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人は「正義感」を持ったとき残酷になる — 無意識にパワハラ上司にならないために

パワハラをする上司には、こんなイメージがあるかもしれません。

  • 良心に欠けている
  • 権力を誇示したい気持ちが強い
  • 上司というだけで偉いと勘違いしている
  • 弱者を虐げて快楽を感じる気質がある

たしかに、こういったパワハラ上司も存在します。しかし、近年のハラスメント排除の啓蒙活動により、少しずつでも減っていると感じるところです。

一方で、じつはやっかいなのが「正義感」がベースにあるパワハラといえます。よかれと思ってやっているので、自分ではなかなか気づけません。本記事では、自分自身が無意識にパワハラ上司にならないためにどうすればよいのか、考えていきたいと思います。

無意識にパワハラ上司を生む2つの要因

私たちが無意識にパワハラ上司になってしまうのは、なぜなのでしょうか。2つの要因が考えられます。

(1)パワハラは遺伝する

重要な要因としてまず挙げたいのが、「パワハラ上司に育てられた部下が、パワハラ上司になってしまう」という“パワハラの遺伝性”です。社会人になりたての若手時代の経験は、とくに鮮烈に残ります。自分では意識できない部分で、パワハラ上司の言動や考え方を受け継いでしまい、それが上司になったときに顕在化するのです。本人は、間違いに気づくことができません。一種の洗脳にも近い形で、「これが正しい」と思い込んでいるためです。

壁に穴があいている上司のもとでの経験

じつは筆者自身が、このパターンに陥っていました。社会人になって初めての上司は、非常に厳しく、個室の壁には穴があいているほど激情する人物。この経験が、脳裏から消えることはありません。そしてやっかいなことに、パワハラ上司の恐怖政治が敷かれた過酷な環境をサバイブし、自分が成長を遂げたことが“悪い成功体験”となって、「これが正しい」を補強するのです。今になって振り返れば、間違っていることは明らかです。しかし社会に出たばかりの頃は、「これが社会の厳しさなのか」と本気で思っていました。

(2)守るべきものが人を残酷にする

次に挙げたいのが「守るべきものが人を残酷にする」という側面です。ポジティブな表現をすれば、私たちは自分以外の守るべき存在があるとき、とても強くなれます。たとえば、家族を守るためなら強硬な手段にも迷いがなくなる——という人は多いでしょう。しかし、「大切なものを守りたい」という純粋な心が出発点でも、誰かを傷つけてしまえば話は変わってきます。

カリスマ社長に心酔している幹部がパワハラ上司に

筆者が過去に在籍した企業で、「カリスマ社長に心酔している幹部が、パワハラ上司になってしまった」という問題が起きました。ナンバー3のポジションでしたが、彼のパワハラに耐えられないと、複数の社員が連続して離職。本来の彼は、穏やかな性格で、気も強いほうではありません。しかし、「自分が泥をかぶってでも、社長を守りたい」という純粋な心が強すぎました。“そのためには犠牲をいとわない強気”も、大きくなってしまったのです。

社長の意に沿わないと(彼が)感じる社員を、辛辣な言葉で容赦なく糾弾。冷酷な態度をとって排除しようとしました。自分のことなら小心な彼が、「社長のためなら、自分が嫌われ役に徹してやる」という正義を持ったことで、残酷なパワハラ上司に変わってしまったのです。

自分がパワハラ上司にならないための具体策

では、自分がパワハラ上司にならないために、どうすればよいのでしょうか。4つの具体策をご紹介します。

(1)パワハラを受けない・成功体験を作らない

恐怖によるマネジメント下におかれる経験は、自分の中に“パワハラ上司の種”を植え付けるようなもの。そんな種は、ないに越したことはありません。とにかく、自分がパワハラを受けないこと、上司からのパワハラを許さないことが大切です。過去の経験はもう仕方ないとしても、現在もパワハラ上司の下にいるのなら、抜け出す方法を考えるところから始めます。精神的にタフでありたいと願う人は、逃げるようで抵抗を感じるかもしれません。厳しい環境を乗り越え、成長の糧としたい気持ちが強いためです。そう思い込まされているケースもあるでしょう。

しかし前述のとおり、パワハラ下で成功した体験は、自分がよい上司になるうえで足かせとなるリスクがあります。
同時に、パワハラ上司に対して「パワハラで部下が育った」という成功体験を与えてしまうのも問題です。パワハラの連鎖が止まりません。同じ成功体験をするなら、「パワハラ上司を拒否しても、自分は成功できた」という体験をしたいものです。

(2)心酔・崇拝はしない(させない)

社長や上司、会社への忠誠心や敬慕の念は、すばらしいものです。しかし、盲信的になって心酔・崇拝のレベルまで達すると、人は判断を誤ります。自分の考えではなく、崇拝している人の考えは、「絶対に正しい」と押し通しやすくなるからです。信じるものが強すぎると、謙虚さがなくなります。上司になっても慎ましやかでいるためには、“自分の価値観を超えて崇拝するものを作らない”姿勢が役立つはずです。これは部下を育てるときにも、注意を払いたいポイントといえます。自分に部下が心酔しすぎると、部下がやがてパワハラ上司になるリスクがあるからです。

(3)部下を“さん付け”で呼び敬語で話す

「自分には“パワハラ上司の種”がすでにある」という場合には、部下と距離を離して付き合うことが助けとなります。“パワハラ上司の種”は、心理的に近い距離に部下が入ってきたとき、芽吹きます。パワハラは、部下に対して身内感覚が強くなるほど、起きやすくなるからです。逆にいえば、心理的な距離感が遠い部下には、常態的なパワハラはできないものなのです。

距離をとるための具体策としておすすめなのが、「すべての部下に対し、“さん付け”で呼び、敬語で話す」というもの。これは、パワハラ上司のもとで育った自覚のある筆者が、実際に行っていた方法です。たとえば、「鈴木、ありがとう」と言えば心理的な距離感が近づきますが、「鈴木さん、ありがとうございます」と言えば心理的な距離感が遠のきます。「他人行儀で、ちょっと……」という方もいますが、自分がパワハラの加害者になるよりは100倍よいと考えていました。「親しき仲にも礼儀あり」といいますが、そもそも親しすぎる仲にならない工夫が、自分をパワハラ上司化から守ってくれます。

(4)密室で仕事をしない

魔が差すという言葉があります。自分の中の“パワハラ上司の種”が、何かの拍子に暴走するのを抑止するためには、いつでもオープンな場所に自らを置いて、周囲の目から監視されていましょう。
監視の目がなければ感情に負けるかもしれませんが、監視の目があれば、大丈夫です。オフィス内での自分のチームの配置や、ミーティングの場所などを工夫することで、上司としての自分を密室に置かないようにします。
機密事項やプライバシーにかかわるトピック以外は、いつでも開かれた場所でコミュニケーションをとるようにします。周囲の目は、ときに心の隙に付け込む悪魔を遠ざけて、自分が加害者になるリスクを減らしてくれるでしょう。

さいごに

本記事では、「加害者にならないために」という視点からパワハラを取り上げました。“自分は正しい”という思い込みが強い人ほど、自分がパワハラ上司だとは気づきにくくなります。「私がパワハラなんて、するわけがない」「被害者になったことはあるけれど、加害者になったことなんてない」そう言い切れてしまう人が、じつは危険なのかもしれません。“自分が間違う可能性”は常にある。そんな謙虚さが、パワハラを遠ざけてくれるように思います。

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三島つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

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