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メンタルヘルス

”6月病”?新入社員が陥りやすい「リアリティ・ショック」とは

5月に入ると心身に変調をきたし、とくにゴールデンウィークの連休明けから出社がおっくうになり、中には離職してしまう社員もいる…いわゆる「5月病」という現象です。しかし近年、こうした現象が6月にずれ込む「6月病」の存在が指摘されています。6月病とはどのようなものでしょうか。詳しく知り、対処方法を考えたいものです。

「6月病」に関する企業アンケート

メガネブランドのZoff(ゾフ)を運営する株式会社インターメスティックが、新卒採用を実施している企業の人事担当400名を対象にしたアンケートを実施しています。

それによると、まず入社後3か月以内に辞める新卒の新入社員がいたという企業の割合は51.3%、かつ、51.2%の企業が3か月以内に辞める新入社員は近年増加傾向にある、と回答しています。

背景のひとつには精神状態の不安定さがありますが、不安定な状態が始まる時期については、興味深い回答が得られています。まず、精神状態が不安定になる時期についてはこのようになっています(図1)。

【図1 新入社員の精神状態が不安定になる時期】

新入社員の精神状態が不安定になる時期
出所:「5月病に変化あり。増える『6月病』に要注意!入社後3ヶ月以内の離職者がいた企業が半数以上、精神状態が不安定になる時期は『6月』が約40%」PR TIMES

「5月」と回答した企業、「6月」と回答した企業がともに約4割にのぼっているのです。不安定になる新入社員の状態として多いのは下のようなものです(図2)。

【図2 不安定になる新卒新入社員にみられる症状】

不安定になる新卒新入社員にみられる症状
出所:「5月病に変化あり。増える『6月病』に要注意!入社後3ヶ月以内の離職者がいた企業が半数以上、精神状態が不安定になる時期は『6月』が約40%」PR TIMES

「会社に来なくなる」「周囲とのコミュニケーションを取らなくなる」が多くなっています。まさに離職に直結しやすい症状と言えるでしょう。6月といえば多くの企業では、研修が終了して現場で本格的に仕事を始める時期でもあります。いよいよ働くということの現実に直面するタイミングでもあります。そこで意識したいのが、新入社員の多くが陥る「リアリティ・ショック」という現象です。

「リアリティ・ショック」とは

リアリティ・ショックとは、新入社員が入社後になって入社前のイメージと現実との間のギャップを感じてしまうことです。パーソル総合研究所の調査によると、新入社員の7割以上がなんらかの形でこの「リアリティ・ショック」を感じています(図3)。

【図3 リアリティ・ショックを受ける人の割合】

では、どのようなギャップを感じているというのでしょうか。下のようなものです(図4)。

【図4  「リアリティ・ショック」の内容】

報酬や昇進、そのほかでは「達成感」「やりがい」といった項目が多く挙げられています。入社前のイメージでは、もっといきいきと仕事をしてどんどん昇給していく、そのような姿を描いていたのに現実は期待どおりには進んでいない、と感じてしまうのです。こう見ると、「若者には実際の業務は厳しすぎたのか?」と考えてしまうかもしれませんが、そればかりではないのが「リアリティ・ショック」の難しいところです。

新入社員が感じる様々な「ギャップ」

甲南大学の尾形実哉教授がリアリティ・ショックについて、新入社員からヒアリング調査を行っています。すると、このような新入社員も存在しています。ひとつはメーカー勤務の男性の話です。

最初から責任ある仕事を任せて欲しいし、鍛えて、鍛えて、鍛えて欲しいって思ってたんですけど…。今の事務の仕事は、もうちょっと厳しい世界だっていう、事前に僕が盛り上げた印象があるんですよ。そのイメージと、合致しないんですよ、現実が。
(中略)
今、全然しんどくない…。ぬるいですね、すごいショックですよ。

引用―尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」p17

入社前は「もっと厳しいと思っていた」のに対し、現実は「思っていたよりゆるかった」というギャップです。これを尾形教授は「肩透かし」と名付けています。また、「専門職型リアリティ・ショック」というものの存在も尾形教授は指摘しています。ある新人看護師へのインタビューです。

結構1年目の責任が大きくって、その割にはフォローがないっていうのと、あとは実習のときは、患者さんと1対1で付き合っていくという感じだったんですけど、今は1日に8人とか10人を担当して、
(中略)
覚悟はしていたんですけど、最初からきついっていうのは。でも、ちょっと理解の域を超えているっていうか…。倒れるのが先か精神的におかしくなっちゃうのが先かっていう感じですよ…。

引用―尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」p18

厳しさは覚悟していたが、それ以上に厳しかったというギャップが生じているのです。これらを踏まえて、尾形教授は「リアリティ・ショック」を3つの構図に分類しています(図5)。

【図5 リアリティ・ショックの3種類】

リアリティ・ショックの3種類
出所:尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」p19

同じ年に入社した新入社員の中にも、かたや「こんなに厳しいとは思わなかった」かたや「もっと厳しくしてほしい」というように、違う種類のリアリティ・ショックを感じているということもじゅうぶんに考えられます。よって、今よりも「優しくすれば良い」「厳しくすれば良い」といった画一的な対応では限界があります。

6月病につながる「リアリティ・ショック」への対応

では、企業としてどう対応していけば良いのでしょうか。まず人事としては、それぞれの新入社員が抱いている「職場のイメージ」について面談などを通じて把握しておくことです。実際の現場よりも過度な期待を抱いていることが分かった場合は、そのギャップを少しずつ縮めていく努力をしなければなりません。ギャップは研修期間中に大半を解消しておきたいものです。

そして現場に配属後も、定期的にヒアリングを実施する必要があります。入社前・配属前に抱いていたイメージと現在はどのくらい・どのように異なるかを定点観測し、人事担当者はギャップを埋めていく努力をするのが良いでしょう。募集や研修期間にあたって、会社側はどうしても自社がいかに「いきいきと」働ける会社であるか、自社の仕事がいかに魅力的であるかを強調しがちになってしまいます。

ただ、現在いる社員が様々な価値観のもとに働いているのと同じように、人事担当の言葉をどう捉えるかは新入社員もひとりひとり異なります。それが「誇大広告にだまされた」とならないよう、イメージとのギャップを埋めていく作業は入社直後の早期から取り組まなければなりません。画一的な対応では、「5月病」も「6月病」も、改善することは難しいでしょう。ぜひ、この”最初の壁”を乗り越え、若い社員とともに成長できる会社を育てるためにはどうすればいいのかについて、正面から取り組んでみてください。

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<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

   
       

         
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