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最近よく聞かれる言葉に「ウェルビーイング」があります。会社の組織づくりでも、ウェルビーイングを重視する企業が増えています。ウェルビーイングは「幸福」と訳されますが、心身の健康や社会的な充足度も含め、満ち足りたあり方を指すニュアンスがあります。本記事では、ウェルビーイングの概念を確認したうえで、職場のウェルビーイングを向上させるヒントをお届けします。
まず「ウェルビーイング」とは何か、基礎知識から見ていきましょう。
ウェルビーイング(well-being)の直訳は「よい – 状態」となりますが、辞書的な意味は以下のとおりです。
▼ well-being*1
よい[満足すべき]生活状態,健康で幸福で繁栄している状態;幸福,安寧,福利,福祉
ウェルビーイングと同じく「幸福」と訳される言葉に、「ハピネス(happiness)」があります。ハピネスはハッピー(happy)の名詞形で、「うれしい、楽しい、快楽、幸運」というニュアンスを持つ言葉です。ウェルビーイングが「状態、あり方」を表す概念であるのに対し、ハピネスは「その時々の感情」に重きがあります。
「ウェルビーイングの意味は幸福」と聞いて、ハピネスのニュアンスで捉えてしまうと、ウェルビーイングの本質が抜け落ちます。「ハピネスも重要だが、それはウェルビーイングの一部でしかない」という考え方があるからです。ウェルビーイングはハピネスよりも多次元的で、包括的です。
続いて、もう少し具体的に見ていきましょう。「ウェルビーイング」の言葉が登場する有名な文章に、WHO憲章前文があります。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
―益社団法人 日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」 ※日本WHO協会訳
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
文中の「肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態」という言葉こそ、ウェルビーイングを理解する鍵となります。
もうひとつ、 OECD(経済協力開発機構)の“より良い暮らし指標(BLI:Better Life Index)”は、「ウェルビーイングには以下11の要素が関与している」という観点から、設計されています。
出所)内閣府「第2章 2.4.1 人口全体のウェル・ビーイング指標」
ここまでのお話をまとめると、ウェルビーイングとは、「個人・社会・世界が最終的に目指す目的地であり、人間の根源的な幸福に通じる、普遍性ある概念」といえるでしょう。
ここから会社組織におけるウェルビーイングに話を移しましょう。従業員のウェルビーイングは、組織の重要な構成要素です。ウェルビーイングが高い職場は、生産性が高くなります。その理由はシンプルです。従業員がポジティブで元気なら、能力が十分に発揮され、職場の人間関係はギスギスしなくなり、チームワークがよくなります。皆が楽しそうに働いていると、ジョインしたい仲間がやってきて、採用にも困りません。
実際、さまざまな企業が、ウェルビーイングを向上させる取り組みを実践しています。
▼ 取り組みの一例
筆者自身、会社組織で従業員のウェルビーイングを高める活動に従事していました。しかし、実際に取り組んでみると、つまずくことも多かったのが正直なところです。3つのポイントに絞ってご紹介します。
スティグマとは「烙印」という意味で、たとえば、精神医療の分野では以下の意味で使われます。
スティグマをごく簡単に表現すると、「精神疾患の当事者やサービス利用者が、周囲の人や社会から不当に評価されることや不当な扱いを受けること」といえると思います。
―国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター「リカバリー、スティグマ、メンタルヘルスリテラシー」
ウェルビーイングにおいて「精神的・身体的な健康の増進」は欠かせない要素です。しかし、不調を抱えると「会社に知られたくない」と隠そうとする行動が、一部の従業員に見られました。健康面をサポートするプログラムを用意しても、本当に利用してほしい人には利用してもらえないジレンマです。
ウェルビーイングでは、「会社内での人間関係や働き方が健康なら、それでよい」とはなりません。子育てや看護・介護、経済的な事情、ワークライフバランスなど、従業員の総合的な幸福に取り組むことが、重要なカギとなります。しかし、従業員によってはプライベートと会社での自分を切り分けていたり、副業などで複数の居場所を持っていたりします。ウェルビーイングの包括的な概念が、どれだけ現場で機能させられるのかは、難しさを感じる場面でした。
ウェルビーイング向上に取り組みたい多くの企業が、最初に導入するのは「セルフケア」です。
たとえば、フィットネスジムや各種スポーツ施設の割引、保養施設の利用促進などが挙げられます。しかし、「従業員のセルフケアを支援する」という体制には、早々に限界を感じました。実際のところ、「もともとセルフケアを行っていた人たちが、安くなって喜んでいる」というだけで、新たな行動喚起としては弱かったのです。ウェルビーイングへの影響は軽微に思えました。
つまずきポイントを踏まえつつ、ウェルビーイング戦略はどう構築していけばよいのか、3つのアイデアをご紹介します。
まず1つめは、専門家を招く(または提携する)ことです。
▼ 専門家の例
心身の健康や経済的な事情、生活上の困りごとにダイレクトに役立つのは、「専門家による、正確で良質な情報やサポート」です。従業員から見れば「守秘義務がありプライバシーが守られる第三者なら相談しやすい」というメリットもあります。社内研修や相談会の実施、提携先割引など、専門家と従業員の接点を作ることで、ウェルビーイングの向上が期待できます。
2つめは、マネジャーのクオリティを上げることです。筆者が在籍していた会社では、従業員アンケートの結果から「従業員の心理状態に最も影響を与えているのは直属の上司」ということがわかっていました。建設的で、思いやりや誠実さにあふれた上司のもとで働く部下たちは、まるで伝染するように、建設的になっていきます。
逆もまた然りです。「ハラスメントをしない」といった当たり前のことができるレベルではなく、「部下のウェルビーイングとどう向き合うか」という高次元なディスカッションが必要です。そしてマネジャーである自分が、ポジティブなエネルギーを社内に広げられるよう、自身のウェルビーイングにも向き合っていきます。
3つめは、導入プログラムはボトムアップで検討することです。「ウェルビーイング施策」という名目で、さまざまなプログラムやサービスの導入を検討することがあるかと思います。「営業を受けてよさそうだったから」「広報的に効果がありそうだから」といった理由で導入しても、活用されずに終わってしまいます。
実際に利用する従業員の声を聞くことで、実際に役立つプログラムを導入できます。筆者の経験では「お昼に届けられる、健康的なお弁当」や「お昼休憩を利用してできるフィットネスやマッサージ」は、大人気でした。休日や退勤後の時間を費やさずに、業務時間内で活用できるプログラムがあると、習慣化もしやすくなります。
本記事では「ウェルビーイング」をテーマにお届けしました。優れた企業は、従業員のウェルビーイングに投資しています。じつは、その事実自体が、ウェルビーイングに貢献する要素も大きいと感じています。従業員が、「私たちは大切にされている」と実感できるからです。それは所属する組織に対する充足感となり、エンゲージメントを高め、生産性へつながります。従業員の幸福を積み重ねて企業の幸福をつくる、ウェルビーイングな経営こそ、理想のあり方といえるかもしれません。
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〈三島 つむぎ〉
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。