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部下のメンタルケアは難しい…プロに「外注」で改善するケースも

どうやって部下のメンタルケアをすればいいのだろう……。

そう悩んでいる経営者や上司は多いのではないだろうか。
今回はメンタルケアのヒントとして、わたしの経験談を紹介したい。

大学を卒業して半年後、わたしは憧れのドイツに移住した。
1年間のワーホリを経て現地の大学に入学し、順風満帆……のはずが、バセドウ病を患い、夢見ていた海外生活の歯車が狂っていく。

そんな状態のわたしを救ったのは、「メンタルケアは専門家に任せたほうがいい」という、医者からのアドバイスだった。

「精神的なものはコントロールできる」という思い込み

日本の大学在学中に1年間ドイツに留学していて、そのときは毎日が本当に楽しかった。しかしドイツ移住後はなにもかもがうまくいかず、気落ちする毎日。だんだん情緒不安定になり、同棲していた彼(現在の夫)と毎日のようにケンカしていた。

そんな自分に自己嫌悪し、「これじゃダメだ」と思うものの、翌日、ひどいときには数時間後にはまた癇癪を起こしてしまう。

その後手足の震えがはじまり、さらに半年ほど経ったところで急激に体重が落ち、ようやくホームドクターを受診。バセドウ病と診断された。

バセドウ病は自己免疫疾患のひとつで、代謝の役割をもった甲状腺ホルモンを作りすぎてしまう病気だ。疲れやすかったり、動悸がしたり、暑がりになったりする。

精神面にも大きな影響があり、落ち着きのなさやイライラ、集中力低下などの症状が見られるらしい。

わたしの場合、甲状腺ホルモン値が計測不能まで振り切っていたので、さまざまな症状が強く出ている状態だった。手足の震えや体重減少がまさにそれだ。

しかしバセドウ病だと診断され、精神的に影響がある病気だと知っても、「精神的なものはコントロールできる」という認識は変わらなかった。

気持ち的なものだから、自分が気をつければコントロールできるだろう。海外でうまくいかずイライラしているだけだ。そもそもわたしはこういう性格だった気がする。甲状腺の病気で性格が変わるわけがない。

と、あくまで「バセドウ病の影響は身体においてのみで、わたしは情緒不安定なんかじゃない」と思っていた。いや、思いたかったのだ。

なぜそう思いたかったのかと聞かれれば自分でもわからないのだが、「精神的なものは気の持ちようだから病気を言い訳にしたくない」と考えていたのだと思う。

1時間大泣き、気付かなかったメンタルの限界

1年ほど服薬を続けて多少病状が改善したものの、甲状腺ホルモンの数値が基準内になることはなく、甲状腺専門医を紹介された。

ホームドクターの指導医を勤めたという彼女は甲状腺の専門家なだけあって、いまわたしの体になにが起きていて、どうするべきかを丁寧に教えてくれた。

そのうえで、ストレスが病状に影響するということで、現在の生活環境についても細かく聞かれた。

最初は当たり障りのないことを話していたが、次第に

  • 留学中はたくさん友だちがいたのに、移住してからは友だちができない
  • 彼とよくケンカしてしまい、せっかく1年間の遠距離を耐えたのにうまくいっていない
  • 大学でたくさん勉強しているのに、ネイティブの学生に追いつけず劣等感がある

など、気付いたらボロボロと大粒の涙をこぼしながら、1時間近くも話し続けていた。

自分では気づいていなかったが、わたしのメンタルは、とっくに限界を迎えていたのだ。

人生で初めてカウンセリングを勧められる

その様子を見た甲状腺専門医は、じっとわたしの目を見て、「あなたにはカウンセリングを勧めます」と言った。

「バセドウ病は精神状態に大きく影響します。専門家に相談したほうがいいでしょう」

「えっ、わたしは大丈夫ですよ。ちゃんと自分でコントロールできているので」

実際は全然コントロールできず彼氏とケンカばかりしていたが、「カウンセリング」という言葉にひるんで、思わずこう答えてしまった。

それに対し彼女は、「わたしが甲状腺を治すのと同じで、専門家にメンタルケアをしてもらうのは当たり前のことです。病気と付き合っていくために、自分のことを知る手助けは必要ですよ」と優しく言ってくれた。

そうは言われても、「カウンセリング」にはどうにも抵抗がある。

わたしの気持ちを察したのか、彼女は「まずはこうしましょう」と、いくつかメンタルコントロールのアドバイスをしてくれた。

アドバイスを実行してもうまくいかなかったり、気が変わったりしたら、いつでもカウンセラーを紹介するということで初診は終わり。

病院を後にしたわたしは、久しぶりに大泣きしたからか、久しぶりに自分の気持ちをたくさん話したからか、放心状態だった。

専門家からのアドバイスで精神状態が大幅に改善

さてさて、その後わたしはどうなったか。
驚くことに、急激に精神状態がよくなったのだ。

いままでは「気の持ちよう」だと思っていたから、うまくいかないのは自分のせいだと自分を責めていた。でも原因は病気にある。そう思うと、ずいぶん楽になった。

病気の症状にはそれぞれ対処法があるのだから、対処すればいい。

というわけでわたしは、アドバイスをもとに、自分なりのメンタルコントロールマニュアルを作った。

たとえば、イライラが募り爆発手前になったときは、ヘッドフォンで音楽を聴いてまわりの音を遮断し、深呼吸する。

意味もなく悲しくなってきたときは、好きなアイドルや声優のラジオなどの声を流しつつ、塗り絵やピアノ演奏など無心になれるもので気を紛らわせる。

この対処法のおかげで、バセドウ病自体がよくなったわけではないが、気持ちはだいぶ落ち着いた。

医者からのアドバイスがなければ、きっとこれほど改善はしなかっただろう。やはり専門知識がある人に話を聞いてもらうのは、とても大切だ。

最初はカウンセリングに抵抗があったわたしだが、今では「もっと早く相談してカウンセリングを受ければよかった」という考え方に変わっている(わたしの場合、甲状腺専門医からのアドバイスで病状がよくなったので、結局カウンセラーにはお世話にならなかったが)。

甲状腺が悪いなら甲状腺専門医に診てもらうのと同じで、こころの状態が悪いのなら、専門家に診てもらえばいいのだ。

メンタルケアを「外注」するという選択肢

……と、自分語りが少し長くなってしまった。

さてさて、部下のメンタルケアの話だ。

2021年、過去1年間でメンタルヘルス不調を理由に休業・退職した労働者がいる事業所は、約1割。1000人以上の事業所になると、なんと9割にも上る。
(労働政策研究・研修機構「厚生労働省の2021年『労働安全衛生調査(実態調査)』」

うつ病やパニック障害、適応障害などの病名も知られるようになり、精神疾患を身近に感じている人は多いだろう。

それと同時に、「部下が心身ともに健康な状態で働けるようにマネージメントするのも上司の仕事」という認識が強まっているように思える。

書店には「1on1面談」「コーチング」「アンガーマネージメント」「叱る方法」といった本が並び、「うつ病になった部下の扱い方」「部下の離職を食い止めるには」「折れやすい部下とどう向き合うか」といったテーマのものもあるくらいだ。

たしかに、上司は部下の精神状態に気を配るべきだろう。

しかし上司は、医者でも、カウンセラーでもない。本を読んで多少の知識をつけることはできるが、あくまで素人である。

そう考えると、部下のメンタルケアをプロに「外注」するのも、ひとつの手段じゃないだろうか。

学校でも、生徒の話を最初に聞くのは担任の教師だが、スクールカウンセラーがその後の対応を引き継ぐことは珍しくない。

会社だって、経営者が中心となって舵取りするのが当然とはいえ、必要とあらばコンサルに相談して、分析してもらったり提言してもらったりする。

まずは当事者が解決に向けて動くが、必要に応じてプロのちからを借りるのは、どの分野でもよくあること。それはきっと、部下のメンタルケアに関しても同じだ。

カウンセリングへの動線づくりで共倒れを防ぐ

わたしのように、精神状態が悪く明らかに不調をきたしていても、「カウンセリングでプロに話を聞いてもらおう」という発想がない人はきっと、たくさんいる。

自分は大丈夫だと思いたかったり、まわりの人に知られたくなくて無理をしてしまったり。

でも餅は餅屋、カウンセリングにはカウンセラー。

上司が対応できる範囲であればいいが、そうでない場合は、早めにプロを頼ったほうがいい。

それは本人はもちろん、ケアを任される上司のためでもある。

実は友人がうつ病になったとき、時折とんでもない長文で悩みが送られてきたり、時間を問わず支離滅裂な連絡がきたりで、わたしのほうがまいってしまったことがあった。

友人の力にはなりたいが、自分の言葉が相手を傷つけてしまったら……?と思うと気安く返事もできず、かといって無視もできないし……と、自分自身も情緒不安定になってしまったのだ。

病んだ人の話を聞くことはできても、「対処法」を知らなければ、共倒れになる可能性がある。

そういう意味でも、素人の上司にすべての責任を負わせず、必要に応じてプロの力を借りる体制をつくっておいたほうがいいと思う。

たとえば東京都では、産業医の選任義務がない50人未満の事業所のために、地域産業保健センター事業を行っている。

サービス内容には「メンタルヘルス不調の労働者に対する相談・指導」が含まれており、都内18か所で無料提供しているそうだ。*2

しかしそういったサービスを把握している労働者はきっと、そこまで多くはない。

だからこそ、「ここに頼るといいよ」という動線があれば、心強いと思う。

専門家であれば必要に応じて休職の判断をしてくれるし、上司も「できる範囲で手を貸す」という距離感を保てる。相談する本人にとっても、社外の人だからこそ話しやすいこともあるだろう。

というわけで、上司が部下のメンタルケアすることを当たり前にせず、メンタルケアが必要な部下がプロの力を借りられるように、カウンセリングへの動線をつくることも大切だと思うわけだ。

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〈雨宮 紫苑〉
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

   
       

         
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