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「OKR導入に失敗」OKRと日本企業の相性が悪い3つの理由

近年、企業の目標管理手法として注目を集めるOKR。「シリコンバレー式の最強システム」などと紹介されることもあります。しかし日本国内では、いち早くOKRを導入したものの、1年目で終了する企業も珍しくありません。その理由を「OKRと日本企業の相性」から紐解いてみたいと思います。

そもそもOKRとは?基礎知識

本題の前に、「そもそもOKRとは何か?」をおさらいしておきましょう。OKRとは、一言でいえば“目標達成のためのフレームワーク”ですが、その背景にある「考え方」も含めて知っておくと理解が深まります。

【O:大胆で野心的な目標】 ×【KR:進捗をトラッキングする成果指標】

OKRは「Objectives and Key Results」の略で、日本語では「目標と主要な結果」と訳されます。チームや個人が、大胆で野心的な目標にチャレンジするためのフレームで、1つの【O:目標】に対して3〜5つの【KR:主要な結果】を設定します。

【O】目標

【O:目標】は“達成したいこと”を設定しますが、必達目標ではありません。ムーンショット(※)を掲げるのがOKRの特徴です。ムーンショットは「成し遂げた後の世界」を想像するとワクワクするような魅力があり、従業員のモチベーションを高めます

(※)ムーンショット:達成の難易度は高いが実現すれば大きなインパクトのあるストレッチ目標。OKRでは達成可能性が60〜70%程度が良いとされる。

【KR】主要な結果

【O:目標】を達成するために満たす必要のあるマイルストーンが【KR:主要な結果】です。数値で測定可能な成果指標を3〜5つ設定し、リアルタイムにトラッキングして運用します。【O:目標】が達成されたことを示す成果を定量的に表す指標が【KR:主要な結果】という関係性です。

OKRのフレームツリー図

ムーンショットとチームワークがカギ

「で、OKRって何が良いの?」という疑問に端的に答える時、次の3点に集約されます。

  • 組織全体が同じ重要な目標【会社のOKR】に集中できる
  • ムーンショットの【O】が、失敗を恐れないチャレンジと成長を促し、創造性とイノベーションをもたらす
  • リアルタイムにトラッキングする【KR】が、スピーディな学習・改善と、チームを越えた協働を促進する

3つめの「チームを越えた協働」を補足しておきましょう。OKRは、チームでも個人でも利用できるフレームワークですが、会社の目標管理として使用する際は「OKRツリー」を策定します。

OKRツリー図

OKRツリーとは、会社全体のOKRをチーム・個人へブレークダウンしたものです。OKRツリーは公開され、従業員一人ひとりが以下を深く理解できます。

  • 自分の業務が会社全体のOKRにどう貢献するのか
  • 他のチームや他の従業員がどんなOKRに向かって動いているのか

結果として、強いチームワークが生まれるのです。

“インテル流のMBO”がOKR

最後にOKRのルーツをご紹介します。OKRの生みの親はインテル元CEOのアンドリュー・グローブです。1970年代より「iMBO」という呼び方で、インテルのマネジメントに活用されてきました。iMBOとは「Intel Management by Objectives」のことです。

ピーター・ドラッカーが提唱したMBO(目標管理制度)のインテル版という意味ですが、思想は似て非なるものです。管理主義的なMBOに対し、大胆な目標を掲げ自律的なアプローチで生産性を最大化するOKRという違いがあります。およそ30年間、インテルでのみ使用されてきたiMBOは、1999年に創業したばかりのGoogleと出会い、OKRと名前を変えて世界中へ広まっていきました。

今日では日本国内でも、メルカリやSansanなど先進企業での導入が知られています。なおGoogleとOKRの出会いは、ジョン・ドーア著『Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR』に詳しく描かれています。

日本企業とOKRの相性が悪いのはなぜか

多くの米国企業の急成長に寄与してきたOKRですが、日本企業ではOKRを導入しても継続できないケースが少なくありません。その理由として、3つのポイントが挙げられます。

  • 理由1:経営思想とカルチャーが違う
  • 理由2:目標管理を人事制度運用する企業が多い
  • 理由3:会社としてのムーンショットがない

理由1:経営思想とカルチャーが違う

1つめの理由は「経営思想とカルチャーが違う」ことです。OKRには「管理主義的なMBOに対するアンチテーゼ」の側面があることは、先に述べたとおりです。にもかかわらず、これまでMBOを導入していた企業が「OKR=MBOの最新版・進化版」の認識で変更すれば、混乱が起きます。MBOとOKRは経営思想が異なるためです。

加えて、自由でチャレンジングなシリコンバレーのハイテク企業とはカルチャーが違う、という問題もあります。日本企業では「目標必達」の精神が浸透している企業も少なくありません。例えば、1950年代〜2016年まで電通の社員手帳に掲載されていた鬼十則には、「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」というフレーズがあります。これは極端な例としても、目標必達カルチャーを持つ企業が、突然「達成率60〜70%のムーンショットを掲げる」といわれても、うまくいかないのは当然です。

理由2:目標管理を人事制度運用する企業が多い

2つめの理由は「目標管理を人事制度運用する企業が多い」ことです。本来のOKRでは「OKRと人事評価の紐付けはご法度」となります。人事評価に紐付いていると、失敗を恐れて大胆なムーンショットが設定できなくなるのが、主な理由です。

しかしながら、日本企業の実務現場では、目標管理制度が人事制度の仕組みの中で運用されていることが多々あります。OKRと人事評価を直接接合するのは良くないという認識のもと「ゆるく接合する・間接的に接合する」といった対策を取っている企業もありますが、やはり理想は完全に切り離すことです。両者が連動していると、人事評価の正確性や公平性を確保するためにOKRの本質が犠牲となり、結局MBOと同じ管理主義的な運用に陥るリスクもあります。

理由3:会社としてのムーンショットがない

3つめの理由は「会社としてのムーンショットがない」ことです。前述のとおり「達成困難なストレッチ目標を掲げる」点がOKRの特徴といえます。ここだけが一人歩きして、「従業員へ簡単に達成できる目標ではなく、難しい目標を与えるためにOKRを導入しよう」と考える経営トップが少なからず見受けられますが、これは大きな誤りです。

OKRのそもそもの考え方に立ち返れば、「会社として達成したい重要な目標に、全社のリソースを集中させるマネジメント手法」がOKRです。会社としてのムーンショットがないのに、従業員個人を管理するためにOKRを導入しても、本来のOKRの在り方とはいえません。だから、本来のOKRに期待される成果が得られないのです。

OKR導入の実務ポイント

では、OKRの導入を成功させるためにはどうすべきでしょうか。

そもそもOKRが自社にベストか再考する

まず、「そもそもOKRが自社にベストか?」と再考することです。確かにOKRは素晴らしい仕組みですが、野心的に急成長を目指すシリコンバレーで好まれた手法です。それが自社に本当に合うでしょうか。実際、OKRを採用せずにMBOで業績を伸ばし続けている企業もあります。OKRだけが唯一絶対の正解ではありません。大切なのは「自社に合っているか」です。

まずはプロジェクト単位で導入する

「自社に合っているか」を判断するために、まずはプロジェクト単位で導入して、小さく試してみることをおすすめします。社内のプロジェクト企画書のフォーマットの目標記入欄をOKRのフレームワークに変更して、プロジェクトをOKRで運用してみましょう。自社と相性がよく、OKRで成果を出せることが確認できたら、少しずつ適用範囲を広げていきます。

会社のOKRを設定する

「全社にOKRを導入する」と決まったら最初にすべきことは、会社のOKRを策定し経営トップがコミットすることです。この段階では人事制度への紐付けや個人OKRへの落とし込みなどは行わず、「会社のOKRの達成を全社一丸となって目指す」体験をしていきましょう。できるだけシンプルにスタートするのがコツです。他の制度と連動させると途端に複雑化しますから、最初はシンプルに、OKRの骨子を実行することに集中してください。OKRが軌道に乗り始めたら、初めて制度の整備に着手していきましょう。

さいごに

以上、本記事ではOKRの基礎知識と日本企業でうまくいかない理由、導入の実務ポイントをご紹介しました。最近気になるのが「Google式」と枕詞がつくマネジメント手法が、瞬く間にトレンドとなることです。しかしながら、本当のGoogle式は、「自社の思想や在るべき姿に適合するやり方を愚直に探し、自社流にアレンジしながら取り入れる」ことにあると思います。

例えば、OKRにしてもそうです。MBOがトレンドのまっただ中だった時代にあって、MBOは自社に合わないと判断し、誰も知らないOKRに価値を見いだしています。既存の制度や手法に自社を合わせるのではなく、自社の思想や在るべき姿をいつでも清々しく貫きながら、最高のマネジメントを採用し続ける。そんな姿勢こそ、お手本にしたいと思います。

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〈三島 つむぎ〉
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

   
       

         
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