コラム
産業医

産業医面談ではどのようなことを話すのか?

産業医面談とは、事業場に選任された産業医と従業員が行う面談のことです。従業員の健康状態を分析し、安心して働けるよう就労環境の改善やサポートをすることを目的として実施されます。

産業医面談では具体的に何を話すのか、実施する内容はどのようなものなのか、産業医面談の意義や効果、実施における注意点などを詳しく解説します。

産業医面談とは

まずは、産業医面談とはどんなものなのか、産業医面談の基礎知識について解説します。

従業員に対して医師の立場から専門的な健康指導を行う

産業医とは、会社の従業員が健康的に就労できるよう、企業や従業員に対し、労働衛生の専門家として指導やアドバイスを行う医師のことです。労働安全衛生法において、一つの事業場の従業員数が50人以上の企業や組織では産業医の配置が義務付けられています。

産業医面談とは、産業医と従業員が行う面談のことです。従業員の心身の健康に問題がないか確認し、企業と従業員の双方に適切な助言や指導をする目的で実施されます。

労働契約法では、従業員の健康と安全に配慮を求める「安全配慮義務」を企業に課しています。「必要なタイミングで産業医面談を行ったかどうか」は、企業が安全配慮義務を果たしているかの判断材料になるため、面談制度を整備する必要があるのです。

面談を行う場所は?

産業医面談の実施場所は、産業医との契約形態によっても異なりますが、通常は会社の会議室や健康管理室などで実施されます。従業員のプライバシーを守らなければならないため、情報漏洩の心配がない個室を用意するのが一般的です。

以前は対面での実施が原則でしたが、2020年11月に労働安全衛生法が一部改正され、以下の条件などを満たせば、オンラインでの実施が認められるようになりました。

面接指導を実施する医師は、「以下のいずれかの場合に該当することが望ましい」とされています。

1.面接指導を実施する医師が、対象労働者が所属する事業場の産業医である場合

2.面接指導を実施する医師が、契約(雇用契約を含む)により、少なくとも過去1年以上の期間にわたって、対象労働者が所属する事業場の労働者の日常的な健康管理に関する業務を担当している場合。

3.面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、対象労働者が所属する事業場を巡視したことがある場合。

4.面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、当該労働者に指導等を実施したことがある場合。

引用:厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」

面接指導に用いる情報通信機器は、以下のすべての要件を満たす必要があります。

1.面接指導を行う医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるものであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。

2.情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が確保されること。

3.労働者が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、容易に利用できること。

用:厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」

ただし、身体面や精神面の健康状態を正確に把握することを鑑みると、基本的には対面が望ましいとされています。

面談を行う際の持ち物

産業医面談の内容によっても異なりますが、最低限下記の書類は事前に準備をしておくと、面談がスムーズに実施出来ます。

  • 健康診断結果
  • 直近1ヶ月の勤怠管理表
  • 従業員のプロフィール情報

他に、ストレスチェック後の面談であれば、

  • ストレスチェックの結果票

復職の面談であれば、

  • 主治医の診断書

を準備するのが一般的です。
必要な書類は人事担当者が用意しますが、診断書など従業員本人が持参すべき物があれば、あらかじめ周知するようにしましょう。

産業医面談に同席する人はいるか?

産業医面談は基本的に産業医と従業員が1対1で行うので、原則として人事担当者や上司は同席しません。

ただし、復職に向けての障害を確認しなくてはならない場合など、人事担当者や上司が同席するケースもあります。その場合は従業員本人にその旨を周知し、同意を取ります。

守秘義務と報告義務がある

産業医面談において、担当する産業医は「守秘義務」と「報告義務」を守らなくてはいけません。

守秘義務は、面談で話した内容や従業員の心情などを、無断で漏らしてはいけない義務です。上司や人事担当者であっても、無断で共有することはありません。ただし、必要なサポートや指導を行う上で会社への報告が必要な場合や、緊急性が高いと判断される場合には報告義務が発生します。企業が従業員に対して負っている「安全配慮義務」を果たすために、早急な改善が必要であれば、企業にその旨が報告されます。

産業医面談の意義と効果

産業医面談では守秘義務が守られるため、上司や人事担当者、同僚には打ち明けにくい悩みでも相談しやすいといえるでしょう。

業務の負担やチームメンバーとの不和、上司からのハラスメントなどは、社内の人には話しづらいと感じる人も多いです。社外の人間であったり、直接的に業務でのかかわりがなかったりする産業医であれば、従業員も気持ちを打ち明けやすいでしょう。職場環境の改善指導やメンタル面のアドバイスなど、従業員への的確なサポートにもつなげてもらえます。

また従業員の不調を早期発見でき、休職の防止や退職率の低下が期待できます。従業員のメンタル面が健康に保たれていると、仕事に対するモチベーションも維持され、生産性アップにつながるなど、企業側にもメリットがあるのです。

産業医面談は拒否できるのか

中には仕事が忙しく時間がないなどの理由や、話したことが上司に伝わるかもしれないという不安から、産業医面談を受けたがらない従業員もいます。

しかし産業医面談には法的な強制力がありません。そのため従業員に対して面談を強制することはできず、従業員が合意した場合や本人の希望があった場合に実施されます。

とはいえ、そのまま放置しては「安全配慮義務」に違反しているとみなされる可能性があります。その場合には企業には従業員の安全を守る「安全配慮義務」があり、産業医面談は従業員のために実施される面談であることを、従業員に理解してもらうことが大切です。それでも拒否される場合は、安全配慮義務を果たしていることが証明できるよう、従業員とのやりとりを記録しておくと安心です。

また、雇用契約や就業規則などに産業医面談についての記載があり、業務命令として実施する際は、従業員は正当な理由なく産業医面談を拒否できない場合があります。

産業医面談が行われるのはどんなときか

仕事による身体の異常

産業医面談はどのようなタイミングで行われるのでしょうか。実施すべき場面を解説します。

長時間労働が続いたとき

長時間労働は、脳や心臓の疾患や精神疾患の発症と関連性が強いことから、労働安全衛生法第66条により、リスクが高まっている労働者に対して産業医面談を実施することが義務付けられています。

面談実施の具体的な条件については、以下の3つと定められています。

1.労働者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く):月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者

2.研究開発業務従事者:1に加えて、月100時間超の時間外・休日労働を行った者

3.高度プロフェッショナル制度適用者:1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について月100時間を超えて行った者

引用:厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」

該当者にもれなく面談を実施するため、企業はタイムカードやパソコンの使用記録などの適切な方法により、従業員の労働時間を把握しなくてはいけません。該当者がいた場合、企業は速やかに該当者本人にその事実を通知して、産業医に情報提供を行います。産業医面談は労働者本人の申出によって実施しなくてはいけないため、産業医から労働者に面談の申出をするよう勧奨します。

高ストレスと診断されたとき

2015年に労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上の事業場に対して、年1回ストレスチェックの実施が義務付けられました。ストレスチェックは、ストレスに関する質問票を労働者が記入し、その結果を集計・分析して従業員のストレス状態を把握する検査です。

検査の結果、医師による面談が必要と判断された従業員から申し出があった場合、企業は医師に面談を依頼しなくてはいけません。希望がなければ面談を実施する必要はありませんが、面談内容によっては労働時間の短縮や部署の転換など、労働環境の改善対応や通院を促し医療に繋げるケースもあります。

※ストレスチェックによって高ストレスと診断された後の流れについては「ストレスチェック後の高ストレス者に対する産業医面談の流れなどを紹介」の記事で詳しく紹介しておりますので、併せてご覧ください。

健康診断の結果に異常所見があったとき

企業は、年1回従業員の健康診断を実施するよう義務付けられています。健康上の問題やメンタルヘルスの不調などが見つかった場合、産業医や保健師から保健指導が行われるケースがあります。

他にも、体調不良による欠席や遅刻、早退が続いており、業務に支障が出ている場合にも、産業医面談が実施される事があります。

産業医面談は自ら希望したときに受けることができる

上記のような制度に該当しない場合でも、従業員本人が体調やメンタルに不安を抱えており、面談を希望すれば産業医面談の実施が可能です。産業医は、必要に応じて休職や時短勤務など就労環境の改善を提案したり、専門クリニックの受診を勧めたりします。

人事担当者は産業医面談の制度内容や趣旨を社内周知し、気軽に相談できる環境を整備することが大切です。

産業医面談では何を話すのか?何を聞かれるのか?

産業医面談は診察ではなく、労働環境や業務状況を把握してストレスの原因などを分析し、アドバイスにつなげるためのものです。そのため、働いている環境や業務内容、必要に応じてプライベートでの困難や不安などについて質問がされる事もあります。具体的な内容について、項目ごとに紹介します。

身体面の事柄について

まずは、身体面の健康や生活習慣などについて質問されます。具体的には、睡眠や食事は1日どのくらい取れているか、運動習慣はあるか、飲酒や喫煙の習慣はあるか、どのくらいの量かなどを聞かれます。睡眠時間が減った、たばこの本数が増えたなど、生活習慣の小さな変動が病気の予兆である可能性があるためです。

「注意されたくないな」と感じる従業員もいるかもしれませんが、産業医は従業員の健康状態を正確に把握することを目的としていますので、正直に答えることが大切です。

精神面の事柄について

職場における人間関係や、その中で感じている悩みやハラスメントがないかなど、精神面についても質問されます。職場の人間関係に関する悩みは上司や人事担当者に打ち明けづらいことも多く、一人で抱え込んでメンタルバランスを崩すケースもあるためです。

また、労働時間や業務量についても聞かれることがあります。過重労働は心身の健康に影響を与えやすいため、詳しくヒアリングして負担が大きすぎないか判断します。

就業、休職にまつわる事柄について

体調不良が続いており、就労が困難と判断される従業員に対しては、休職や時短勤務にするなど働き方の転換をアドバイスするケースがあります。

産業医は面談を通して従業員の健康状態を分析し、就業可能かどうか、業務量や時間の調整が必要か、一定期間の療養、休養が必要かなどを判断します。また、必要に応じて受診を促すなど医療に繋げる事もあります。産業医の判断や意見をふまえて、企業は従業員との相談のもと休職や部署転換などを検討しなくてはいけません。

復職について

復職する際は主治医の診断書が必要になります。産業医は主治医の診断を踏まえて、産業医面談を実施します。復職前の面談は、診断書の通り復職して問題ないかを判断するためのものです。具体的には、休職期間中の生活習慣や、希望する労働環境、就労に対する意欲はあるか、復職に向けて何が不安かなどを確認します。

面談の結果、業務量の調整などが必要と判断された場合は、企業は従業員との相談のもと、対策を検討します。

退職について

産業医面談において従業員が退職を希望した場合、従業員の就労状況について詳しく質問されることがあります。引き留めようとしているわけではなく、業務状況に原因があって退職を希望しているのであれば、部署変更や業務内容の見直しなどの措置によって就業を継続できる可能性があるためです。

産業医面談において企業側・人事担当者が配慮すべきこと

職場の配慮と心の健康

産業医面談を効果的に取り入れるために、企業や人事担当者はどのようなことに配慮すべきでしょうか。実施のポイントを解説します。

従業員に産業医面談の意義や産業医の役割を共有する

産業医面談を従業員に活用してもらうためには、従業員が制度の存在を認識し、自ら面談を希望しなくてはいけません。単に制度の存在を周知するだけでなく「相談した内容が上司や同僚に共有されることはない」など、不安の払しょくになる情報を提供し、産業医面談の目的や意義、メリットが理解されるよう努めましょう。

面談の通知方法に配慮する

特にメンタル面の不調を訴えている場合などは、産業医面談を利用することを他の社員に知られたくないと思っているケースが少なくありません。面談を希望する社員に日程や場所などを通知する際は、メールやチャットなどを活用し、周囲に分からないよう十分に配慮してください。

業務内容を見直すなど措置を検討する

産業医面談を受けて就労環境の改善が必要と診断されたら、速やかに長時間労働の是正や業務内容の見直したりといった適切な措置につなげましょう。過重労働やハラスメントなどが明らかになった場合、より詳しく実態を調査する必要もあります。

産業医と連携し職場環境の改善に取り組む

企業と産業医は恒常的に必要な情報を共有しながら、連携して職場環境の改善に取り組むことが重要です。就労環境の改善は従業員の健康維持だけでなく、モチベーションや生産性アップにもつながるので、継続的な改善活動を目指しましょう。

まとめ

産業医面談は従業員の体調やメンタルヘルスの状況を把握し、健康的に働ける労働環境を維持するために実施されます。長時間労働やストレスチェックで問題があった場合だけでなく、従業員の希望があればいつでも産業医面談を実施することが可能です。

産業医面談は、基本的に従業員本人の希望によって実施されるため、制度が社内に周知されていなければ活用されません。制度の目的や意義を含めて社員に共有し、社員が安心して相談できる環境を整備して、モチベーションや生産性の向上につなげましょう。

自社の面談を担当してくれる産業医を探している場合は、産業医を紹介してくれるサービスもあるので、そちらの利用を検討してもいいでしょう。

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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

   
       

         
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