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結核の咳症状
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結核は過去のもの?事業者が知っておきたい集団感染の怖さと対応について医師が解説

結核というと、過去の病気のようなイメージがあるかもしれません。
しかしながら、現在でも日本では結核の感染によって命を落とす方が一定数おり、職場での集団感染事例も少ないながら見られます。

今回は、結核とはどのような病気か、実際に結核が職場で発生したらどのような流れになるのか、そして職場として大切なことは何か、について解説します。

結核とは?

まずは、結核はどのような病気なのかをみていきましょう。

(1)結核とはどのような病気なのか

結核とは「結核菌」という細菌が原因となって起こる病気です。
古くは、エジプトのミイラから典型的な結核の痕跡が見つかるなど、人類の歴史とともにある古い病気です。

日本では、かつては「国民病」「亡国病」と呼ばれ、多くの著名人の命を奪いました
石川啄木や、樋口一葉、高杉晋作、沖田総司や正岡子規は、若くして結核で亡くなったと言われています。

第二次世界大戦後、日本では抗生剤のストレプトマイシンの普及などにより、結核による死亡率や死亡者は激減しました。
しかしながら、現在の日本でも1年間に1万人以上が結核を発症し、約2,000人が命を落としています。

そして、現在では、高齢者や外国生まれの患者が多くなっています。

2019年からの新型コロナウイルスの流行も、結核対策に少なからず影響を与えています。
コロナ禍で結核対策が遅れていたり、検診や受診を控えたりして全体的に結核患者の発見が遅れているという指摘もあります。

(2)結核はどのように感染していくのか?

下図では、結核の感染様式が示されています。

結核は、肺に結核の病巣(びょうそう)を持つ人が咳をする際などに、口から放出された「しぶき」の中に含まれる結核菌を、また他の人が吸い込むことで感染が広まります。

結核菌を吸い込んでも、鼻やのど、気管支などにある繊毛の働きによって体の外へ排出されたり、排出されずに肺に侵入した結核菌も、体の免疫力によって退治されてしまうので、ほとんどの場合は感染にいたりません。
結核菌が、そうした繊毛の働きや免疫力をくぐり抜けて、肺の奥にまで侵入した場合に、結核に感染します。

しかし、結核に感染しても、全ての人に症状が出るわけではありません。
結核菌の感染力と、人の免疫力のどちらが強いかによって、結核の症状が出るかどうかが決まります。

感染した人が実際に発病するのは1割から2割程度で、感染してから6ヵ月から2年後までの発病が多くなっています。
症状が進むと、せきや痰(たん)と共に菌が空気中に吐き出される(排菌)ようになります。
「排菌」していない場合は、他の人に感染させる心配はありません。
逆に、「排菌」している場合は、周りの人に結核を感染させてしまうおそれがあります。

結核の症状には、以下のようなものがあります。

(3)結核の検査は?

結核かどうかの検査には、「感染」しているかどうかの検査と、「発病」しているかどうかの検査があります。

①感染しているかどうかの検査

検査液を皮下注射して反応を見る「ツベルクリン反応検査」や、血液検査の「インターフェロンγ(がんま)遊離試験(QFT・T-SPOT)」があります。

②発病しているかどうかの検査

胸部レントゲン写真や、喀痰(かくたん)検査という、痰を調べる検査が行われます。
痰を染色して、抗酸菌(結核菌やその仲間の菌)がいるかどうかを調べたり、結核菌の遺伝子を調べる検査や、痰の一部を培養して、菌の種類や薬が効くかどうかを調べる方法もあります。

(4)治療法は?

結核の治療は、薬の内服が基本となります。4種類の薬を、最低6ヶ月飲むことが一般的な治療法です。

(5)今でも職場での結核感染は起こっているのか?

1人の感染者が、2家族以上にまたがり、20以上に結核に感染させた場合を、結核集団感染といいます。
ただし、発病した人1人は、6人が感染したものとして患者数を計算します。

過去10年の結核集団感染の件数は年々減っています。
しかし、令和2年の調査結果では総数15件中、事業所、つまり会社や職場での感染が5件みられました。

そしてその件数は病院や社会福祉施設、学校よりも多い結果となっています。
事業所での結核集団感染の件数は全体の約3割を占めており、過去10年でほぼ横ばいです。
つまり、会社や職場の結核の集団感染は、増減はあるものの一定数あり、絶対数としては少ないものの、注意が必要な感染症と考えられます。

筆者が保健所で感染症対策を担当していた際には、日本人学校での外国人たちによる結核の集団感染もありました。
それと同様に、日本人の中高年が勤める職場での結核事例も経験しました。

感染者は多くても、発病した人が少なく、結局集団感染の基準を満たすようなケースはまれでしたが、職場の数人に感染が広まるということはよくありました。

結核が過去の病気であるというイメージがあるかと思いますが、実は身近でも経験されうるのだということは念頭に置くべきだと考えます。

職場で結核患者が発生した場合の対応は?

それでは実際に職場で結核患者が発生した際にはどのような流れになるのか、解説していきます。

(1)結核患者が職場で発生した際の流れ

実際には、以下のようなフローで進んでいきます。
このフローは、「感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き 改定第6版」を参考に、筆者が簡単にまとめています。

  1. 積極的疫学調査で、患者の感染性(排菌)の有無を確認。
    (注:感染性がない場合はここで終了し、職場の対応は必要なし)
  2. 感染性がある場合は接触者をリストアップ。
  3. 患者の感染力の強さに応じて健診の対象者を定め、2ヶ月後に接触者健診を実施。
    (血液検査またはツベルクリン反応検査)
  4. 接触者健診の結果、感染の疑いがある場合は、半年ごとに胸部レントゲン検査を行い、2年間追跡する。発病を防ぐため予防内服を行うこともある。

上記フローの補足をしていきます。
まず、結核は感染症法で2類感染症とされており、医師が結核患者を診断した際には全数最寄りの保健所に届ける義務があります。
結核患者の住む地域の保健所は、発生届の届出を受けると、積極的疫学調査を開始します。
積極的疫学調査とは、関係者への質問や必要な調査や検体採取等のことです。

実際には、以下のように接触者健診が必要かどうかを決めていきます。

接触者健診の対象者は、実際に保健所の担当者と、職場の人事部担当や保健師などが、結核患者の行動を調査して、接触者をリストアップします。

接触者健診は、成人の場合は血液検査を行うことが多くなっています。
もしも、結核に感染したことがある方が接触者の場合は、胸部レントゲンの検査を行うこともあります。

血液検査の実施時期については、検査の「ウィンドウ期」を考慮し、原則として結核患者との最終接触から2〜3ヵ月経過後に実施します。
結核は、感染してから検査で感染しているかどうかがわかるまでに時間がかかるので、その時間を考慮してということになります。

もしも、血液検査で結核に感染していることが明らかになった場合は、胸部レントゲンなどの検査を行い、結核の病変がないかどうかを確認します。
そして、発病していない場合に、医師が発病予防の必要があると判断した場合には、「潜在性結核(LTBI)として、薬の予防内服をすることもあります。
感染しているものの、事情があり薬が飲めない場合には、胸部レントゲンで半年ごとに検査を行うこともあります。

(2)結核患者が発生した場合に職場にできることは?

職場の結核対策のポイントは、調査や接触者健診に協力することと、従業員の不安や動揺を抑えること、結核の治療を行う従業員のフォローを行うこと、そして、日ごろから従業員の健康を保てるように対策をとっていくことになります。

結核患者の隔離は必要?

結核患者が発生した場合、上述のように「高感染性」の場合は、他人へ結核を感染させることを防ぐために入院することになります(勧告入院といいます)。
また、結核と診断されるまでは隔離などの法的根拠はありません。
そして、入院治療が不要の場合は、結核薬を内服しながら仕事をすることは原則可能です。

②  積極的疫学調査に協力する

先ほど述べたように、積極的疫学調査の際には保健所から連絡があるので、担当者は患者本人の行動や、職場の環境などを説明するようにしましょう。
対象となる関係者も必要な調査に協力するよう努めなければならない、という努力義務がありますので、注意しましょう。
筆者の経験からは、保健所の担当者からは以下のようなことが聞かれるかと思います。

  • 結核患者である従業員が喫煙所を使っていたかどうか
  • 食事をよく一緒にとったり休憩を一緒にとる人はいたか
  • 空調や換気はどのようであったか

もし結核患者が発生した場合には、座席表や、職場での行動履歴などをまとめておくと、調査がスムーズに進むでしょう。
調査の結果、食事や喫煙、休憩を一緒によくとっていた人は、濃厚接触者として接触者健診の対象になる場合があります。

③  接触者健診に協力する

接触者健診を実際に行う際は、血液検査が行われます。
個別に医療機関を受診してもらい、採血を行うこともありますが、大勢の方が健診の対象となる場合には、集団での保健所等で一斉検査会のようなものが設定されることもあります。
その際は、対象者がきちんと検査を受けられるように、人事担当者や上司の方による業務上の配慮が望ましいでしょう。

④ 従業員の不安や動揺を抑える

結核の感染性はそこまで高くないこと、治療すれば治る病気であることを従業員に周知し、無用な不安を持たせないようにしましょう。
場合によっては、結核のことについて相談できる窓口を設けることも良いかもしれません。

⑤ 普段から結核に感染しないように従業員の健康管理に気を付ける

結核は、感染しても体の免疫力が強ければ発症までは至らないことが多い病気です。
結核の発症を予防するためには、以下のようなことが大切です。

普段から、従業員に対して、結核以外の病気を予防するためにも、こうした健康的な生活習慣を周知しておくことも有効と考えられます。

まとめ

今回は、結核はどのような病気か、そして職場の対応がどのようになるのかを解説しました。
結核は今は内服治療で治癒が見込める病気になっていますが、あまり経験のない場合には不安に思う従業員もいることでしょう。
備えあれば憂いなしということで、日ごろから対応ができるようにしておくことが大切です。

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〈nishicherry2480〉
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

   
       

         
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