コラム
産業医と意見書
産業医

産業医の意見書とは? 効力についても紹介

従業員との面談結果をもとに産業医が作成する「産業医の意見書」。聞きなれない人も多いかもしれませんが、事業者が産業医と連携して従業員の健康を維持していく上で、重要な書類の一つです。

今回は「産業医の意見書」の役割や効力、健康的な労働環境を構築するために企業の担当者が取るべき対応などを紹介します。

産業医の意見書とは

産業医の意見書とは、産業医面談の結果、従業員のメンタルヘルスの不調の早期発見や病気の予防、職場環境の改善などが必要であると考えられる場合に、事業者が適切な措置を取れるよう産業医からの意見や提案を記載した報告書です。

産業医は、従業員の身体的・精神的な健康を維持するために、産業保健の専門家の立場から企業にアドバイスや指導を行います。労働安全衛生法では、長時間労働者や高ストレスと判定された従業員から希望があった場合には、産業医面談を実施するよう定められています。面談の結果、産業医が労働時間の短縮や業務内容の見直しなどの措置が必要だと判断した場合、その旨を述べた「産業医の意見書」を作成するのです。

従業員の疾病について主治医が診断書を作成することもありますが、主治医は患者の病状や日常生活の状況に視点を置く場合が多いです。一方産業医の意見書では、就労に関する点に主体を置き、職場の労働環境を踏まえて従業員の業務遂行の可能性や就労の可否についての総合的な判断を求められます。事業者が適切な措置を行うためにも、こうした違いを十分に理解した上で意見書を依頼し、従業員の就労に関するアドバイスや提案を企業に示してもらうことが大切です。

産業医の意見書は、それぞれの面接指導内容に合ったものを作る必要があります。次に、主なケースごとの意見書の役割や内容を紹介します。

長時間労働者への面接指導に関する意見書

労働安全衛生法の規定により、一般的な職務に就く従業員の場合、月80時間を超える時間外・休日労働を行い、かつ従業員に疲労やストレスの蓄積が見られ、従業員から面談の申し出があった場合には産業医面談を実施しなければなりません。また、その他労働安全衛生法第66条の8、第66条の9、労働安全衛生規則第52条の7、第52条の8などに定められるケースにおいて、面接指導の義務、努力義務が課されています。*1 *2 長時間労働は脳や心臓の疾患、メンタルヘルスの不調と強い関連性があり、従業員の心身の健康に影響を及ぼす危険性があるためです。

基本的には従業員に面談を強制することはできませんが、事業者は従業員の健康状態を把握し、可能な限り必要な措置を講じなければなりません。また産業医の意見を衛生委員会などで報告する必要もあります。そのために産業医は面談を通して従業員の健康状態を観察し、職場環境の改善案などを意見書に記載して事業者へ提出します。

【意見書に記載される主な内容】

  • 就業区分(通常勤務・就業制限・要休業)
  • 就業に必要な措置(労働時間の短縮、業務内容の見直し、部署異動など)
  • 職場環境のおける改善点
  • 医療機関受診の必要性

ストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導に関する意見書

ストレスチェックによって高ストレス者が発見された場合も、長時間労働と同様に産業医面談を実施して面接・指導を行い、意見書を作成しなければなりません。産業医は面談を通して従業員の疲労やストレスの蓄積度合いを観察し、就労の継続に必要な措置や職場環境の改善案などを意見書にまとめて、事業者に提出します。事業者はそれをもとに必要な措置を講じます。

【意見書に記載される主な内容】

  • 就業区分(通常勤務・就業制限・要休業)
  • 就業に必要な措置(労働時間の短縮、業務内容の見直し、部署異動など)
  • 職場環境のおける改善点
  • 医療機関受診の必要性

健康診断結果の有所見者への面接指導に関する意見書

労働安全衛生法では事業場の規模を問わず事業者は年に1回の健康診断を実施する義務があり、その結果心身の異常が見つかった場合には3カ月以内に「医師の意見」をもらうよう定められています。

※参考:労働安全衛生規則第五十一条の二「健康診断の結果についての医師等からの意見聴取」

具体的には、健康診断個人票の「医師の意見」という項目に就業判定を記載します。就業判定は「通常勤務・就業制限・要休業」の3つで区分され、事業者はこの判定をもとに必要な措置を講じなくてはなりません。

【意見書に記載される主な内容】

  • 就業区分(通常勤務・就業制限・要休業)
  • 就業に必要な措置(労働時間の短縮、業務内容の見直し、部署異動など)
  • 職場環境のおける改善点
  • 医療機関受診の必要性

休職者の職場復帰に関する意見書

休職していた従業員が職場復帰する際も、産業医面談を実施する事があります。労働契約法の第5条では事業主が従業員に対して安全配慮義務を負うことが定められており、傷病による休職である場合は無理に復職することで症状を悪化させるケースもあるため、復職について安易に判断することはできません。産業医が面談を実施して従業員の回復度合いを観察し、本当に就労可能かどうかを判断します。

復職の際に実施される産業医面談は法令上具体的な定めがある訳ではない事もあり、産業医の意見書も必須とはされていないケースも多いようですが、主治医の診断書に加えて準備しておくことが望ましいでしょう。従業員が安定して業務を行える状態かどうかに加え、復職に必要な支援なども意見書に記載されます。

【意見書に記載される主な内容】

  • 復職の可否
  • 就業に必要な措置

その他の意見書

上記以外にも、メンタルヘルスの不調やケガ、妊娠といった理由で通常の就労が困難になった場合も、産業医が意見書を作成するケースがあります。これまでの説明と同様に、事業者に対して業務内容の見直しといった就業上必要な措置を講じるようアドバイスするものです。

措置が必要な理由や措置の内容は従業員によって異なるため、産業医は面談を通してそれぞれに合ったアドバイスを提案し、事業者は個々に対応しなくてはなりません。

【意見書に記載される主な内容】

  • 就業の制限(時短勤務など)
  • 業務内容の見直し
  • 措置を取るべき期間について
  • 職場環境の改善・整備

産業医面談実施の目的

産業医との面談

産業医面談は事業者が、従業員の心身の状態、ストレスや疲労の蓄積度合いなどを把握し、従業員の健康を維持するために実施するものです。

労働安全衛生法では長時間労働により疲労の蓄積が見られる者やストレスチェックで高ストレス者が見つかった場合に、当該従業員から希望があれば産業医面談を実施することが義務付けています。他にも、健康診断で異常所見が合った場合や休職・復職の際、従業員が希望した場合にも産業医面談を実施します。

産業医面談は従業員の健康を維持するために行われるものであり、実施して終わりではなく、従業員には受診勧奨を実施して医療に繋げる事もあります。また、労働条件や職場環境の見直し・改善にまでつなげていく事も大切です。そこで活用されるのが産業医の意見書です。事業者は、従業員が健康的に安心して働ける職場環境を整備すべく、意見書をもとにして改善を実施します。従業員本人の意向も踏まえつつ、事業者と産業医が連携して、具体的な措置までつなげることが大切です。

※産業医の役割や面談の内容について詳しく知りたい方は、併せて下記の記事をご覧ください。

産業医面談の実施は強制できない?

前述した通り、一定の基準を超えた長時間労働により従業員に疲労の蓄積が見られる場合や、ストレスチェックで高ストレス状態の従業員が面談を希望している場合には、労働安全衛生法により産業医面談の実施が義務付けられています。産業医は従業員の申し出からおおむね1カ月以内に面談を実施するものとされております。

逆に考えると、例え従業員に疲労の蓄積がみられる場合であっても、ストレスチェックの結果が高ストレス者となっていても、本人が希望をしない場合には面談を強制する事は出来ません。企業側で可能なのはあくまで該当する従業員に対して面談を受けるよう「勧奨」する事に留まります。

ただ、月100時間以上の時間外・休日労働を行った研究開発業務従事者など、従業員からの申し出なしでも面接指導の対象となるケースもあります。この場合、原則面談は義務となります。

法令に定めのない復職、休職時の面談などは本人が産業医面談を受けたがらないケースも考えられます。就業規則等に予め「復帰に当たっては産業医(産業医選任事業場でない場合は会社が指定する医師)との面談が必要」とった規定を設けておくと良いでしょう。

産業医面談(面接指導)を実施するために行うべきこと

自社で産業医面談が適切に活用されるために、企業の担当者はどのような対応をとるべきなのでしょうか。ここでは、産業医面談の実施に必要な対応を紹介します。

産業医面談(面接指導)の開始や申し出の方法の周知

産業医面談が活用されるためには、制度の概要や申し出の方法を従業員が認識していないといけません。産業医を選任したばかりだと産業医面談制度の存在を知らない従業員も多かったり、制度自体は以前から存在していても新入社員に対しては周知徹底できていなかったりする場合もあるでしょう。ポスターや社内メールなどを使って継続的に周知活動を行ってください。

制度の概要だけでなく、産業医面談を希望する際の窓口や手順についても併せて伝えると、従業員に活用されやすくなります。

従業員が面談(面接指導)を申し出やすい環境づくりを行う

産業医面談の存在を知っていても「会社での悩みや不安は、会社の人に相談しづらい」「部署の人に知られたくない」と感じる従業員も多く、産業医面談の申し出をためらってしまうこともあります。

産業医は守秘義務を負っており、原則産業医面談の内容を従業員の了承なく、人事労務担当者や上司に共有することはありません。面談結果は人事評価に影響しないため、安心して産業医面談を受けられるという点も併せて従業員に周知しましょう。

また日頃から従業員が産業医に接する機会を設けるなどして、気軽に相談しやすい環境を整えることも大切です。

産業医の職務と権限

産業医は従業員の心身の健康を守るために、職務上の権限を有しています。ここでは、産業医の職務と権限について解説します。

産業医の職務

産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条で次の9つの分野に定められています。*3

  1. 健康診断の実施、その結果に基づく従業員の健康を維持するための措置
  2. 長時間労働者に対する面接指導、その結果に基づく従業員の健康を維持するための措置
  3. ストレスチェックの実施、その結果に基づく高ストレス者への健康を維持するための措置
  4. 作業環境の維持管理
  5. 作業の管理
  6. 上記以外の従業員の健康管理
  7. 健康教育、健康相談、従業員の健康の保持増進を図るための措置
  8. 衛生教育
  9. 労働者の健康障害の原因の調査、再発防止措置

産業医の権限

事業者と従業員の間に立って労働環境の改善を推進する産業医には、法律によって以下の権能が認められています。*4

  • 事業者、総括安全衛生管理者への勧告(労働安全衛生法第13条の3、労働安全衛生規則第14条の3)

 ―産業医は事業者の意向に左右されることなく、従業員の健康を優先して事業者、総括安全衛生管理者に勧告できる勧告権も持っています。

  • 衛生委員会における労働者の健康障害防止対策等の調査審議(労働安全衛生法第18条)

 ―一定基準を満たす事業場は産業医を含めた衛生委員会を設置しなければならず、産業医は従業員の健康維持施策や労災の再発防止策などについて調査・審議し、事業者へ発言する権限があります。

  • 衛生管理者への指導、助言(労働安全衛生規則第14条の3)

 ―事業者のみの判断で職場管理が行われないよう、産業医は産業保健の専門家の立場から衛生管理者へ指導・助言ができます。

  • 労働者の健康障害防止のための職場巡視及び現場における緊急的措置の実施(労働安全衛生規則第15条)

 ―産業医は原則として月1回以上の職場巡回が義務付けられており、その結果従業員の健康リスクがあると判断された場合、必要な措置を講じなければなりません。

  • 長時間労働者等に関する情報の把握(労働安全衛生規則第51条の2、第52条の2など)

 ―時間外・休日労働の時間が週40時間以上、または月80時間を超えており、かつ疲労の蓄積が認められる従業員がいた場合、事業者は速やかに産業医に情報共有し、産業医は面接指導などを行います。

産業医の意見書に法的効力はあるか

産業医と意見書

産業医の意見書はあくまでも産業医からの提案であり、法的な効力を持っているわけではありません。意見書を無視しても罰則はなく、対応は事業者の意思に委ねられます。

ただし必要な措置を講じなかったために従業員の健康状態が悪化したり、労災が発生したりした場合には、安全配慮義務違反に問われることになります。労災を巡って裁判になると、多額の損害賠償金の支払いが発生する可能性もあるのです。

産業医が提言する就業制限に強制力はあるか

産業医からのアドバイスや提案に法的な強制力はなく、産業医の提案通りに就業制限を実施しなくてもそのこと自体は法令違反にはなりません。産業医の職務は意見や助言を述べるに留まるため、実際にどのような措置を実施するのかを決定するのは事業者です。

ただし前述したように、事業者が必要な措置を講じなかった結果として従業員の健康被害や労災が発生すると、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。経営リスクを回避するためにも産業医の意見を尊重し、健康経営を進めていきましょう。

産業医の意見書のフォーマットについて

産業医の意見書のフォーマットは、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。長時間労働者と高ストレス者向けの面談を実施する際のフォーマットの他、産業医が面接指導を行う際のマニュアルも掲載されています。

また、厚生労働省と独立行政法人労働者健康安全機構が作成している「職場復帰支援の手引き」には、職場復帰に関する意見書のフォーマットが掲載されています。こちらも併せて確認しましょう。

まとめ

産業医の意見書は、企業が健康的で安全な労働環境を整備するために欠かせない書類です。法的な拘束力はありませんが、意見書に書かれた助言や提案を無視して従業員の健康を損ねてしまうと、安全配慮義務違反に問われる可能性もあります。

快適な労働環境を整備することは、従業員のエンゲージメントを高め、離職を防止する意味でも重要です。信頼できる産業医を職場に配置し、日頃から緊密な連携を取って従業員の健康管理に努めていきましょう。

*1 e-Gov労働安全衛生法第66条の8、第66条の9
  https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057

*2 e-Gov労働安全衛生規則 第52条の7、第52条の8」
  https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000032

*3 e-Gov「労働安全衛生規則 第14条
  https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000032

*4 厚生労働省「現行の産業医制度の概要等」https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-SeisakutoukatsukanSanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000166494.pdf

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2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

   
       

         
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