コラム
法改正・法制度

自分や部下がセクハラされたらどう対応するのが正解なのか

「セクハラされた」と感じたとき、教科書的な正解は、はっきりと意思を伝え、会社の相談窓口へ相談することです。

しかし、「実際にできるか?どれだけ実践してきたか?」と問われれば、難しさを語る方が多いのではないでしょうか。筆者自身もそうでした。セクハラの当事者となったとき、現実的にどう対応したらよいのか。本記事では踏み込んだ視点から考えていきたいと思います。

セクハラの「模範対応」は難しい

まず「セクハラの模範対応」の難しさと、その理由について、お話させてください。

セクハラの模範対応とは

厚生労働省のWebサイトには、ハラスメントの被害にあったときの対応について、以下のように記載されています。

ハラスメントの被害にあった時の対応
出所)厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止の為に(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」

※「ハラスメント悩み相談室」 : https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/

100%正しいのは重々承知ですが、「これができなくて、悩む……」と、少しばかり胸が苦しくなりました。とくに、

我慢したり、無視したりすると事態をさらに悪化させてしまうかもしれません。

問題を解決していくことが、悩んでいる他の人を救うことにも繋がります。

……この部分を、つらく感じる方もいるのではないでしょうか。「我慢や無視しかできない自分の弱さに非があるのではないか。その弱さのせいで、次の犠牲者が出てしまうのではないか」何を隠そう、筆者自身がそう思い、自分を責めていました。

相手に理性が通じない

ほかのハラスメントにはないセクハラ特有の難しさは、「相手が理性的でない状況のときに発生することが多い」点にあります。ハラスメントは、受け流しているだけでは状況は改善されません。「やめてください」「私はイヤです」と、あなたの意思を伝えましょう。
……と厚生労働省はいいますが、意思表示してもストレートに伝わらない苦悩があるのです。そもそもセクハラとは何かといえば、以下のとおり定義されています。

セクシュアルハラスメントとは
セクシュアルハラスメントとは②
出所)厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント 妊娠・出産等ハラスメント 防止のためのハンドブック」P5

上記は厚生労働省の資料からの引用ですが、同資料では「これってハラスメント?」と題して、ハラスメントに該当するおそれのある行動を例示しています。

これってハラスメント?
出所)厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント 妊娠・出産等ハラスメント 防止のためのハンドブック」P4

このような啓蒙によってセクハラの裾野まで認知され、セクハラ防止につながるのは歓迎すべきことです。
しかし、これらがセクハラ(のすべて)では、けしてありません。セクハラに該当する「性的な言動」で深刻性が高いものとして、食事やデートへの執拗な誘い、性的な関係を強要する、強制わいせつ行為、強姦などがあります。

性的な言動とは
出所)厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント 妊娠・出産等ハラスメント 防止のためのハンドブック」P5 筆者加工

こういったセクハラは、行為者の「性的衝動」を伴います。恋愛感情、アルコール、性的関心によって、理性を失っている相手で、かつその人物が強い立場にあれば、模範的な対応での解決が難しい現実があります。

相談できる人が社内にいない

「会社の相談窓口にご相談ください」といわれても、それが難しい方も多いでしょう。ハラスメントは、個人の問題ではなく会社の問題です。会社の人事労務などの相談担当者や信頼できる上司に相談しましょう。総務省の統計によれば、6割以上の人の職場は、従業員数50人以下の中小企業です。小さな会社は人事の不在など制度が整っていないだけでなく、人間関係の狭さの問題で、相談しにくいことが多いのです。

たとえば相談窓口が行為者本人の社長である、相談担当者と行為者の仲がよく肩を持つ可能性が高い、などです。セクハラ対策は事業主の法的な義務ですが、まだまだ実態が追いついていない職場も少なくありません。

避けたい2つの悪手

では、「現実的対応」として、私たちはセクハラにどう対峙すべきでしょうか。ここからは、筆者の経験をもとにしたご提案をお届けしたいと思います。
まず、自分や同じ場に同席している部下などに対しセクハラが生じたその瞬間、とるべきではない2つの悪手をご紹介します。

1:笑う

1つめは「笑う」ことです。
「アハハ」と楽しそうに笑うのがよくないのは当然ですが、ここでお伝えしたいのは、私たちが自己防衛のために無意識に浮かべてしまう笑い(微笑や苦笑も含む)のことです。動物がお腹を見せて敵意がないことを示すように、身を守るために笑ってしまうことがあります。なぜこれが悪手なのかといえば、「意に反する」意思表示を曖昧にするからです。

セクシュアルハラスメントとは③
出所)厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント 妊娠・出産等ハラスメント 防止のためのハンドブック」P5 筆者加工

性的な言動(例:食事やデートへの執拗な誘い)であっても、意に反さないならセクハラになりません。「猛烈なアタックの末、社内恋愛に発展して結婚」というストーリーも美談として存在するため、勘違いされないよう注意が必要です。

「やめてください」「私はイヤです」とは言えなくても、最低限笑わないこと(真顔をキープする)は、自分であらかじめ決めておきます。笑わないと明確に決めておかないと、とっさに笑ってしまうことがあるので、「決めておくこと」がカギです。他の人にセクハラが向けられた場に居合わせたときも、同じです。場の空気がどうであれ、流されず笑わず真顔でいることを決めておきます。

2:冗談めかして指摘する

2つめは「冗談めかして指摘する」ことです。
誰かが、「それって、セクハラですよ〜!」と大きな声で指摘して、笑いが起きる。「そういうつもりで言ったんじゃないんだよ!」と当人が言い返すなどして、その場がひと盛り上がりする。“場を気まずくすることなく抗議の意思表示もできる”と考え、ついやってしまいがちです。

こういったカジュアルな対応は、実際はセクハラでない場合の冗談としては成り立つかもしれません。しかし、本当のセクハラだった場合には悪手です。理由は、お笑いで“すべったボケ”を“ツッコミ”が救うのと同じように、受けるべきそしりから、セクハラ行為者を救ってしまうためです。ツッコミには、対象発言の有害性を中和する性質があります。これも「どんなに場が気まずくなっても、セクハラは冗談めかさない」と決めておきます。

イメージしておきたい初期対応

次に、悪手を避けて何をするか? について、お話します。あらかじめイメージしておくことで、いざというとき行動できます。

1:立ち去る

筆者が考える最善の対応は「その場を立ち去る」ことです。部下や他のメンバーがセクハラを受けたときは、その人を連れて退席します。国際会議などにおける「途中退席」は強い抗議の意思表示です。立ち去ることは、無言で意思を表明できる手段となります。

この方法の大きな利点は、自分の身を性被害から守れることです。理性を失っている相手に対して、「やめてください」「私はイヤです」と言うことは、効果がないだけでなく、火に油を注いで危険な事態を引き起こすこともあり得ます。

また、セクハラを受けて混乱しているときに、うまく言葉を紡げるとも限りません。相手が反論してきて、言い争いに発展する可能性もあります。セクハラされたら、まずは早くその場を去ることだけを考えます。これ以上、傷つかないために大切な初期対応です。

2:反応しない

すぐ立ち去るのがどうしても難しい状況の場合は「無反応」を貫きながら、立ち去れるチャンスを待ちます。反応してしまうと、どんなに適切な反応をしたとしても、相手は歪んで解釈する可能性があります。理性的でないからです。下手に反応するより、「一切反応しない」を貫いたほうが、害は少ないと判断します。セクハラ発言には相づちなども打たず、まったく聞こえないのと等しく、真顔で押し黙ります。ただし、セクハラ発言ではなく行動が行われた場合は、どんな手を使ってでもまずはその場を離れることを優先してください。

安全な場所を確保して次の対処

安全な場所(身体的にも精神的にも)を確保できてから、次の対処を落ち着いて考えます。
犯罪に該当する可能性のある悪質な行為を受けた場合、相談先は警察です。最寄りの警察署に出向くほか、警察の相談窓口につながる全国共通の電話番号「#9110」番にて相談できます。

―参考:政府広報オンライン「警察に対する相談は 警察相談専用電話 #9110へ 」

そこまでのレベルでない場合には、「セクハラが繰り返されないかどうか、いったんは様子を見る」という選択肢が現実的です。セクハラを受けた初動で前述の対応をとると、その1回限りで行為が終わり、解決することも少なくありません。

しかし、その後もセクハラが繰り返され、会社へ相談したい場合には、信頼できる相談相手は誰なのか、よく見極めます。信頼できる相談相手が社内にいなければ、厚生労働省のWebサイトでも案内されている都道府県労働局雇用環境・均等部(室)またはハラスメント悩み相談室へ相談しましょう。

さいごに

本記事では「セクハラされたときの対応」をテーマにお届けしました。
さいごに筆者自身の個人的な考えを述べさせていただくと、セクハラ行為が続く場合、見限って早期に転職することも、適切な対処だと思います。「根本的に立ち去る」ということです。「なぜ被害を受けた側が泣き寝入りして、キャリアまで奪われなければならないのか」という気持ちは、よくわかります。ですが、セクハラが繰り返され、会社としてもそれを根絶できていない以上、その会社は残念ながらブラック企業です。ブラック企業とわかったなら早く立ち去らないと、自分の心身、引いては人生にとって有害です。

近年では勇気を持って告発する人が増え、それによって救われる人もいて、「戦うべきだ」という論調が目立ちます。それも大切なことではありますが、「まずは自分を守ることを優先していい(逃げてOK)」という視点も、忘れないでほしいと思います。

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〈三島 つむぎ〉
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

   
       

         
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