コラム
メンタルヘルス

うつや退職にもつながる“カスハラ”。管理職が取るべき対処方法は?

「お客様は神様ではないのか」。

そのような主張で、店員の従業員などに度を超えた対応を求めたり暴言を吐いたりする「カスタマーハラスメント」が問題になっています。暴力的であったり執拗であったりすることもあり、店員や従業員を精神障害や退職に追い込む例もあります。カスタマーハラスメントに対して、管理職はどう対応を取るべきか。また、カスタマーハラスメントをどう察知すれば良いのか。事例と共に考えていきましょう。

「100万円払え」 1度の謝罪がアダに

最初のクレームは「商品を袋に入れる入れ方がおかしい」。

あるコンビニチェーンで店長をつとめる50代の男性が20代の客から執拗なハラスメントを受けたきっかけは、この「袋への入れ方」への苦情でした。そこからの経緯が、NHKが取材し書籍化した「カスハラ モンスター化する『お客様』たち」に綴られています。

このとき男性がその場凌ぎのために謝ると、そこから客のハラスメントはエスカレートします。それ以降客は来店のたびに、店長だけを狙い撃ちにして「謝り方が悪い」「お前は接客がダメだ」と何をしても声を荒らげるようになったのです。

しかし、店長も言われっぱなしではありません。そして、あるとき店長が「じゃあ、他のお店を使ってください」と毅然とした態度を取ったところ、今度は金銭の要求が始まったのです。それも、全く理不尽なものです。

客の反応は、「だったらお前がこの店を辞めて出ていけ」というものだった。

「お前が来るなって言ったって、俺はこの店を使わなきゃいけないんだから、お前が辞めろ」

「いや、僕が責任者なんで、そういうわけにはいきません」

川上さんは思い切って言い返し、

「どうしたら許してもらえるんですか」と尋ねると、いきなり、

「100万円払え」と言われた。

「いままでこの店で使った金額を返せ」というのだ。半年で200万円使ったが、半分の100万円でいいと言う。

―引用:「カスハラ モンスター化する『お客様』たち」p45-46

明らかに理不尽な要求です。半年間に1つのコンビニで200万円使う、というのもあまり考えにくい金額です。その後この客は来店しなくなったものの、毎日店に電話をかけてきたり、暴力団関係者であることをほのめかすような発言をしたりすることが続きます。店長は食事も喉を通らなくなるほど憔悴してしまいました。最終的に本部と弁護士に相談し、弁護士からの警告によって迷惑行為はなくなりましたが、トラウマになってもおかしくない出来事です。

7割が客からの迷惑行為を経験

UAゼンセン流通部門が接客業従業員5万人を対象に行った調査によると、実に7割もの従業員が、客からの迷惑行為に遭遇したことがあると回答しています。(図1)。

客からの迷惑行為に遭遇した割合

その内容は様々です(図2)。

遭遇した客からの迷惑行為の内容

「暴言」「何度も同じ内容を繰り返すクレーム」「権威的(説教)態度」「威嚇・脅迫」が上位に来ています。明らかな暴行があれば警察沙汰にもしやすいものですが、これら上位に来ている項目に関しては、ターゲットにされた従業員がひとりで抱え込んでしまう可能性があります。純粋なストレスだけでなく、自分の能力不足なのではないかと頭を抱えてしまうのです。

ある小売店では、クレジットカードの裏面にサインがなかったために求めたところ、このようなやりとりがあったといいます。

レジでカードの署名を求められた男性客が、いきなり声を荒らげた。

「俺はいつも、このまま使ってる。俺は毎日来てるんだ。昨日の人もその前の人も、誰もそんな事言わない。いままで一度も言われたことがない。なんでお前だけ、そんなこと言うんだ」

そして、こう叫んだ。

「お前なんか、この店に要らない!」

年配の男性で声も大きい。売り場責任者が飛んできても収まらない。責任者は最終的に、署名なしで会計することを認めてしまった。男性は勝ち誇ったように、新入りのパートの女性に言った。

「ほら見たことか、こんなに時間を使わせて、お前は何やってんだ!」

最後に責任者に向き直ると、

「こんなやつ、クビにしろ!」

と吐き捨てて帰っていった。

―引用:「カスハラ モンスター化する『お客様』たち」p29-30

そしてこのパート社員は、この出来事をきっかけに精神に不調をきたし退職してしまいました。

ハラスメントを受けることから広がる傷口

この小売店のケースについて、考えるべき事があります。男性客は同じクレームを毎回つける客で、他の店員は署名なしの会計を暗黙の了解として許していました。このとき駆けつけた責任者がそうせざるを得なかったのにも、このような習慣があったためと考えられます。

しかしダブルスタンダードの対応を取ってしまうと、当事者に「自分の対応能力が低かったのだ」と思わせてしまい、自己否定感を強めてメンタル不調に繋がってしまいます。この場合はマニュアルの徹底、そしてクレームがある事項については店頭やレジにルールをはっきりと掲げることが重要です。そして、「カスハラ」についての認知を徹底し、相談窓口を設けると良いでしょう。

表面化しないカスハラ

注意しなければならないのは、表面化しない=本人がハラスメントを受けていることを周囲に打ち明けない場合です。特にセクハラの場合は申し出にくいものです。

筆者にも経験があります。当時はまだ20代前半でしたから対処のしかたがわからず、しかし周囲は男性社員ばかりだったために言い出せずにいました。「自分が付け入るスキを与えてしまっているのではないか、自分が悪いのではないか」と考えてしまうからです。セクハラについては、管理職側が「このような出来事に遭遇していないか?」と定期的・積極的なヒアリングをする必要があります。

他のハラスメントについても言えることですが、ハラスメントを受ける苦痛だけでなく「自分が悪い」と考えてしまうことで傷口がさらに広がっていくのです。「自分だけではない」「自分が悪いわけではない」と自信をつけさせることが重要です。

守るべきものを明確に示す

カスハラに遭遇したとき、対応にあたっては従業員のメンタルも含めた安全を最優先すべきであることは言うまでもありません。また、「ごね得」を客に与えるわけにもいきません。カスハラから従業員を守ることは従業員からの信頼にもつながります。筆者はネット上で居酒屋のこのようなメニュー表示を見たことがあります。

  • 「おい、生ビール」…1000円(税別)
  • 「生一つ持ってきて」…500円(税別)
  • 「すいません、生ひとつください」…380円(税別)

最初から店舗の対応を明確に示す好例です。また、カスハラ対応のガイドラインをUAゼンセンが詳細に示しています。こちらもぜひ参考にして、従業員にとって安心できる職場づくりに努めてください。

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<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。

   
       

         
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