働き方改革や健康経営の推進に伴い、産業医による面談や健康相談のニーズが高まっています。より多くの面談・健康相談に対応するために、オンライン面談に関心を示す企業も増えています。これらの事情から2020年11月に労働安全衛生法の一部が改正され、所定の要件を満たせばオンラインでの産業医面談ができるようになりました。
この記事では、産業医がオンライン面談を行う際の要件、注意点についてご紹介します。
労働者の身体面・精神面の健康状態を把握するためには対面による面談が効果的ですが、2020年11月からはオンラインでの産業医面談も可能になりました。
遠隔地に所属する労働者やリモートワーク(テレワーク)で働く労働者が産業医面談を受けやすくなるだけでなく、産業医にとっても移動時間の節約につながって面談数を増やせる効果を期待できます。オンラインで産業医面談を実施する際の要件について解説します。
パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器を用いた、医師による面接指導へのニーズの高まりなどを背景に、厚生労働省から「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」が一部改正され、通達されました。
産業医がパソコンなどを用いた面接指導を労働者に行う場合、この通達に記載された留意事項などを遵守する必要があります。その内容について、次から解説していきます。
先述の厚生労働省通達では、オンラインでの面接指導(産業医面談)を担当する医師が次のいずれかの要件に該当することが望ましいと定めています。
面接指導を実施する医師が事業場の産業医であれば、職場の巡視状況や対象労働者への面接指導歴などは問われません。臨床医が面接指導を実施しても差し支えありませんが、職場巡視や衛生委員会を通じて、職場環境を継続的かつ具体的に把握している産業医が面接指導に関与するのが望ましいです。
また、時間外労働・休日労働時間が長い人への面接指導(産業医面談)は、企業の規模にかかわらず義務化されています。従って、常時使用する労働者数が50人未満の職場でも面接指導の対象になる労働者がいれば、前述した条件を満たす医師であればオンラインの面接指導に関与できます。
なおオンラインで面接指導を実施する場合は、担当する産業医(医師)にあらかじめ次の内容を伝えておくことが前提条件です。
オンラインで産業医面談を行う際に使用する情報通信機器について、具体的な機器名やシステム・通信回線の種類は法令で定められていません。ただし、情報通信機器を選ぶ際は、厚生労働省通達に定められた次の要件をすべて満たす必要があります。
オンライン面談を実施する際は、カメラ、マイク、スピーカー機能が付いたパソコンやスマートフォン、タブレットを準備します。セキュリティ対策も必須です。モバイル回線やWi-Fiで通信する場合は、通信が途切れないよう電波状態が安定している場所を選ぶようにします。Wi-Fiの通信設定では、セキュリティーレベルが高いTKIP方式またはAES方式を選ぶようにするとよいでしょう。
オンライン面談で利用するツールは、多くの企業・個人に普及しているWeb会議システム(Zoom、Google Meetなど)やSNSのビデオ通話機能(LINE、Instagram)、ビジネスチャット(Chatwork・Slackなど)が候補として挙げられます。労働者の使いやすさに配慮するため、複数のツールを提示しておくとよいです。労働者の表情や顔色、しぐさを確認できれば、担当医の判断で手話や筆談によるオンライン面談も実施可能です。ただしカメラをOFFにした状態ではオンライン面談が成立しないので注意してください。なお音声通話やメール、ショートメッセージ(SMS)といった、リアルタイムで映像を確認できないツールはオンライン面談には使用できません。
オンラインで産業医面談を行う方法も厚生労働省通達で定められており、以下の2点を満たす必要があります。
リモートワーク(テレワーク)の普及に伴い、面接指導の対象となる労働者からオンライン面談をリクエストされる場面が出てくるかもしれません。早い段階で、オンライン面談の実施方法について衛生委員会で協議しておくことをおすすめします。
詳しくは後述しますが、オンライン面談では労働者のプライバシー保護も求められています。各事業場は面談の日時に合わせて会議室や応接室などを利用できるようにして、上司や同僚などに面談内容を知られないようにする配慮が必要です。あわせて、産業医としても院内の面談室などを活用するなど、面接指導に関係する産業保健スタッフ以外に面談内容が漏れないよう注意しましょう。
引き続き、産業医面談をオンラインで実施する際に注意点について解説します。
オンラインでの産業医面談を導入する前に、衛生委員会で導入の是非について審議する必要があります。審議の際に産業医の同席を依頼しておけば、オンライン面談の方法や注意点について具体的なアドバイスを受けられます。オンライン面談の導入が決まったら、掲示物や社内ポータルサイトなどですべての従業員に周知しましょう。
面談指導の中で労働者から得た情報は、個人情報保護法で要配慮個人情報として指定されています。あわせて、担当医や面接指導に関与した人には労働安全衛生法第105条によって守秘義務が課せられています。万が一情報漏洩があった場合は、労働者からの信頼を失ってしまうので注意が必要です。労働者の心理面への配慮や音声・映像の流出防止の観点から、録音・録画は行わない方が良いと言えます。
効果的な面接指導を実施するためには、産業医、労働者それぞれのプライバシーが守られる環境づくりも重要です。労働者が安心して産業医の面接指導を受けられるよう、社内の空いているスペースや社外の貸会議室を提供します。会議室などの予約手続きの際には、面接指導で使用する旨を明かさないようにしましょう。産業医としても、他人が立ち入らない場所で面談を実施する配慮が必要です。
前述したように、産業医のオンライン面談では表情や顔色、声(会話内容)、しぐさなどを医師と労働者が確認できる環境でなければなりません。対面での面談と同じように労働者の状況を把握できるよう、室内の明るさやカメラの角度、マイクの音声を調整するようにしましょう。労働者のありのままの状態を把握するため、オンライン面談で使うツールに付いている顔や画面の加工機能はOFFにしてもらうようにします。
産業医の判断でオンライン面談を差し控えた場合や、産業医がオンライン面談を実施しない方針をとっている場合には、対面で面接指導を実施することになります。オンライン面談の実施が難しい場合の対応方法について解説します。
新型コロナウイルスへの感染を避けるため、対面で面談を実施する際は窓を開けたり換気扇などを活用したりして、室内の換気を十分に実施するようにします。面談で使う部屋のドアを開放すると周囲に内容が漏れるリスクが高まるので事前に音漏れの確認を行います。産業医と労働者の間に透明なパーティションを設置すると、飛沫感染の防止に効果的です。面談の実施後は、机や椅子などの備品を消毒しましょう。
産業医や労働者の体温が37.5℃以上、または平熱より1℃以上高い場合は当日の面談をキャンセルするようにします。産業医や労働者の家族が発熱している場合も同様です。体調が落ち着いた頃に産業医から連絡をとるか、労働者が都合の良いタイミングで産業医に連絡するよう案内しましょう。
企業が選任している産業医がオンライン面談に対応していない場合は、面接指導のオンライン化の検討を依頼してみましょう。産業医へ相談する際には、職場の実態やオンライン面談のメリットを伝えるようにします。場合によっては、オンライン面談に対応してくれる産業医への切り替えを検討するのも一つの方法です。
オンライン面談を希望する場合は、社内の体制整備が必須です。オンライン面談を実施する流れや使用する機材、システムについて衛生委員会で協議し、記録に残しておきます。オンライン面談に関する方針がまとまっていれば、産業医への相談もスムーズに進みやすいです。産業医からオンライン面談の承諾が得られたら、就業規則などの社内規程に具体的なルールを明文化しておきましょう。
近年ではオンラインでの面接指導だけでなく、衛生委員会への参加や安全衛生教育などの産業医活動についてもオンライン化のニーズが高まっています。それを受け、2021年3月の厚生労働省通達でオンラインによる産業医活動の留意点が示されました。産業医活動の中には、職場巡視などオンライン対応にそぐわないものもある点に留意が必要です。ここでは、産業医活動のオンライン化に関するポイントを2点紹介します。
参考:厚生労働省労働基準局長通達 基発0331第4号(令和3年3月31日)「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」
産業医による職場の定期巡視は実地で行う必要があると、厚生労働省通達で定められています。視覚や聴覚による情報収集にとどまらず、産業医自身が職場の臭いや肌で感じられる温度、刺激などデジタル化できない情報からも作業環境を把握する必要があるためです。さらに、職場巡視によって作業方法や衛生状態の問題が判明した場合は、即座に労働者の健康被害を防止する措置をとることが求められています。職場の状況をWebカメラなどで産業医がリアルタイムに把握できても、職場巡視を実施したことにはならない点にもご注意ください。
衛生委員会や安全委員会、安全衛生委員会は、以下の条件をすべて満たすことを前提にオンライン開催が認められています。
(参考)厚生労働省労働基準局長通達 基発0827第1号(令和2年8月27日)「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」
産業医の業務状況によっては、オンラインであっても衛生委員会に参加できない場面も想定されます。その場合は、衛生委員会の審議に必要な資料をあらかじめメールなどで送信した上で、産業医の意見を聞くようにします。意見の検討に必要な時間を十分に確保し、複数の意見が出た場合のとりまとめ役を決めておくと審議がスムーズに進むでしょう。
産業医と労働者が会話しながら、互いの表情をリアルタイムに確認できる状況であればオンラインでの産業医面談(面接指導)が可能です。労働者が安心して産業医に相談できるよう、企業と産業医が協議してプライバシー保護やセキュリティ対策などに取り組む必要もあります。産業医面談のオンライン化が進めば多くの労働者の面接指導に対応でき、企業と労働者との信頼も高まるでしょう。
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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。