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産業医が復職を認めない場合にはどのような理由がある?

休職中の従業員から主治医による「復職可能」の診断書の提出があったものの、産業医面談では「復職は時期尚早」との意見書が出され対応に苦慮している人事担当者も多いのではないでしょうか。産業医が復職を認める基準を把握することで、最終的な復職可否を判断する大きな助けとなります。

この記事では、産業医が復職を認めない原因を知るために、産業医や主治医の意見の特徴、産業医の権限と職務内容、産業医が復職を判断する5つの基準をご紹介します。復職に対する判断材料として、ぜひ参考にしてみてください。

復職の際に産業医面談は必要か

復職の際に実施される産業医面談は例えば「ストレスチェック後の医師面談」のように法令上明確に実施が義務付けられている訳ではありません。しかし、医学的視点と業務内容を照らし合わせて判断しない場合には、以下のようなリスクが生まれる可能性があります。

  • 仕事に耐えられるまでに回復していなかったため、復職後すぐに怪我や病気が再発
  • 復職可能との主治医の診断書から復職させたが、メンタルヘルスが十分に回復していないと判明
  • 健康状態に配慮して違う部署に復職させたが、なじめずに再び悪化

上記のような状況になると、復帰をした本人は勿論、企業側もその対応に追われる事になり双方にとって望ましくはありません。また、無理な復帰の結果症状が増悪した場合には、企業側が安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。

産業医は職場環境と医学的視点から復職可能か判断するため、総合的に復職可否の判定をすることが可能です。リスク対策にもなるため、復職前に産業医面談は実施しておいたほうがよいでしょう。

参考:厚生労働省「労働契約法のあらまし」

※産業医面談の内容の詳細を知りたい方は下記の記事を併せてご覧ください。

労働安全衛生法における産業医の権限

産業医の主な職務は以下の内容になっております。

  • 原則として月1回以上の職場巡視
  • ストレスチェックの実施と面談
  • 作業環境の管理
  • 衛生・健康教育
  • 健康障害の原因調査と再発防止措置

また、職場環境や業務内容が従業員の健康や安全を脅かす恐れがある場合、企業に勧告をする権限をもっています。

産業医から企業に「職場改善に関する勧告」が提示された場合、企業はその勧告を尊重し、必要な対策を行い衛生委員会に報告しなければなりません。だからというわけではありませんが、産業医と協力していくことで、社内の安全と従業員の健康が守りやすくなるでしょう。

また産業医は医師免許を取得していますが、基本的には診察や治療といった医療行為は行いません。

参考:厚生労働省「産業医の関係法令」
   厚生労働省「産業医について~その役割を知ってもらうために~」
   厚生労働省「産業医ができること」

復職の判断について

復職については主治医の診断書だけでなく、産業医面談の結果から総合的に判断するのがよいとされています。なぜなら主治医と産業医では、同じ医学知識があっても視点が違うためです。ここからは主治医と産業医の意見の特徴についてみていきましょう。

復職の可否の判断は最終的に会社が行う

復職の最終判断は企業が行います。基本的には主治医や産業医の意見を判断材料に、就業規則の復職要件を満たすかで決定しますが、企業規模によっては以下の場合にも復職を認める判断を検討してもよいでしょう。

  • 完全に回復していなくても3カ月程度様子を見ることで完全復職できる見込みがあるとき
  • 休職前の業務は難しいが、他の部署や業務ならば復帰でき、休職者本人も了承する場合

休職や復職に関わる裁判の判例から、裁判所は上記のような場合であっても「企業規模等を勘案し、労働者の能力に応じた職務を分担させる工夫をすべき」と判断しているといえます。万が一のリスクを考慮して、判例を参考にする、弁護士にも相談してみるといった方法も有効です。

参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「(55)休職制度と職場復帰」
   裁判所「最高裁判所判例集」
   全基連「キャノンソフト情報システム事件」

主治医の診断・意見の特徴

主治医の診断や意見には以下の特徴があります。

  • 休職者の健康状態をしっかりと把握している
  • 職務内容や職場環境への理解が不十分な場合もある

ここからは詳しい内容についてみていきましょう。

・休職者の健康状態をしっかりと把握している

主治医は休職者を継続的に診察しているため、健康状態の変化や推移を把握できている可能性が高いです。しかし、すべての主治医がそうとは限りません。継続的に診察をしていても、短時間の問診のみで薬を処方するだけといった場合もあるためです。

休職者が自身でクリニックなどを選んでいる場合、どのような診察をしているかは見えてきません。そのため事前に休職者の同意を得ておき、産業医と協力して主治医に診察情報の提供を依頼することも検討しておきましょう。

・職務内容や職場環境への理解が不十分な場合もある

主治医は、病気や怪我を治す医療の専門家です。そのため、休職者の職務内容を正確に把握しているわけではありません。どのような業務内容なのか、職場環境なのかといった情報の把握は休職者からの話が情報源となるため、推測の域を出ない状態のケースがあります。

仕事をする中では、ストレスがまったくないということはほとんどなく、誰しも少なからずストレスを感じるものです。職場環境を正確に把握しにくい主治医の視点では、休職者が復職した際にどの程度のストレスがかかり、仕事のストレスに耐えうるかどうかを的確に判断できない可能性もあります。

産業医の意見の特徴

産業医の意見には以下の特徴があります。

  • 休職者の職務内容や職場環境への理解がある
  • 復職における産業医の意見の重要度が高い

以下で詳しい内容についてみていきましょう。

・休職者の職務内容や職場環境への理解がある

産業医は、従業員が健康で安全に働ける環境にあるかを確認するために、原則として月に1回以上の職場巡視を行います。また、衛生委員会の構成員でもあり、委員会への出席や議事録の確認もしております。そのため、職務を通じて業務内容や職場環境を把握することが可能です。

職場巡視では、主に以下のような内容を確認します。

  • 作業環境(事務所の空調や排気、有害物の取り扱い状況など)
  • 整理状況(主に給排水設備や清掃状況などを衛生面の視点から確認)
  • 情報機器を使用する作業対策(パソコン作業などが健康面に悪影響を及ぼす範囲にないか確認)
  • 休憩施設の確認(事業内容によって横になって休める設備があるかなど)

他にもさまざまありますが、産業医は職場巡視によって環境を把握、衛生委員会への出席等で職場の課題を確認できるため、休職者が復職後の仕事でかかる負担やストレスを想定することが可能です。

参考:産業医科大学「職場巡視のポイント 労働衛生対策の基本4」
   産業医科大学「VDT作業とその対策 労働衛生対策の基本13」

※産業医の意見書について詳しく知りたいという方は下記の記事で詳しく紹介しておりますので、併せてご覧ください。

・復職における産業医の意見の重要度が高い

産業医は主治医の診断書の内容と業務内容を照らし合わせて、復職の可否についての意見書が作成可能です。実際に復職して休職前と同等の業務を遂行できるのか、同じ部署に復帰させてもストレス上問題ないかといった総合的な判断ができます。

そのため、産業医の意見書は、企業が最終的な復職可否の判断をする際に非常に有用な判断材料となるでしょう。 厚生労働省による職場復帰支援の手引きには以下のように記されています。

"主治医による診断書の内容は、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、それはただちにその職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らないことにも留意すべきである。また、労働者や家族の希望が含まれている場合もある。そのため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応について判断し、意見を述べることが重要となる。"

引用:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

復職面談で産業医がチェックする主な項目と復職を認めない理由

医師の服とカウンセリング用品

産業医が復職を認めない理由には、以下5つのチェック項目について条件を満たしていない可能性があります。

  1. 就業意欲はあるか
  2. 生活リズムは整っているか
  3. 体力は回復しているか
  4. 通勤に問題はないか
  5. 職場環境に適応できるか

ここからは、上記の理由について解説していきます。

就業意欲はあるか

就業意欲の高さは産業医が復職の判断において重要視する項目の一つです。そのため、企業側が復職してほしくても、休職者に就業意欲がなければ産業医は復職を認めないという場合があります。

就業意欲のない従業員を無理に復職させてしまうと、安全配慮義務違反となるリスクがある、復職しても企業が求めたいレベルの仕事はできないであろうと判断するためです。

就業意欲の高さを測定することは難しく、休職者へのヒアリングが主な手段となります。休職者は生活への不安を内に秘め、早く復職したいと焦っている場合も多いため、就業意欲が高く感じられることがあるかもしれません。しかし、このような場合は復職後にメンタルヘルス不調に陥るケースも多いため注意が必要です。就業意欲の事実を的確に把握するには、復職前だけでなく復職後も中長期的に見ていく必要があります。

生活リズムは整っているか

生活のリズムが仕事を意識したものになっているかどうかという点も、産業医は復職判断で大切にしています。休職中は自由になる時間が多いため、不規則な生活になりがちです。

生活リズムが整わない状態で復職させてしまうと、体と心に大きな負担をかけてしまいます。この状態では、復職しても仕事でかかるストレスに耐えきれないのでは、と産業医が判断する可能性があるでしょう。

生活リズムが整った状態で復職させるためには、休職者に起床・睡眠時間や外出時間など、1日の行動計画をつけてもらうように促します。スプレッドシートなどを活用してフォーマットを用意し休職者に活用してもらうことで、企業としてもデータに残せて管理しやすくなるでしょう。

体力は回復しているか

産業医は業務内容を考慮して、休職者の体力がフルタイム勤務に耐えられそうにないと判断するケースがあります。怪我による休職を含めた多くの場合、休職期間中に体力や筋力は低下してしまいがちのためです。

産業医から意見書で求められる場合もありますが、企業側でも復職時に残業の禁止といった就業制限を設けることや、周囲の理解を得ておく環境整備も大切です。就業規則上可能であれば時短勤務を検討しても良いかもしれません。また、休職者が回復傾向になって1日の行動計画をつけてもらう際には、ウォーキングなど軽めの運動を取り入れてもらうのもよいでしょう。

通勤に問題はないか

復職を許可したけれどもいざ出勤しようとしたら、職場まで辿り着けないといったケースもあります。そのため、通勤できるかも産業医にとって大切な判断基準の一つです。

怪我による休職では、通勤手段の変更が必要になる場合もあります。またメンタルヘルス不調の場合では、通勤時に以下のような症状が現れる可能性を考慮しておきましょう。

  1. 電車の人混みでパニックを起こしてしまう
  2. 職場近くに来たら急に怖くなってしまう

復職を判断する前には職場近くまで来てもらったり、人混みを避けるため出社時間を変更したりして問題ないかどうか試しておくのが有効です。

職場環境に適応できるか

休職の原因が労働時間や人間関係によるものと産業医が判断した場合には、休職期間中に職場環境の改善が求められます。この場合、改善を怠ってしまうと新たな休職者を生んでしまうリスクもあるため、問題としっかり向き合って解決に取り組んでいきましょう。

復職の判断をする際は、場合によって部署や業種変更を検討する必要があります。ですが、過去の判例で復職時の配属でトラブルになっている事案もあるため、休職者の意思を確認することも重要です。

産業医面談や定期連絡を通じて、休職者と復職後の業務内容について十分に話し合っておきましょう。また、産業医と相談して、休職者の要望に応えられるように、休職者に達成してほしい条件(復職後1カ月体調不良なしなど)を準備して休職者との合意を得ておくのも有効です。

産業医に求められるスタンスは「独立性と中立性」

医師

2019年4月1日より施行された「働き方改革関連法」により、従業員の健康と安全を確保するために産業医の活動を補助する目的で、労働安全衛生法が改正、第13条第3項が強化され、以下の内容が追記されました。

"産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。"

また、労働安全衛生規則第14条第7項では次のように定められています。

"産業医は、労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識及び能力の維持向上に努めなければならない。"

参考厚生労働省「働き方改革関連法解説(労働安全衛生法/産業医・産業保健機能の強化関係)」

産業医のあるべき姿は企業や従業員どちらか一方の味方ではなく、独立した中立の立場で医学的視点から企業の衛生管理や健康のサポートを担う存在です。産業医の存在意義を考慮すれば、法の強化で記されている一文は、記す必要のなかった当然の内容ともいえます。

しかし、過去には残念ながら休職者を退職させたい企業と産業医が結託し、休職者と争った事例もあります。従業員が安心して産業医に復職面談を相談できるようにするためにも、中立の立場で職務を行える信頼のおける産業医を選任することは、企業にとって重要です。

参考:東京労働局「改正労働安全衛生法のポイント」

まとめ

産業医は、主治医の診断書と職場環境を総合的に照らし合わせ、医学的視点から復職可否の判断を企業に提案します。最終的な判断は企業側にありますが、万が一のリスクもあるため、産業医の意見はなるべく尊重して判断するのがよいでしょう。

また、なるべく早く復職したいと考える従業員もいます。従業員の気持ちも大切にし、気持ちよく復職できる準備を整えて迎えてあげられるのが一番です。そのためには、企業が信頼のおける産業医と連携し、従業員が安心して復職準備に進めるようサポートしていく必要があります。

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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

   
       

         
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