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産業医は、労働者が安全・快適に働ける職場づくりをサポートする役割を担う存在です。常時50名以上の事業場では、法律で産業医の選任が義務づけられています。しかし、産業医の探し方や契約手続きの流れがわからないという人事労務担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、産業医の探し方を始め、職務内容、勤務形態や契約手続きの流れ、産業医と契約を締結するときに失敗しないためのポイントをご紹介します。
産業医との契約を検討する段階から、産業医について理解を深めておくことが大切です。契約手続きに関する説明に先立ち、産業医の役割や職務内容、勤務形態、産業医の選任が必要な事業場の要件について解説します。
産業医の役割は、医学に関する専門的な知見をもとに労働者の健康状態や職場の作業環境の管理を通じて活力ある職場づくりをサポートすることです。産業医の職務内容は、労働安全衛生規則第14条第1項で以下のように定められています。
産業医の職務の一環として職場巡視を毎月1回以上実施する他、衛生委員会にも参加します。さらに、事業者に対して労働者の健康確保に必要な勧告を行う場面もみられます。事業者には産業医の勧告を尊重する義務が課せられている点に留意しましょう。
また、産業医の要件は以下のように定められていますが、医師免許を取得した後に所定の研修を受講して日本医師会の認定産業医として認定を受けるルートが主流です。
常時使用する労働者の人数が50人以上の事業場では、最低でも1名以上の産業医の選任が義務づけられています。常時使用する労働者の人数が50人以上になった時点から産業医の選任義務が発生するので、増員や組織変更を行う前に産業医の選任準備を進めておくのがポイントです。
【選任する産業医数】
常時使用する労働者数 | その他の事業場 | 有害業務(※)に500人以上従事する事業場における専属産業医 |
---|---|---|
50~499人 | 嘱託1人 | ― |
500~999人 | 嘱託1人 | 専属1人 |
1,000~3,000人 | 専属1人 | 専属1人 |
3,001人以上 | 専属2人以上 | 専属2人以上 |
常時使用する労働者には、正社員だけでなくパートタイマーや日雇い労働者・派遣社員も含まれます。所定労働時間が短い人や所定労働日数が少ない人でも、継続した労働契約があれば常時使用する労働者とみなされる点にも留意します。
また、事業場とは一定の場所で継続的に作業(業務)を行う組織体です。複数の部署がある場合も、同じ建物や敷地内であればまとめて1つの事業場として取り扱います。一方、同じ敷地内でも業務内容が明らかに異なる場合は独立した事業場として取り扱います。事業場の考え方の具体例についても確認しておきましょう。
【1つの事業場として取り扱う場合】
同じ建物に、人事労務部門と営業部門、経理部門が設置されている場合
別の場所で業務を行っているが、組織としての独立性が低い場合
【複数の事業場として取り扱う場合】
東京本社と名古屋営業所、大阪営業所のように、明らかに異なる場所で業務を行っている場合
同じ敷地内だが、管理部門と食堂のように業務内容が明らかに異なる場合
参考:東京都労働局「労働安全衛生法では、事業場ごとに衛生管理者を選任したり、衛生委員会を設置したりすることになっていますが、そもそも事業場とはなんですか?」
産業医の勤務形態は、嘱託・専属2つのパターンに分かれています。それぞれの特徴をご紹介します。
―嘱託産業医は非常勤産業医と呼ばれることもあり、契約で定めた日数と時間数だけ産業医の業務に携わります。常時使用する労働者数が1,000人未満、かつ有害業務に従事する労働者が常時500人未満の場合は、嘱託産業医の選任で問題ありません。開業医や勤務医が、休診日や外勤日(研究日)に嘱託産業医として活動している場面が多いのが特徴です。複数の企業で産業医に選任されることも少なくありません。
―専属産業医は常勤産業医と呼ばれることもあり、特定の事業場に所属してフルタイムで産業医の業務に携わります。常時使用する労働者数が1,000人以上、または有害業務に従事する労働者が常時500人以上の場合は専属産業医の選任が必須です。所属している事業場以外では基本的に産業医としての活動はできませんが、以下の条件を満たせば他の事業所で嘱託産業医に選任されることも可能です。
参考:厚生労働省労働基準局長通達 基発0331第5号(令和3年3月31日)「『専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて』の一部改正について」
※専属産業医について詳しく知りたいという方は下記の記事で詳しく紹介しておりますので、併せてご覧ください。
ここからは、産業医探しから産業医契約書の締結、労働基準監督署への届け出までの流れを解説します。
自社が求める要件に合う産業医を探すことが、労働者の健康管理や職場の安全衛生管理を徹底するための第一歩です。職場巡視を徹底したい、あるいは労働者の長時間労働・ストレス対策に取り組みたいというように、自社が推進したい内容を具体化してから以下の方法で産業医を探していきます。
上記の方法では紹介手数料はかからないものの、希望する時期までに産業医を確保できないリスクが伴います。紹介された産業医が自社の要件に合わなかったとしても、将来的な関係性を考慮して紹介を断りにくい場面もあるかもしれません。
一方、産業医の紹介サービスに依頼すると自社の要望をしっかり伝える事が可能です。所定の手数料はかかるものの、産業医と契約を結んで訪問がスタートした後も産業医との間に立って様々なフォローを受ける事が出来るメリットもあります。
産業医の契約形態は、雇用契約と業務委託契約の2パターンが主流です。それぞれの特徴をご紹介します。
―雇用契約を結んだ場合は、企業の従業員として産業医活動に携わります。勤務日数や所定労働時間を指定した上で、産業医としての経験や能力を踏まえて会社側から給与の額を提示するのが特徴です。
専属産業医を選任する場合に、正社員または契約社員・嘱託社員として雇用契約を締結することが多いといわれています。なお、雇用契約の場面では「嘱託」を専門職という意味で使うので、非常勤産業医と混同しないよう注意してください。
―業務委託契約を結んだ場合は、企業の意向を汲みながらも独立した立場で産業医活動に携わります。産業医と企業が対等な立場で協議した上で、業務内容や報酬額を決めていきます。産業医が希望する報酬を企業側に提示する場面が見られるのも特徴です。
嘱託(非常勤)産業医を選任する際に業務委託契約を選択することが多いですが、専属産業医を選任する場合も独立性・客観性を保つために業務委託契約を選択する場合もあります。ただし、雇用契約とは異なり執務日時の指定や業務遂行に関する指示はできません。
―特定の業務で産業医を活用したい場合は、スポット契約も選択肢の一つです。例えば、健康診断やストレスチェックの結果を精査する場面や、選任済みの産業医と異なる視点で職場巡視を実施する場面などで依頼できます。産業医の紹介サービスでスポット契約を提供していることが多いです。
産業医と業務委託契約を結ぶ際に、契約書に必ず明記する内容や契約書を作成する上での注意事項を解説します。
1. 職務内容
―労働安全衛生規則第14条第1項、第15条第1項の内容を踏まえて、産業医に依頼したい職務内容を記載します。近年では、オンラインで労働者に面接指導を実施したり衛生委員会に出席したりする産業医も増えています。産業医と話し合った上で、オンライン対応について取り決めておくとよいでしょう。
2. 報酬額
―毎月の報酬と支払期日を取り決めておきます。報酬は月額で定めるのが基本ですが、面接指導や健康相談などまとまった時間が必要な業務については、1時間あたりの単価を定めておくのも一つの方法です。職務内容に記載されていない業務の報酬は別途協議する条項を加えておけば、トラブルを防げるでしょう。
3. 契約期間
―産業医の契約期間と解約時の申出期限を明記しておきます。産業医と企業のどちらからも申し出がなければ契約を自動更新する旨を記載しておけば、契約更新時に契約書を再作成する手間が省けて便利です。
4. 協議事項
―契約書で定めていない事項については、産業医と企業が協議して取り決める旨を記載しておきます。
※産業医との契約”書”のポイントを理解したい方は下記の記事で詳しく紹介しておりますので、併せてご覧ください。
医師が所属する団体で提供している産業医契約書のテンプレートを紹介します。契約書を作成する際には参考にしてください。
産業医を選任した後は、所轄の労働基準監督署に「産業医選任報告」を提出します。事業主がe-Gov電子申請に対応した電子証明書を持っていれば、電子申請での提出も可能です。産業医選任報告の提出期限は設けられていませんが、できるだけ早めに提出するようにしましょう。
また、産業医の選任は事業場の労働者数が常時50人以上になってから14日以内に行う必要があります。実務上、産業医の選任が数日遅れたとしても選任届は受理してもらえますが、選任遅れの理由の説明を求められる可能性があります。産業医の選任は早めに行うのが得策です。
労働基準監督署に産業医の選任報告を行う際は、以下の書類が必要です。
産業医選任報告の書式は、厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。必要事項を記入した後、所轄の労働基準監督署の安全衛生部門に提出します。郵送での提出も可能ですが、その際は産業医選任報告のコピーと切手を貼った返信用封筒を同封して、控えを返送してもらうことをおすすめします。
産業医の契約期間は、一般的に1年または2年で設定します。労働者の健康管理や職場の安全確保に継続的に取り組む前提で、契約更新条項を設ける企業が多いです。契約を自動更新する場合でも、契約満了前のタイミングで産業医と企業が話し合う機会を設けて、職務内容や報酬額について見直しを行うようにしましょう。
正社員として産業医を雇う場合は基本的に雇用契約の終了日を定めませんが、契約社員など有期雇用の場合は契約期間が最長5年と労働基準法で定められているので注意が必要です。
産業医と契約を締結するときに失敗しないよう、4つのポイントを確認しておきましょう。
産業医選びに失敗しないためには、自社の希望に合った産業医を選任するのがポイントです。従業員が健康相談しやすい環境を作りたい、メンタルヘルス対策を重視するというように、自社の希望を具体化した上で産業医を探します。顔合わせの機会を設けて、産業医側と企業側の要望や課題を擦り合わせ、互いに納得できた段階で契約を締結するようにしましょう。
産業医の選任に向けた話し合いでは、医師の働き方や仕事内容について十分に理解を示すことが大切です。医師の副業は外勤という形で容認される風土があり、複数の企業で嘱託産業医として選任されている医師や、休日に他の医療機関でアルバイトする医師も少なくありません。自己研鑽の一環として、空いた時間に文献を読んだり症例を調査したりする医師も多いです。契約形態や執務時間などの希望を確認しつつ、企業として妥協できる点・譲れない点を伝えて、妥協点を見つけた上で契約につなげれば産業医との信頼関係も築きやすくなるでしょう。
産業医の選任期限は、選任すべき事由が発生してから14日以内と労働安全衛生規則第13条第1項で定められています。急いで産業医を選任しようと考える余り、急いで契約書を作ると間違いが発生する懸念が生じます。記載内容が誤った状態で産業医と契約を結んでしまうと、トラブルの原因になるだけでなく信頼関係の構築にも支障をきたすので要注意です。新たに産業医を選任する際は、早い段階で契約書のたたき台を作っておくとよいでしょう。また、産業医を交代する場合は早めに新しい産業医を探し始めることを奨励します。
産業医の中には、選任後も法令で定められた業務を確実に実施しない人もいるようです。産業医を選任したことで満足してしまい、定期巡回や衛生委員会の参加といった定例業務の実施を促さない企業も希にみられます。どちらも産業医の「名義貸し」状態を助長する行為で、労働安全衛生法違反を問われる恐れがあります。契約書に記載した業務内容を誠実に遂行するよう産業医に促すことが、従業員の健康・安全管理だけでなく企業のコンプライアンス面でも重要です。
産業医との契約に悩んだときは、最寄りの医師会や産業医の紹介サービスに相談すると解決策が見つかる可能性があります。
日医認定産業医が10万人を超えたことを機に、日本医師会では産業医と事業場のマッチングを担う考え方を示しています。その一環として、一部の医師会では企業等の要望に応じて産業医を紹介する取り組みが進んでいます。産業医選びで悩んだ際は地元の医師会に相談してみるとよいでしょう。
産業医の紹介サービスを活用すれば、自社の要望に合った産業医候補を探してもらえます。職場内の安全衛生や従業員の健康相談に関する取り組みや、契約の締結、選任手続きのサポートも受けられるので便利です。
産業医を選任する際は、自社が希望する職務内容や産業医が希望する働き方、報酬について十分に話し合い、互いに納得した上で契約を結ぶことが失敗を回避するためには大切です。
嘱託産業医の場合は業務委託契約、専属産業医の場合だと雇用契約を結ぶのが一般的とされていますが、医師の希望を考慮して契約手続きを進めるようにしましょう。産業医契約を締結したら、労働基準監督署に産業医選任報告を必ず提出してください。
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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。