コラム
産業保健全般

健康診断時の画像診断…AIは信用できる?最新の取り組みとメリットを医師が解説

さまざまな業界で人工知能(AI)の導入が進んでおり、医療分野でも、AI技術の活躍が見込まれています。
令和4年度の診療報酬改定では、画像診断の分野で人工知能技術を用いた画像診断補助ソフトウェアについての要件が追加され、加算が新たにされるようになりました。今後も、AIを用いた画像診断支援の医療領域へのさらなる広がりが期待されています。

そこで本記事では、医療分野でのAIの活用例の一つとして、現在もっとも利用が進んでいる画像診断の分野についてピックアップしていきます。あわせてAI活用のメリットやデメリットなどを解説しますので、参考にしてください。

医療分野におけるAIの役割は?

はじめに、医療分野でのAIとはどのような役割があるか、また期待されているかについてみていきましょう。

(1)AIとは何か?

AIと一言にいっても、いろいろな用語の略語として用いられています。この記事では、AIは人工知能(Artificial Intelligence)の略語として取り扱っていきます。一般に AI とは、人の高度な知能によって行われている推論、学習等を模倣するコンピュータ装置あるいはソフトウェアを指すとされています。

現在、さまざまな分野でAIの導入が進んでいます。その中でも、医療の分野でAIの活用には、
(1)ゲノム医療 (2)画像診断支援 (3)診断・治療支援(問診や一般的検査など) (4)医薬品開発
の4領域があります。

そして、AIの活用により保健医療分野では、以下の3つのようなことが期待されています。

上記の3つのうち、画像診断支援については、日本の高い技術力などが強みとなり、また、複数の学会が提携してデータベースを構築する方針となっており、今後AIの実用化が比較的早いと考えられています。実際に、胃や大腸の病変を検出する内視鏡の分野では、すでに国内でAI搭載のソフトウェアが販売されています。 

一方、AIの活用が期待される医療領域は無限にありますので、医療全体を考えるとまだまだ一部にしか実用化されていないというのが現状です。

(2)令和4年度診療報酬で画像診断補助に関わる改訂も

胸部X線診断や、胸部CT・頭部MRI診断に使用するという目的についても、人工知能技術を用いた画像診断補助ソフトはすでに複数登場しています。

しかし、今後多数の臨床導入が予想されるため、これらを臨床現場で運用する際には、適切な管理や運用支援が必要とされていました。

そのため、日本医学放射線科学会では、ガイドラインなどを作成し、臨床上の運用の管理・精度管理などを実施することになり、診療報酬についての加算も政府に要望していました。

そうした声の高まりもあり、令和4年の診療報酬改定では、画像診断管理加算3の施設基準に、人工知能技術を用いた画像診断補助ソフトウェアの管理に係る要件が追加されました。簡単にいえば、以下のAI活用の2項目を満たしている場合は、X線画像やCT、MRI画像診断に対しての付加価値がつくようになった、というような意味合いと考えればよいでしょう。

  • 関連学会の定める指針に基づく人工知能技術を用いた画像診断補助ソフトウェアに係る管理の実施
  • 人工知能技術を用いた画像診断補助ソフトウェアに係る管理にあたり、画像診断を専ら担当する医師を管理者として配置

適切な管理のもとでAI技術を画像診断に用いることの重要性が高まっているという側面と、画像診断支援へのAI活用が期待されているということと考えられます。

医療分野のAIの画像診断支援について肺がん検診の例を挙げて解説

では、実際にAIの画像診断支援はどのようなものか、ご紹介します。

(1)なぜ画像診断支援にAIが必要なのか

「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会報告書」には以下のような記載があります。

「日本国内に設置されている CT・MRI の数は、他の先進国と比較して突出して多く、撮像回数も同様に多い一方で、放射線科専門医は少ない。

このため、放射線科専門医1人あたりの読影数が多いのが現状である。

特に、健診で広く行われている胸部X線検査では、読影しなければならない画像は相当数に上る。

全国のCT・MRI 検査を全てレポートするためには、少なくとも現在より 2.09 倍の数の放射線科専門医が必要であると言われている」

「また、科学技術の進歩に伴って CT・MRI の撮影スライス厚が薄くなり、微細な病変でも発見できるようになる一方で、1回の検査で大量の画像が発生し、放射線科専門医に大きな負担が生じている。

(中略)

このため、放射線科専門医の負担を軽減しつつ、効率的に診断を行うためにディープラーニングの活用が求められる」

―引用元:保健医療分野におけるAI活用推進懇談会 報告書 p8、9

なお、読影とは、CTやMRI、X線画像などを高精細モニターで見て、病気の有無や程度を診断し、画像診断報告書を作成することです。

つまり、日常の診療場面や、健康診断などで撮影される画像が増え、それにつれて、読影の対象となる画像がどんどんと多くなっているということです。

その一方で、診断医の数はそれに見合っていない、また追いついていないという現状があります。
そうした背景があり、医療従事者の負担軽減や、見逃し防止も目的としてAI診断は用いられているのです。

(2)AI実用化に向けた研究の例(肺がん検診)

先程、胃や大腸の病変を検出する内視鏡の分野では、すでに国内でAIの診断補助が実用化されていると述べました。

では、より日常で健診などの機会に撮影が行われることが多い、胸部X線検査についてはどのようになっているのでしょうか。

胸部X線検査の画像診断については、肺がん検診や健康診断で行われることが大半です。
肺がん検診は、「胸部X線検査」と、喫煙者に対しては「喀痰細胞診」を組み合わせて行うものです。

肺がん検診の手引き」によると、肺がん検診の際の胸部X線画像の読影の際には、2人の医師が各々独立して読影を行うという手順になっています。胸部X線画像は健康診断の基本的な項目に含まれていることもあり、その画像の数は多く、読影作業に従事する医師の負担は決して軽いものではありません。

そのような中で、AIによる画像診断補助により、読影作業の負担軽減と、異常所見の見逃しを防ぐことが期待されます。国内では、企業と大学が、集団健診の画像読影作業におけるAIによる異常検知の実用化を目的とした共同研究に取り組んでいます。

CTやMRIについては、規模の大きな病院では、放射線診断医が在籍しており、あるいは遠隔読影のシステムを用いて読影を行い、画像診断報告書が作成されます。

一方、入院前検査などで撮影された胸部X線画像は、必ずしも画像診断報告書が作成されることはありません。

つまり画像診断専門医による読影がなく、放射線科以外の主治医のみの読影となるパターンもあるということです。肺がん検診を含め、健康診断で撮影された胸部X線画像では二人の医師の読影が行われます。こちらでも、最初に読影する医師は画像診断専門医でないことも、しばしばあります。

このため、AIが胸部X線画像の診断の補助を行うことは、業務負担の軽減や異常所見の見逃し防止にも役立つでしょう。

さて、最後に一つAIによる画像診断支援の画像の例をお示しします。画像診断支援分野では、AI分野の研究には分類(classification)、検出(detection)、セグメンテーション(segmentation)、画像処理(image processing)の 4つがあります。

下の画像は、胸部レントゲンからの肺がん結節のsegmentationの例です。AIの技術を用いて、肺癌がありそうな部位を抽出している画像です。
左は肺がんがありそうな部位を抽出した画像、右は画像処理で見やすくしている画像になります。

このように、実際の肺がん検診でも、胸部Xpの異常を検出するためなどのAI研究が勧められているのです。

AI支援がもたらすメリットとデメリット、今後の課題について

では、医療分野でAIを活用するメリットやデメリットにはどのようなものがあるでしょうか。画像診断の分野での場合を述べていきます。

(1)メリット

−1 画像診断の精度と質の上昇

画像診断支援AIが医師より先に判別することによって、医師はより難しい症例に注力することができ、医師によるより精度や質が高い画像診断が可能になる効果が期待できます。また、AIとの役割分担で、医師の負担も軽減できるでしょう。

−2 見逃しの減少

医師が診た後や、あるいはリアルタイムにAIが判別することで、AIが、いわゆるダブルチェックの役割を果たすことになります。ひとりで判断しなければならない場合の精神的重圧の軽減や、重大な見逃しの減少が期待できます。

(2)デメリット

−1 集められたデータの質に診断の質も左右される

AIは、大量の画像診断のデータを学習させることで、データ処理を行い、診断を導き出すものです。ですので、そもそも資料が少ないような、珍しい病気に対しては、やはり医師の経験などが必要という場合もあるでしょう。
また、信頼性の高く質の高いデータを集めることができないと、AIの学習も質の低いものになってしまう危険性もあります。

−2 診断の根拠が分かりづらいことがある

AIによる診断は根拠が分かりづらい側面があり、これは「ブラックボックス問題」とも呼ばれています。
AIの思考プロセスがわからないと、診断の根拠がわかりづらく、信頼性が落ちてしまう可能性があります。

(3)今後の課題について

AIによる画像診断支援は、医師の負担軽減や診断の精度や質の向上につながると期待できます。
一方、学術推進会議「人工知能(AI)と医療」では、
「様々に示唆されたデータを元に、診断は最終的には医師の責任で行うべきであり、従前にも増して、患者や家族の経済、社会的背景、思想、宗教、心理などを加味して、患者に寄り添い治療方針を提示するのもまた人間としての医師の仕事である」
とも提言されています。

こうした提言がなされているように、最終的な判断を下したり、患者に診断結果を伝えるのは、やはり医師が行うことが望ましいと考えます。今後も、AIを便利な道具として、正しく有効に活用していくべきでしょう。

筆者も、仕事の一環で肺がん検診や健康診断の胸部X線画像を読影することがあります。自施設では、現時点ではAIの補助システムは導入されていません。
しかし、今後AIがある程度診断の補助をしてくれるとしたら、診断において心強いのではと思います。もちろん、総合的に判定することは医師の役割とも考えますので、すべてをコンピュータ処理に任せるということにはならないでしょう。あくまで、補助的なツールとして、今後も画像診断を含め医療分野でのAI活用が期待されると考えます。

まとめ

すでにさまざまな場面で医療現場でのAI導入は必要不可欠なものとなりました。
人手不足に対応し、効率的で正確な医療を提供するために、画像診断の分野を含む医療現場へのAI導入は進むと考えられます。
どのような道具も、正しく使えば大きな効果を得ることができます。今後も、人間とAIが協調し、より良い医療の提供が実現することが望まれます。

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〈nishicherry2480〉
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

   
       

         
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