コラム
産業医

産業医の職場巡視とは?巡視の頻度はどれくらい?

産業医の職場巡視は労働者の心身の健康を守り、企業の生産性を向上させるために重要な業務です。定期的な職場巡視を通じて、企業の安全配慮義務の履行をサポートする一面もみられます。

2017年6月に労働安全衛生規則が改正され、一定の条件を満たせば、産業医が行う職場巡視の頻度を毎月1回以上から2カ月に1回以上へと変更することが可能になりました。具体的にはどのような条件を満たせばよいのでしょうか。産業医の職場巡視の頻度を2カ月に1回以上にするための条件や職場巡視のポイントを詳しくご紹介します。

産業医の役割と仕事内容

産業医の役割とは、労働者の健康管理や作業環境の調査・評価を通じて安全・快適な職場づくりをサポートすることです。労働契約法第5条で定められている安全配慮義務についても、医学的な観点で関与します。労働者の健康障害を防ぐために必要な対策を企業側にアドバイス、提案する場面もあります。

労働安全衛生規則第14条第1項で定められている、産業医の主な仕事内容は以下のとおりです。

  • 健康診断の実施とフォローアップ
  • 長時間労働者への面接指導と保健指導
  • ストレスチェックの実施
  • 高ストレスと判断された労働者との面談
  • 事業場の作業環境の管理
  • 健康相談や健康教育・衛生教育
  • その他労働者の健康管理に必要な業務

近年では休職者や復職者、妊娠中の従業員と面談して無理なく働けるよう検討する事例も増えています。労働者や作業環境を実際にチェックするために、職場巡視も行います。

※産業医について詳しく知りたいという方は「産業医とは? 医師との違いや仕事内容を紹介」の記事で詳しく紹介しておりますので、併せてご覧ください。

産業医の職場巡視は必ず行わなければならないのか?

産業医の職場巡視は必須なのでしょうか。職場巡視の目的とともに確認してみましょう。

産業医の職場巡視は義務

産業医には、少なくとも毎月1回以上の職場巡視が労働安全衛生規則第15条で義務づけられています。

“(産業医の定期巡視)

第15条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。”

引用:e-Gov「労働安全衛生規則第15条」

職場巡視をしていない現場で業務に起因するケガや病気が発生した場合には、安全配慮義務違反が問われる可能性があります。また、職場巡視の義務に違反して労働基準監督官に送検された場合は、厚生労働省や各都道府県労働局のホームページで企業名が公表される事もあります。

労働者や職場の安全確保だけでなく、企業の信用やブランド価値が低下するレピュテーションリスク対策の面からも産業医の職場巡視は重要な仕事なのです。

産業医の職場巡視の目的

産業医の職場巡視の目的は、労働者の職場環境や作業状況を実地で確認した上で、安全衛生上の問題点を改善することです。労働安全衛生規則第15条で労働者の健康障害の防止義務が定められているため、職場巡視は産業医の重要業務として位置づけられています。

職場巡視で安全衛生上の問題が見つかった場合は、医学的な知見をもとに検討した具体的な対策や、改善点を職場の管理者や事業主に指導します。衛生管理者と共有した情報や過去の指導点を踏まえて産業医としてのチェック項目を決めることも、産業医の職場巡視の効果を高める一つの方法です。また、健康経営の一環として職場の管理者や労働者とコミュニケーションをとり、心身の健康リスクを早期に把握する取り組みにも注目されています。

職場巡視のタイミング

職場環境や作業状況をきめ細かく把握するために、産業医の職場巡視を頻繁に実施したいと考える企業もあるようです。しかし、健康面や安全面でのリスクマネジメントに有効な反面、産業医の業務量を増やす懸念があります。職場巡視を効果的に行うには企業と産業医が相談して、自社や現場に適したタイミングを決めることが大切です。

産業医が行う職場巡視のポイント

職場巡視

産業医が職場巡視を効率的かつ効果的に実施できるよう、必要な頻度やチェック項目も確認しておきましょう。

職場巡視の頻度

前述したとおり、職場巡視の頻度は原則として毎月1回以上と定められていますが、2017年6月の労働安全衛生規則の改正によって職場巡視の頻度を2カ月に1回以上にすることが可能になりました。

しかし前提として「2カ月に1回でもよい」という法改正は、産業医の訪問回数を減らすことが目的ではないことを、企業も産業医も十分理解しておかなければなりません。

職場巡視の頻度を2カ月に1回にしても、所定の情報を企業から産業医に毎月提供するという条件が定められています。産業医による職場巡視と企業の衛生管理者などが収集した情報を組み合わせて、労働者の健康管理や作業環境の改善を効果的に進めるのが規則改正の趣旨です。職場巡視の頻度を変更するには産業医の意見なども求められるため、企業の判断だけでは産業医の訪問回数を減らせない点にご留意ください。

職場巡視を「2カ月に1回」以上にするための条件とは?

職場巡視を2カ月に1回以上にするための2つの条件を具体的にご紹介します。

条件1 「事業者の同意」が必要

職場巡視の頻度を2カ月に1回以上に変更するためには、事業者(企業)の同意が必要です。事業者の同意を得る前に、産業医が職場環境・作業環境に関する意見を出した上で、衛生委員会などで調査・審議を行う必要があります。また、職場巡視を2カ月に1回以上にできる期間を定める必要があり、期間を更新する際も衛生委員会での協議が必要です。

条件2 「所定の情報」を事業者から産業医に毎月提供する

職場巡視の頻度を2カ月に1回以上に設定している期間中は、所定の情報を産業医に毎月提供する必要があります。巡視の頻度が少なくなっても、産業医に求められる仕事内容は変わらないためです。所定の情報は、職場環境・作業環境を把握するために必要な以下の情報です。

  1. 衛生管理者が実施した職場巡視の結果
    毎週1回以上の職場巡視で得られた、設備・作業方法や衛生状態における有害事象や講じた対策についての情報提供が必要です。
     
  2. 衛生委員会等の調査・審議により、事業者が産業医に提供すると指定した情報
    一例として、新規に採用する化学物質・設備を使った業務内容や作業条件が挙げられます。
     
  3. 時間外・休日労働の時間数が月100時間を超えた人の氏名と労働時間に関する情報
    該当者がいない場合にも、その旨の情報提供が必要です。

参考:厚生労働省「産業医制度に係る見直しについて」

職場巡視を行う際のポイント

職場巡視は、産業医が職場の実態を把握する良い機会です。職場巡視を行う際の具体的なチェックポイントをご紹介します。なお、職場環境の具体的な基準は「事務所衛生基準規則」で定められています。
(参考:厚生労働省「職場における労働衛生基準が変わりました」

①空気や温熱環境

職場内の温度・湿度やCO2の濃度が適正範囲内かどうかを確認します。事務所や工場など2名以上が利用する場所では、健康増進法により敷地内禁煙となっているため、職場内への煙の流出防止などの受動喫煙防止対策が必須です。感染症拡大を防ぐ観点からも、換気設備が正常に動作しているかも確認するようにしましょう。

【空調を使用する場合の温度・湿度・CO2濃度の適正範囲】

温度18~28℃
湿度40~70%
CO2濃度1,000ppm以下
参照:e-Gov「事務所衛生基準規則第5条」

②採光と証明

眼精疲労などの健康障害を防ぐ観点から、職場内の採光や照明設備が作業ごとに適切な照度を確保できる状態かどうかの確認も必須です。作業ごとの照度基準は、日本産業規格JIS Z 9110(2010照明基準総則)で具体的に定められています。パソコンやタブレット、スマートフォンといった情報機器を使用する職場では、正しい作業姿勢を保てるか、一定時間ごとに休憩できているかも確認しましょう。

なお、職場に設置している照明設備については、6カ月以内ごとに1度の点検が義務づけられています(事務所衛生基準規則第10条)。

【作業面の照度基準】

一般的な事務作業300ルクス以上
付随的な事務作業150ルクス以上
参照:厚生労働省「職場における労働衛生基準が変わりました」

③休養と休憩室

必要に応じて労働者が休憩できるスペースが確保されているか、職場と同様に適切な温度や湿度、CO2濃度が保たれているかも、職場巡視の際に確認するようにします。常時50名以上の労働者がいる職場や、女性労働者だけで常時30名以上の職場については、横になって休める男女別の休養室を設置する必要があります。仮眠を伴う職場の場合は、寝具など睡眠できる設備も必要です。

なお「常時30名」「常時50名」の判断はパートタイマーや派遣社員を含めて、勤務日数・時間数にかかわらず普段から職場に在籍しているかどうかで判断します。「毎日女性労働者が30名以上」または「毎日50名以上の労働者」が勤務しているという意味ではないので注意しなければなりません。

④整理整頓、清掃

整理・整頓・清掃が実践されているかの確認も、職場内での事故や疾病を防ぐためには重要なチェックポイントです。高齢者雇用・障害者雇用が進む中、安心して働ける環境づくりにも効果を発揮します。地震や火災といった災害対策面でも有効です。事務所衛生基準規則で、6カ月以内に1度の大掃除(第15条)や労働者の清潔保持義務(第16条)も義務化されているので、職場内だけでなく労働者の様子もチェックするようにしましょう。

⑤AEDや消火器、防災備品など

負傷者や急病人の発生に備えて、職場内にAED(自動体外式除細動器)や救急用具が設置されているかの確認も必要です。特にAEDは救命活動を素早く開始できるよう、職場のどの場所からでも1分以内で取りに行ける場所に設置されているかも確認するようにします。常備薬を設置している場合は、使用期限にもご注意ください。

あわせて、ヘルメットや保存食、非常用トイレなどの防災備品の設置・管理状況も確認するようにします。労働者や来客の安全確保はもちろん、企業のBCP(Business Continuity Planの略語。事業継続計画のこと)対策、地域住民へのCSR(Corporate Social Responsibilityの略語。企業の社会的責任のこと)にも有効です。

職場巡視の際はチェックリストを用意しよう

ここまでご紹介したように、産業医が職場巡視でチェックする項目は多岐にわたります。チェックの抜けや漏れを防ぐために、チェックリストの準備をおすすめします。職場巡視の結果を記録するツールとしても有効です。

なお、独立行政法人労働者健康安全機構茨城産業保健総合支援センターでは、産業医による職場巡視チェックリストのサンプルを公開しています。チェックリストを作成する際には参考にしてください。

職場巡視が終わってからの対応

職場巡視が終わったら産業医や衛生管理者、職場の管理職とミーティングを行い、問題点の共有と解決すべき課題の検討を行います。職場巡視の当日に衛生委員会を開催すれば産業医の出席率が高まり、医学的な知見を得ながら実効性の高い対応をとることが可能です。職場の安全衛生に関する課題を解決するだけでなく、巡視で得られた評価結果を踏まえて良好な職場環境の確保につなげていくことも大切です。労働者への安全衛生教育の実施についても検討するとよいでしょう。

職場巡視にまつわる疑問を解決

Q&A

産業医の職場巡視で気になる疑問とその回答を2つご紹介します。

職場巡視はオンラインでも可能か?

産業医の定期巡視は実地で行う必要があると厚生労働省通達で定められているため、オンラインでの職場巡視はできません。職場巡視では視覚や聴覚だけでなく、嗅覚や触覚による情報収集も必要とされているからです。作業方法や衛生状態が有害な状態だと産業医が判断した場合は、即座に必要な措置を講じる義務も課せられています。

なお、労働者に対する研修や健康相談、面接指導や衛生委員会などの会議についてはオンライン対応が可能です。
【参考】厚生労働省労働基準局長通達 基発0331第4号 令和3年3月31日「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」

職場巡視を実施しない場合、罰則はあるか?

産業医が職場巡視を実施しなかった場合は、労働安全衛生規則第15条の義務違反として50万円以下の罰金刑に科せられる場合があります。

企業が産業医を選任していても、産業医が法律で定められた業務を行わなければ(いわゆる名義貸し状態)、労働安全衛生法第13条違反として50万円以下の罰金刑に科せられる場合があります。

労働安全衛生法第122条の両罰規定により、産業医・事業者(企業)両方が罰せられる場合もある点にもご留意ください。

まとめ

産業医の職場巡視は月1回以上が基本ですが、所定の情報を毎月提供するなど一定の条件を満たせば2カ月に1回以上の職場巡視も認められるようになりました。

職場の安全衛生に関する基準も法律で定められており、チェックリストを活用した確実な記録も求められます。職場の安全衛生環境を確保し、企業としての安全配慮義務を果たすためには信頼できる産業医の選任が重要です。

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<株式会社メディカルトラスト編集部>
2001年から産業医、産業保健に特化して事業を展開。官公庁、上場企業など1,000事業場を超える産業医選任実績があります。また、主に全国医師面談サービスの対象となる、50名未満の小規模事業場を含めると2,000事業場以上の産業保健業務を支援。産業医は勿論、保健師、看護師、社会保険労務士、衛生管理者など有資格者多数在籍。

   
       

         
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