コラム
服薬
働き方改革・健康経営

健康経営実現のために―従業員の服薬サポートに取り組む重要性を薬剤師が解説

世の中にはさまざまな職種があり、その勤務形態も非常に多彩です。

厚生労働省の調査によると、深夜業に従事している労働者は全体の約2割で、事業所規模が大きいほど深夜業務に従事する労働者の割合が高くなっています。
一方で、深夜業務に従事する労働者の健康問題は深刻です。同じ調査によると、深夜帯の業務に就く前と比較して体調変化があった人は全体の1/3を超え、高血圧や糖尿病など継続的な治療が必要な病気と診断されている人も少なくありません。

図:深夜業務に従事する労働者の割合と深夜業務従事後に体調が変化した労働者の割合

深夜業務に従事する労働者の割合と深夜業務従事後に体調が変化した労働者の割合

深夜業務従事後の診断の有無

深夜業務に就いてから、医師から診断されたものがある労働者17.3%   

診断された病気の種類と労働者の割合(複数回答)

胃腸病高血圧性疾患睡眠障害肝疾患糖尿病心身症心臓病喘息脳血管疾患その他
51.0%22.6%18.8%13.1%6.9%5.4%3.4%2.7%0.3%13.8%

高血圧性疾患や糖尿病などの治療薬は、用法通りに服用しないと症状が改善されないだけでなく副作用が生じることもあります。

しかし、深夜業務に従事する労働者のなかには、シフトの都合で用法通りに薬が飲めず、自己判断で飲み方を変えたり治療を中断したりする方も多くいます。

そこで今回は、従業員の健康を守り健康経営を実現するために、「企業ができる服薬サポート」を提案します。

シフトの都合で薬を用法通りに飲めないとどうなるのか

最初に、薬を用法通りに飲めないと体にどのような影響が生じるのかを知っておきましょう。

服用間隔が短すぎる場合

薬の服用間隔が短すぎると、血液中の薬の濃度が高くなってしまうため副作用の発現リスクが高くなります。
用法が1日1回になっている薬は、飲むタイミングが多少ずれてもそれほど問題はありませんが、1日3回タイプの薬は服用間隔を少なくとも4時間は空ける必要があります。
痛み止めなどの頓服薬も、服用間隔が短すぎると副作用の発現リスクが高くなります。

服用するタイミングが早すぎる場合・遅すぎる場合

睡眠導入剤や心身症の薬は、服用するタイミングがとても重要です。
例えば睡眠導入剤の場合、服用するタイミングが早すぎると就寝時間前に薬の効果が切れてしまうことがあります。
逆に服用するタイミングが遅すぎると、次の日以降に眠気が残ることもあります。眠気のある状態で車の運転や高所での作業などを行うと重大な事故につながるおそれがあるため、注意が必要です。

食事により吸収率が変わる薬の場合

薬のなかには、食事により吸収率が変わるものもあります。
例えば、脂溶性の高い薬は食後に服用すると吸収率が高くなります。そのため、薬の効果を高めるために「食後」あるいは「食直後」に用法が指定されているものもあります。

逆に、吸収率をおさえて副作用のリスクを軽減するために「食間」「空腹時」と用法が指定されている薬もあります。

他方、食事に含まれる成分(ミネラル類など)により吸収が妨げられる薬もあります。このような薬は食後に服用すると効果が得られなくなってしまうため、「起床時」「食間」「空腹時」「就寝前」などの用法になっていることがあります。

胃粘膜に影響を与える薬の場合

胃粘膜に影響を与える薬も、服用タイミングが非常に重要です。胃粘膜保護剤のなかには、食間や空腹時に用法が指定されている薬もあります。これは、胃の中に何も残っていないタイミングで服用するほうが、胃粘膜をしっかり保護できるためです。

逆に、胃障害を起こしやすい薬(痛み止めなど)は、空腹時の服用を避けなければなりません。痛み止めなどは胃薬と一緒に処方されることもありますが、そのような場合でも空腹時の服用はできるだけ避けるべきでしょう。

血糖値に影響を与える薬の場合

糖尿病治療薬は、食事とのタイミングに気を付けなければならないものが多数あります。
例えば、糖質の吸収を抑えて血糖値の上昇をおさえる薬は、食事と一緒に消化管内に入らなければ効果が期待できないため、用法が「食直前」とされています。

また、インスリンの分泌を促して食後の高血糖をおさえる薬は、効果発現までの時間が非常に短いため、薬を服用した直後に食事をしないと低血糖を起こすおそれがあります。低血糖を繰り返し経験すると軽い低血糖では自覚症状を感じなくなることもあるため、毎回適切なタイミングで薬を飲むことはとても大切です。

ほかの薬の代謝・吸収に影響を与える薬の場合

薬のなかには、ほかの薬の代謝・吸収に影響を与えるものもあります。
このような薬が処方された場合は、しっかり服用時間を守らないとほかの薬の効果がほとんど得られなくなることがあります。
定期的に服用している薬でも併用薬の影響で服用タイミングが変わることもあるため、薬が増えたときは特に注意しなければなりません。

薬を用法通りに服用しないことで生じうるリスク注意すべき薬剤の例
服用間隔が短すぎる:副作用のリスクが高くなる抗がん剤など
服用タイミングがずれる:期待通りの効果が得られない睡眠導入剤、心身症の薬など
食事の影響を受けやすい薬:吸収率が変わる抗がん剤、骨粗しょう症の薬など
胃粘膜に影響を与える薬:効果が得られない、副作用のリスクが高くなる胃粘膜保護剤、痛み止めなど
血糖値に影響を与える薬:効果が得られない、副作用のリスクが高くなる糖尿病治療薬など
ほかの薬の代謝・吸収に影響を与える薬:ほかの薬の効果が減弱する脂質異常症の薬、尿毒症の薬など
注:表中の薬剤は例示です。服用タイミングをあまり気にしなくて良い薬剤もあります。

企業ができる服薬サポート

それでは、継続的な服薬治療が必要な従業員に対して、企業はどのようなサポートができるのでしょうか。シフトの変更などの直接的なサポートだけではなく、間接的なサポートにも目を向けてみましょう。

健診後のフォローを充実させる

まず、定期的に実施する健康診断後のフォローを充実させて、従業員の服薬状況を把握しましょう。
治療が必要な従業員の多くは、健康診断で「要治療」や「要精密検査」となる項目があるはずです。該当する従業員には積極的に受診をうながし、結果を提出してもらいましょう。

企業側で受診報告書のフォーマットを用意し、内服治療の要否をチェックする欄を設けておくと、従業員が内服治療を受けているかどうかが把握しやすくなります。

フォーマットを用意するのが難しい場合は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の公式サイトに掲載されている「受診報告様式」を活用するのもおすすめです。

定期的な面談を行う

従業員と定期的な面談を行って、健康面や治療で不安や不都合がないかを確認しましょう。従業員から提出された受診報告書がある場合は、その内容をもとに話を進めていくと面談がスムーズに進みます。
受診報告書から服薬治療をしていることが明らかな場合は、薬の服用タイミングなどで困っていることがないかも聞いてみてください。

服薬治療しているかどうかが明らかでない場合も、日勤以外のシフトがある従業員や食事の時間が不規則になりがちな営業職の従業員には、念のため服薬などで不都合がないかをチェックしてください。

面談の結果、薬を用法通りに飲めないなどの不都合がある場合は、どのようにすれば薬を飲めるのか(休憩時間をずらせば飲める・午前中の営業件数を減らせば飲める、など)を確認し、可能であればシフトの変更や業務量の軽減を検討してみてください。

ただし、病気や治療の内容を話したくない従業員もいるはずです。そのような場合は、必要に応じてかかりつけの医師・薬剤師に相談するように促しましょう。

薬を用法通りに飲むことの大切さを社内報などで周知する

社内報などを利用して、薬を用法通りに飲むことの大切さを周知することも必要です。
薬の飲み方に関する特集を組むのも方法の一つですが、年に何度も発行される社内報を自宅に長期間保存する人はあまりいません。
そのため、健康診断のお知らせなどと一緒に定期的に注意喚起するほうがよいでしょう。

薬を用法通りに飲めない場合は医師・薬剤師に相談するようにうながす

業務の都合で薬を用法通りに服用するのが難しい場合は、自己判断で用法を変更するのではなく、医師・薬剤師に相談するようにすすめてください。
医師に相談すれば、シフトや業務パターンに合わせて飲みやすい薬に変更してもらえる可能性があります。
薬剤師に相談すれば、薬の特性を加味しながら業務に影響が生じない飲み方を提案してもらえます。

飲む時間をずらすのが難しい薬の場合は、薬剤師から医師に処方変更を提案することもあります。

また、用法通り飲めなかった場合の対処法(時間がずれても飲むべき薬なのか、時間がずれたら飲まないほうがいいのか、など)も教えてもらえます。

用法変更が可能な薬の例問題点解決策
1日2回服用の薬夜勤のときは2回目の服用時間に工場のラインに入っていることが多く、1日1回しか薬が飲めていない日が多かった。効果持続時間が長い1日1回服用の薬に変更。
日勤のときは朝食後、夜勤のときは帰宅後に薬を服用して、毎日薬を飲めるようになった。
1日1回起床時服用の薬起床時=朝だと思っていたため、夜勤の日は薬を飲んでいなかった。週1回起床時服用の薬(1~2日程度のずれは許容できる薬)に変更。
休日の起床時に服用することで、毎週服用できるようになった。
1日1回夕食後服用の薬日勤のときは夕食後に薬を飲めるが、夜勤のときは出勤前の食事も夜勤中の食事も夕食のような感覚なので、いつ飲めばいいのかわからなかった。1日1回、毎日同じ時間に服用することになった。
食事の影響を受けない薬だったので、時間を決めることで毎日服用できるようになった。
注:用法変更できない薬や代替薬のない薬もあります。

従業員の健康を守るのは企業の責務

従業員の健康を守るためとはいえ、「企業が従業員の服薬サポートまでするのは負担が大きすぎる」と考える方もいらっしゃることでしょう。

しかし、高血圧や糖尿病をはじめとした生活習慣病治療薬を服用する人の割合は、年齢とともに高くなります。

・参考:e-Stat政府統計の総合窓口「国民健康・栄養調査21 薬の服用状況 – 薬の服用状況」

そして、働き盛りの従業員の健康を守ることは、企業の「財産」を守ることにほかなりません。従業員に対する服薬サポートは、企業にとって「負担」ではなく健康経営につながる「投資」です。
事業所全体で従業員の服薬治療をサポートし、従業員と企業がともに「健康長寿」を目指せる環境を整えましょう。

産業医に関する課題解決はメディカルトラストへ!

株式会社メディカルトラストは、1,000事業所以上の産業医選任・50名以下の小規模事業場の支援を含めると2,000以上の事業場に選ばれ、業歴20年以上の経験と実績で、幅広く産業保健のサポートをしています。

産業医サービス  全国医師面談サービス  保健師・看護師サービス  ストレスチェックサービス 

お困りのこと、お悩みのことがございましたら、まずは気軽にご相談ください!

室内, テーブル が含まれている画像

自動的に生成された説明
〈中西 真理〉
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

   
       

         
人気記事