法第66条の4、第66条の5に基づき、異常所見が認められた従業員の就業区分が、通常勤務、就業制限、要休業のいずれに該当するかなど産業医に意見を聴取します。就業区分が就業制限、要休業に該当する場合は当該従業員に対し、就業上の措置を講じなければなりません。従業員の健康と安全を守るために、事業者が施すべき措置について、産業医に意見や助言を仰ぎましょう。
(参考:労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置について)
ストレスチェックとは全労働者のストレスの度合いを、年1回以上の頻度でチェックする制度です。
ストレスチェックで高ストレス者と選定された従業員がいた場合、事業者には労働安全衛生法第66条の10第3項の定めにより、本人の同意のもと医師による面接指導の実施が義務付けられています。この面接指導を行う医師は、従業員の普段の労働状況をよく知る事業場の産業医が推奨されています。
面接指導の実施後、事業者は面接指導を実施した産業医などから就業上の措置の必要性などについて意見を聴きます。
月80時間を超える時間外・休日労働があり、体調不良が認められ、申し出を行った労働者に対して、事業者は医師による面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条第8項)。また、一定の条件を満たした労働者の場合には、労働者本人の申出が無くても面談を実施する義務が生じます。
この面接指導においても、事業場の労働実態をよく知る産業医による実施が推奨されています。この面接指導の実施後、面接指導を行った産業医などから意見を聴取し、当該従業員の健康保持に必要な措置を講じることも事業者の義務です。
面接指導は法令で定められた条件以外でも、事業者が独自に定めた条件があれば、その条件にあてはまる従業員を対象にすることも可能です。例えば脳・心臓疾患発症の予防対策を強化したいときなどは、自主基準を設けて産業医に依頼するとよいでしょう。
事業者に課せられる安全配慮義務の一環として、従業員の休職・復職の際に、産業医による面談を実施する場合があります。心身に不調がある従業員であってもつい本人が無理をしてしまうケースは珍しくありません。従業員にとっては産業医に面談を行ってもらえることで、医学的な知見から就業上の措置に関する意見などをもらえるため安心です。治療を続けながら就業する場合においても、定期的に産業医面談を行うなど、産業医の支援を受けるとよいでしょう。
従業員の休職・復職に関する判断において、決定を下すのは事業者であり、産業医はあくまで意見を述べる立場にとどまります。産業医の意見に法的な効力はありませんが、安全配慮義務違反に問われないためにも、産業医の意見をもとに適切な措置を検討することが望まれます。
健康相談は労働安全衛生規則第14条第1項に挙げられている産業医の職務の一つです。例えば「どのような生活が健康によいのか」「病気を予防するにはどうしたらよいのか」などといった、従業員からの健康にまつわる悩みに広く相談に乗ってもらえます。
こうした相談にも対応してもらえるということを、事前に従業員に周知しておきます。健康相談を活用し、産業医にアドバイスを求めてもらうことで、従業員の健康保持、増進につながるでしょう。健康相談は産業医以外にも、保健師や産業保健スタッフに対応してもらうケースもあります。
事業者は産業医に対し、職場の巡視や衛生委員会の構成メンバーになってもらうなど、法令で義務付けられた職務を依頼できます。その他にも長時間労働者や高ストレス者への面接指導、保健指導など、産業医に対応してもらえる業務は多岐にわたります。
従って、選任した産業医に活躍してもらうには、事業者側が「産業医に何を依頼するか」を明確にしておくことが重要です。依頼内容はあらかじめ明確にしておき、依頼したい職務や分野を得意としている産業医を探すとよいでしょう。
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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。