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職場におけるメンタルヘルス対策は、事業者の重要な役割の一つです。しかしながら、心の不調は目に見えてはっきりわかるものではありません。また、若い世代に多いとされる「新型うつ」あるいは「現代型うつ」は、従来型のうつとは症状や経過が異なることから対応に苦慮する場合が多いようです。
なお、「新型うつ」「現代型うつ」という用語は、マスコミが作った言葉で医学用語ではありません。「今までのうつとはちょっと違う」という程度の意味で、ことさら「新しい」病気というわけではありません。
とはいえ、その特徴ゆえに職場におよぼす影響が大きく、適切な対応をしなければほかの従業員の不満をまねくこともあります。そこで今回は、新型うつの特徴と職場におよぼす影響をとりあげ、対処法を解説します。
さっそく、新型うつの特徴とそれらが職場におよぼす影響や問題点を見ていきましょう。
このように、新型うつは職場やほかの従業員への影響も大きいことから適切な対応が求められます。その一方で、本人への過度な配慮や長期におよぶ休職がほかの従業員の不満や負担の増大をまねきやすいことも理解しておくべきでしょう。
それでは、新型うつが疑われる従業員がいる場合にどのような対応をすべきなのでしょうか。
実は、新型うつの発症には本人の経験不足や未成熟な人格も無関係ではないと考えられています。そのため、新型うつに対応する際には人材育成の視点も必要です。一方で特別あつかいをせず、あくまで職場のルールに沿った対応をするのが周囲との関係改善にも役立ちます。
新型うつは、怠けや甘えではありません。好き勝手振る舞っているようにも見えますが、職場にうまく適応できないことを一番悩んでいるのはその人自身です。職場全体で病気への理解を深め、サポートする体制を構築するようにしましょう。
病気を理解するだけではなく、本人の話をよく聞き、気持ちを理解することも必要です。このようにして信頼関係を築くことは、人材育成の観点からも好ましいといえます。ただし、安易な同調は本人のためにも良くありません。受容と許容は別物なので、社内ルールから逸脱した要求など(例:窓の外が見たいから窓際の席にしてほしい、など)については毅然とした態度で臨みましょう。社内ルールを基本として対応すれば、周囲からの理解も得やすくなります。
新型うつの人には、自責感が乏しく他罰的という特徴があります。そのため、指導時に高圧的・敵対的・批判的な話し方をすると信頼関係が築けず、パワハラだと受け取られるおそれがあります。コミュニケーションをとる際は冷静に、そして指導や注意をする際は就業規則などを利用して根拠を明示するようにしましょう。
新型うつの人が他罰的なのは、「自分にこの仕事はふさわしくない」「やりたくない仕事をやらされている」といった意識が強いためだといわれています。可能な限り本人の希望に沿う仕事を与え、責任感を育むようにしましょう。仕事に対する責任感が生まれれば積極的になり、自発的な行動にもつながります。ただし、命令や指示ばかりではいけません。「この点についてどう思う?」など自ら考える機会を与え、人格の成長を促すことも大切です。
新型うつの人は、プライドが高くて他者に助けを求めることができず、「できない」ということもできません。そして、仕事から逃げたり諦めたりする傾向があります。そのため、いきなり高い目標を掲げるのではなく、こなせる範囲で仕事を担当してもらい、スモールステップを積み上げていくほうがうまくいきます。このとき、その仕事が全体のどの部分に当たるのかを知らせておくと先の見通しが立てられるため、不安感が少なくなります。
新型うつの人はうつの自覚があり、医療機関を受診している場合も少なくありません。だからといって、主治医に客観的な職場の様子が伝わっているとは限りません。そのため、正しい診断を得るためには本人の同意を得たうえで職場の状況などを文書で伝えるのが有効です。産業医や保健スタッフがいる場合は、同行して説明するのも良いでしょう。
新型うつは従来型のうつとは特徴がかなり異なりますが、けっして怠けや甘えではありません。本人の訴えに耳を傾け、能力が発揮できる環境や本人にとって利益があると感じられる環境を整えれば、劇的に症状が改善する可能性があります。
しかしながら、例外的な対応や待遇は本人が自身の経験不足や未熟さに気付くチャンスを奪うことになりかねませんし、ほかの従業員の不満にもつながります。また、失敗を通じて行動を変えていけるように上司やまわりの人たちとの協力関係を築くことも大切です。
新型うつが疑われる従業員を「腫れもの」あつかいするばかりでは、何の解決にもつながりません。人材育成の視点でとらえ、小さな成功体験を積み上げるなどして本人の回復力を引き出す方策を考えましょう。
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〈中西 真理〉
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。