コラム
メタボリックシンドロームで悩む会社員
働き方改革・健康経営

メタボリックシンドロームとは?診断基準と企業が支援できる改善方法を医師が解説

メタボリックシンドロームは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指します。
従業員のメタボ対象者又は予備軍が多い場合、企業の業績にも影響を与えかねません。

そこで、今回は、メタボリック症候群とはどのような病気なのか、予防するために企業が取り組むことができる対策についても提案していきます。

メタボリックシンドロームとは?

メタボリックシンドロームとはどのような疾患なのでしょうか。

(1)メタボリックシンドロームについて

メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい状態のことを指します。
間違われやすいのですが、太りすぎで腹囲が大きいだけではなく、血圧や血糖値、脂質の異常が組み合わさったものです。

筆者が健診業務に携わる中でも、メタボリックシンドロームに該当する方は一定数いらっしゃいます。
しかしながら、実は毎年同じような検査結果であってもなかなか改善できなかったり、テレワークの影響で運動不足が加わり、検査結果がさらに悪くなっているという方もいらっしゃいます。
本人のみならず、企業としても取り組むべき問題のように感じます。

(2)メタボリックシンドロームの診断基準は?

メタボリック症候群のシンドロームの診断基準は、以下のようになっています。

メタボリックシンドロームは、それ自体病気というものではありませんが、動脈硬化を起こしやすくする要因(危険因子)となります。
動脈硬化は、その名の通り、動脈が柔軟性を失ってしまう病態のことですが、日本人の死因の第2位である心臓病、第4位である脳卒中の原因となってしまうのです。

太ってしまう最も大きな原因は、過食と運動不足です。
そのため、メタボリックシンドロームの解消の基本戦略は、過食と運動不足の状態を改めることにあります。

(3)メタボリックシンドロームは「内臓脂肪」が悪さをするために起こる

メタボリックシンドロームのキーワードは「内臓脂肪」です。
内臓脂肪とはその名の通り、皮下脂肪とは異なり、内臓の周りにたまる脂肪のことを指します。

内臓脂肪型の肥満の場合には、この脂肪から悪玉因子が多く分泌され、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが働きにくくなり、高血糖になってしまいます。

さらに、肥満それ自体が脂質異常症、高血圧にもつながり、動脈硬化も引き起こします。
このように、メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪が引き金となり、いろいろな健康上の問題が起こっているのです。

(4)メタボリックシンドロームによる経済損失とは?

そのようなメタボリックシンドロームですが、平成30年の調査によると、40〜74才の男性では57.2%、女性では21.3%がメタボリックシンドロームが強く疑われる、あるいはメタボリックシンドロームの可能性があるという結果となっています。
つまり、男性の半数以上、女性の5人に1人がメタボリックシンドロームやその予備軍ということになります。

初期の生活習慣病は特に自覚症状がないことが多いため、いつの間にか病気が進行してしまう危険があります。
そのため、メタボリックシンドロームを放置しておくと、治療が必要な病気になってしまいます。

すると、治療にお金も時間も要し、従業員としての労働生産性が落ちてしまうということになりかねません。

実際、従業員のメタボ対象者又は予備軍が多い場合、将来的に糖尿病等の生活習慣病が重症化することにより、治療に要する医療費負担、健康上の理由による個人の生産性低下(プレゼンティーイズム)、健康上の理由による長期欠勤等の機会損失(アブセンティーイズム)が増える可能性もあるのです。

こうした理由から、企業としても従業員のメタボリックシンドロームを予防したり、あるいは早期に発見し適切な治療や生活習慣改善に導くことが重要だと考えられます。

メタボリックシンドロームを予防するために企業ができることは?

では、メタボリックシンドロームを予防したり、早期発見、また生活習慣改善をしていくために企業ができることは何があるのでしょうか。

(1)国によるメタボ対策「特定健診・特定保健指導」

国によるメタボリックシンドローム対策としては、「特定健診・特定保健指導」があります。

これは、メタボリックシンドロームに着目した「健診」によって生活習慣病のリスクを早期に発見し、その内容を踏まえて運動習慣や食生活、喫煙といった生活習慣を見直すための「特定保健指導」を行うことで内臓脂肪を減少させ、生活習慣病の予防・改善につなげるものです。

特定健診の対象となるのは、40歳以上75歳未満の方です。
健診と特定保健指導を受けると、以下のようなメリットがあります。

  • 自分自身の健康状態を把握
  • 健診結果を踏まえ、現在の健康状態にあったアドバイスなどが受けられる
  • 疾病予防によって、いつまでも健やかな生活を送ることにつながる

国としては現在、特定健診の実施率70%、特定保健指導実施率45%を目指しています。
なお、特定健診の内容は、以下の通りです。

そして、この特定健診で生活習慣病のリスクが高いと判断された場合は、健診の結果とともに、加入する医療保険から特定保健指導の実施に関する案内も送られます。

生活習慣病のリスクが高いと判断された方に対しては、保健師、管理栄養士などが対象者一人ひとりの生活習慣のアドバイス、つまり特定保健指導を行います。
その内容は、リスクの程度(血圧、血糖、脂質、喫煙歴など)に応じて「動機付け支援」または「積極的支援」の2つがあります。

生活習慣病のリスクが高くても、生活習慣の改善をすることで、健康な状態へ改善することも可能です。
ですので、まずは従業員に対して特定健診の受診率を向上させることが大切になってきます。

(2)企業の取り組み

ここでは、特定健診受診率や特定保健指導実施率をあげるための取り組みについて提案していきます。

-1 健診を受けるための時間を確保するようにする

特定健診を受けない理由を調査した、以下のような研究結果があります。

この結果からは、「時間の都合がつかない」ということを理由に健診を受けていない人も一定数いるということがわかります。

そのため、企業側としては、従業員の仕事量を把握し、特定健診を受けるための時間をつくり、指定するということも、受診率向上のためには効果が期待できるでしょう。

-2  特定健診と特定保健指導の時間的な間隔をできるだけ短くする

特定健診を受け、生活習慣病のリスクが高いと判断された場合には、特定保健指導を受けることが必要です。

特定保健指導を特定健診の当日に実施することや、それが難しいのであれば、特定健診の実施から特定保健指導の開始までの期間を短縮すると、保健指導を受けやすくなると考えられます。

また、はがき、電子メール、電話等の個別通知による特定健診の受診勧奨や特定保健指導の利用勧奨を行うことも、対象者の意識づけという効果があります。
さらに、可能であればICTを活用した保健指導を推進することも良いでしょう。

まとめ

今回は、メタボリックシンドロームについて解説し、メタボリックシンドロームになりやすくなる年代の方に対して、特定健診や特定保健指導があることを見てきました。

企業としても、メタボリックシンドロームの予防や早期発見、改善に努めていきましょう。

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〈nishicherry2480〉
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

   
       

         
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