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精神疾患の「過労死ライン」とは?長時間労働の危険水域と企業の労務管理策を弁護士が解説

仕事場でのストレスが原因で、うつ病などの精神疾患を発症する労働者の方が後を絶ちません。特に、終わりの見えない長時間労働は、労働者の精神をひどく蝕んでしまうおそれがあります。精神疾患を発症し、追い詰められた労働者の方が自殺をしてしまうケースも、残念ながら存在します。

そのため企業としては、精神疾患に関する「過労死ライン」を決して超過しないように、適切な労働時間の管理を行うことが重要です。そこで今回は、長時間労働が精神疾患を引き起こす危険性と、企業が講ずべき労働時間の管理策について解説します。

仕事とうつ病等の精神疾患の関係性

  • 仕事場での人間関係の悪化
  • 上司からの厳しい叱責
  • 仕事上の重大なミス
  • 過剰な長時間労働

など、職場で労働者に強いストレスがかかった場合、それが原因でうつ病などの精神疾患を発症する可能性があります。労働者が発症した精神疾患が、業務に起因するものであるかどうか(因果関係)を判断するに当たっては、厚生労働省の労災認定基準*1が参考となります。同基準では、以下の3つの要件を満たす場合に、精神疾患を「業務上の疾病」として取り扱い、労災認定を行うものとしています。

  1. 対象疾病*2を発病していること
  2. 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

精神疾患の「過労死ライン」|危険な長時間労働の境界線は?

仕事が原因で精神疾患を発症したと言えるかどうかについては、労働者に対する「業務による強い心理的負荷」の有無が重要な判断基準となります。

労災認定基準による、長時間労働の心理的負荷の強度

厚生労働省の労災認定基準では、業務上の出来事をパターン化し、各出来事について心理的負荷の強度を評価しています*3。過剰な長時間労働についても、労働者に対して心理的負荷を与える出来事として、下記表のとおり評価が割り当てられています。

「過労死ライン」は月80時間以上の時間外労働・2週間(12日)以上の連続勤務

労災認定における「業務による強い心理的負荷」の要件を満たすのは、精神疾患の発症に先行して、心理的負荷の総合評価が「強」と判断される場合です。よって、「特別な出来事」または心理的負荷「強」に該当する長時間労働は、それだけでも「過労死ライン」を超過していると言うべきでしょう。

また、長時間労働の心理的負荷が「中」にとどまる場合でも、他に「中」以上の心理的負荷を生じる出来事が併発している場合、全体として心理的負荷が「強」と評価される可能性があります。したがって、仕事に起因する労働者の精神疾患を未然に防ぐ観点からは、

  • 月80時間以上の時間外労働
  • 2週間(12日)以上の連続勤務

のいずれかが発生している場合には、「過労死ライン」に達していると評価すべきでしょう。

過剰な長時間労働を防止するための労務管理策

「過労死ライン」はあくまでも一般論に過ぎず、労働者ごとに長時間労働への耐性は異なります。また、労働基準法の規制*4があるため、常に過労死ラインぎりぎりまで労働者を働かせてよいわけではありません。そのため企業としては、個々の労働者について、余裕を持った労働時間の管理を行うことが重要になります。

まずは労働時間の適切な把握を

企業の経営者・人事担当者としては、まず労働時間を適切に把握することが先決です。労働時間の把握に当たっては、タイムカードやシステムへのログイン履歴など、機械的・客観的な記録を参照する方法が基本となります。労働時間の管理を、労働者の自己申告のみに依存している企業は、タイムカードの導入などをご検討ください。

ただし、労働者が会社に黙って仕事を持ち帰り、結果的に長時間労働を行っているケースもあることに注意しなければなりません。このようなケースを拾い上げるためには、管理職や労働者本人と密にコミュニケーションを取り、労働時間の実態を調査することも大切です。

業務の効率化や増員によりバックアップ体制の整備を

能力や耐性に比べて、過剰な負担がかかっている労働者については、会社が主導して業務量の調整を行うべきです。しかし、過度な長時間労働が発生している企業では、労働者の大部分が忙しく、仕事を引き取る余裕がないケースが往々にして見られます。会社としては、個々の労働者に限界まで業務を詰め込むのではなく、常にある程度の余裕を持って業務に取り組ませることが望ましいところです。そのためには、機械化や無駄な業務の削減などを行い、業務の効率化を図りましょう。また、少し多めに各部署の人員を確保すれば、人件費は増えるものの、労働者の生産性が向上し、結果的に会社の収益性が上がる可能性があります。

まとめ

「月80時間以上の時間外労働」または「2週間(12日)以上の連続勤務」のいずれかが発生している場合は、精神疾患の発症リスクがきわめて高い状態と言えます。過酷な長時間労働を強いた結果、労働者が精神疾患により休職してしまっては、会社にとって大きな損失です。過剰な負担が労働者にかかることを防止するため、企業は労働時間の適切な管理と、業務量調整を可能にするバックアップ体制の整備に努めましょう。

*1 出所)厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」p2

*2 「対象疾病」とは、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害を意味します(器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く)。業務に関連して発病するのは、主としてICD-10のF02~F04に分類される精神障害です。
参考)厚生労働省「疾病、傷害及び死因の統計分類 ICD-10(2013年版)準拠 内容例示表 第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F00-F99)」p3~5

*3 出所)厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」別表1

*4 労使協定(36協定)に基づき認められる時間外労働の条件は、原則として1か月当たり45時間、1年当たり360時間までです(労働基準法36条4項)。

臨時的な特別な事情がある場合には、上限を超えて労働者を働かせることができますが、その場合にも以下の制限が設けられています(同条5項)。

  1. 時間外労働が年720時間以内
  2. 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  3. 時間外労働と休日労働の合計が、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均のすべてについて、1か月当たり80時間以内
  4. 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月まで

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阿部 由羅(あべ ゆら)

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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