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花粉症とは、花粉を吸い込むことで起こる、アレルギー反応のことです。
体の免疫反応が花粉に過剰に反応して、くしゃみ、鼻水、鼻づまり等の鼻の症状や、眼の症状が見られます。
この花粉症による経済損失は約2,860億円に及ぶという試算もあり、職場としても適切な対応が求められます。
今回は、花粉症はどのようなものか解説し、そして職場としての取り組みを提案します。
最初に、花粉症とはどのようにして起こるのか、どんな症状がでるのかをおさらいしましょう。
花粉症のメカニズムを簡単に説明します。
花粉が鼻や眼から入ってきて、体内の免疫システムが「異物=敵」とみなすと、敵に対抗するためのIgE抗体がつくられます。
このIgE抗体は、花粉に接触するたびにつくられ、少しずつ体内にたまっていきます。
蓄積量が一定量に達すると、次に花粉が入ってきたときに、アレルギー反応を起こすヒスタミンなどの化学物質が分泌され、くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの花粉症の症状を起こすのです。
日本で一般に最も多い花粉症はスギ、ヒノキの花粉を原因とする花粉症です。
その他にも、イネやブタクサなど、いろいろな花粉が原因となります。
下図に花粉の飛散時期を示します。スギやヒノキは春が中心で、秋にも少量の花粉が飛散することがあります。
花粉症の症状は主に鼻と眼に現れます。
下の図のような症状が続く場合は、花粉症の可能性があります。
風邪も、くしゃみや鼻水といった同じような症状がでることがあり、間違えやすいことがあります。
長引く鼻水や発熱といった風邪のような症状がでて、判断に迷う際は早めに医療機関の受診をするとよいでしょう。
花粉症の治療方法には、症状を緩和する「対症療法」と「根治療法」の2つがあります。
強い症状が現れている場合は、症状緩和を先に行うことになります。
下図のような治療方法があります。
加えて、新しい治療法として、以下のようなものもあります。
2019年には、ゾレア(一般名:オマリズマブ)という遺伝子組み換え製剤も重症花粉症に対して保険適応となりました。
この薬は皮下注射で使います。
今までの薬で効果が不十分であった、抗ヒスタミン薬などの既存治療では症状を十分にコントロールできない重症の花粉症の方も保険診療でこの薬が使えるようになりました。
日本の花粉症患者の数について、全国的な調査が1998年、2008年、2019年とほぼ10年おきに3回実施されています。
その結果、花粉症の有病率は1998年が19.6%、2008年が29.8%、2019年には42.5%と、10年ごとにほぼ10%増加しています。
また、年齢層別の有病率としては、2019年の全国疫学調査によると、スギ花粉症では10代から50代で45%以上と高くなっています。
そして、この年齢層ではスギ以外の花粉症の有病率も30%前後と高くなっています。
下に、その調査の結果をお示しします。
10代から50代までの花粉症患者が多いという結果について示しましたが、これによって経済的な損失はどのくらいなのでしょうか。
少し古いデータにはなりますが、2000年に当時の科学技術庁が発表した調査によれば、医療費や労働効率の低下による経済的損失は約2,860億円に及ぶとのことです。
当時でもこの試算なので、さらに有病率が高まっている令和の時代では、さらに大きな経済的損失を招いていることは間違いないでしょう。
労働力として中心的な世代となる20代から50代も花粉症に悩んでいる、ということを踏まえると、花粉症によって生産性が下がってしまうということはやはり問題です。
花粉症の症状を緩和させ、発症を遅らせるためには、花粉をいかに避けるかがポイントになります。
以下のような対策があります。
外出時の服装は花粉が付着しにくい、木綿や絹、化繊製の衣類を着ると、花粉を家に持ち込むことが防げます。
そして、マスクやメガネなどで花粉を防ぎ、帰宅時には花粉を払うなどをして、家の中に花粉を持ち込まないことも大切です。
株式会社エステーが、「花粉症と仕事に関する実態調査」を2019年に行いました。
ここでは、同調査結果をご紹介をしましょう。
① 仕事中の花粉対策グッズ1位はマスクで8割以上
-予防方法としてもっともメジャーではあるものの、約4割が現状の対策に不満を抱えていることが判明。
2位は目薬、3位は飲み薬。満足度1位は点鼻薬で69%が満足と回答。
点鼻薬は、ほどんどが定量噴射式、つまりワンプッシュで適量が出るタイプのものです。
現在は抗アレルギー薬、ステロイド薬、抗コリン薬があります。
点鼻薬は、鼻の炎症がある粘膜に直接作用させることができるという利点があります。
薬の一部は鼻の粘膜や喉を通って消化管に流入して吸収されますが、
血流に入って全身をめぐることになる薬の量はごく微量なので、副作用などはほとんど問題にはならないのです。
② 花粉対策の出費が5000円以上の人が3割以上も存在
-1万円以上を出費する人が6%も。
③ 花粉症で仕事に影響が出た人は約7割もいると判明
-花粉症が仕事のパフォーマンス低下に大きくかかわっていることが判明。
④ 花粉が原因で出社をためらった人は6割以上 会社を休んだ人は1割も
-若い人ほど働く意欲への影響が大きい。
⑤ 従業員の花粉症対策を行う職場はわずか1割程度、6割が職場へ対策を希望
-花粉症による生産性低下解決のため、企業の働き方改革が求められる結果に。
⑥ 花粉症治療薬が保険適用外になった場合、約75%が通院をためらうと回答
-花粉症患者にとって大きな負担に。
このうち、④では、花粉症が働く意欲を奪ってしまうことがわかるという結果となりました。
また、年齢に着目すると、若い人ほど花粉症の影響を受けているということもわかりました。
さらに⑤について、従業員側は職場に対して花粉症対策をしてほしいと考えているものの、実際には1割程度しか対策をしていないというアンケート結果です。
従業員側と職場側の認識のズレなどがあるものと考えられます。
このような状況の中で、まずは先に述べたセルフケアを職場でも応用し、花粉症対策とすると良いでしょう。
その上で、職場での花粉症対策のアイデアをご紹介します。
花粉がオフィスに入りこむのを防ぐことが大切です。
「上着や帽子は玄関で必ず脱ぐ」
「洋服ブラシや粘着カーペットクリーナーを使って服についた花粉をできるだけ払い落とす」
といったルールをつくり、社内に呼びかけるのもよいでしょう。
花粉飛散シーズンに窓を全開にして換気すると大量の花粉が室内に流入します。
窓を開ける幅を10cm程度にし、レースのカーテンをすることで屋内への流入花粉をおよそ4分の1に減らすことができます。
部屋に入ってきてしまった花粉は床やカーテンなどに多数残存していますので、掃除をこまめに行い、カーテンは定期的に洗濯するようにしましょう。
以下のような日は花粉の飛散量が多いことがあるため、空気の入れ替えタイミングにも十分注意して下さい。
花粉症で悩む人は、ティッシュやマスクなどの消耗品費、花粉対策メガネ購入費、通院費、薬代などの経済的負担な負担も大きいでしょう。
その費用を一部負担あるいは対策グッズを現物支給する「花粉症手当」を導入すると、従業員の満足度も高まりますので良いと思われます。
「花粉症のピークの時期だけ、外出を避けて花粉症の諸症状から解放されたい」という希望を持つ従業員もいるでしょう。
可能であれば、そうした方はテレワークを選択できるようにするのも一つの手です。
職種によっては難しいこともあると思いますが、可能であればテレワーク導入を検討することも良い方法かと思います。
今回は、花粉症の原因やメカニズム、症状やセルフケアについて解説しました。
そして、職場での花粉症対策についてもご提案しました。
ぜひ参考にしていただき、花粉症の季節も従業員が快適に仕事できるような環境を整えていきましょう
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行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。