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子宮頸がんは患者数や死亡数も増加傾向にあり、就労世代の女性に多いがんです。一方、労働力人口総数に占める女性の割合は4割を超えており、子宮頸がんは職域で対策されるべきがんの一つと考えられます。子宮頸がんの予防のためには、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の接種が一次予防として、子宮がん検診が二次予防として重要です。
そこで今回は、HPVワクチンの効果と、接種の現状、厚生労働省が行っているキャッチアップ接種について見ていきましょう。さらに接種率の向上のために企業がどのような対策をとるのが効果的かについて解説します。
子宮頸がんは、子宮の頸部(入口)にできるがんのことです。
20歳代後半から増え始め、50歳代未満の若い世代での罹患の増加が問題となっています。加えて、年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡しており、患者数・死亡数ともに近年漸増傾向にあります。
一方、令和3年の労働力人口総数に占める女性の割合は44.6%という結果であり、こちらも増加傾向です。
また、令和3年の女性の年齢階級別労働力率の調査結果では、20代から50代までの女性の70%が何らかの仕事をしているという結果となっています。
このように、働く人の中で女性が増え、現在では約4割を占める中、子宮頸がんの好発年齢は就労が可能な時期に重なっており、職域でも対策をとるべきがんの一つといえます。
子宮頸がんの95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが原因です。HPVに感染した状態が持続することで「前がん(ぜんがん)病変」という異常が起こり、そのうち一部の人では数年をかけてがんへと進行していきます。
HPVにはさまざまなタイプがあります。そのうち16型と18型というタイプに感染すると、前がん病変や子宮頸がんへ進行する頻度が高く、スピードも速いと言われています。しかし、このHPV16型、HPV18型の感染は、子宮頸がん予防ワクチンともいわれる、HPVワクチンによって防ぐことができます。
日本国内の研究でも、HPVワクチンを接種した20歳〜22歳の女性において、HPV16型と18型(HPVワクチンによる効果が期待される型)に感染している割合が有意に低下していることが示されています。
さらに、HPVワクチンによって、進行したがんである、浸潤子宮頸がん予防の効果があることもわかっています。
これらのことを踏まえ、子宮頸がんを防ぐためには、以下の2点が大切だと考えられています。
現在、国内で承認されているHPVワクチンは2価、4価、9価の3種類です。「価」というのは、「何種類のウイルスの型に対して効果があるのか」ということを表しています。2価ワクチンは、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型に対するワクチンです。
一方、4価ワクチンは16型、18型と、尖形(せんけい)コンジローマという良性疾患の原因となる6型、11型の4つの型に対するワクチンです。9価ワクチンは、4価ワクチンの効果に加えて、さらに5つの型(31/33/45/52/58型)が予防対象になります。この3つのワクチンのうち、現時点では2価ワクチン(サーバリックス®)と、4価ワクチン(ガーダシル®)が公費負担対象となっています。
一般的な接種のスケジュールは以下の通りです。
現在、日本では、HPVワクチンの定期接種の対象者は、小学校6年〜高校1年相当の女の子です。これは、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も効果的という考えに基づいてのことです。
また、12〜16歳で接種を受けると、26〜30歳まではワクチンの効果が持続すると考えられることもあり、この年齢を対象に定期接種が行われています。
9価のワクチン(シルガード9®)は、現時点では定期接種の対象ではありませんが、厚生労働省の審議会での議論を踏まえ、令和5年4月から定期接種を開始できるように準備が始まっています。
HPV ワクチンは、平成 25(2013)年4月に予防接種法に基づく定期接種に位置づけられました。
しかし、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛が、HPVワクチン接種後に特異的に認められました。そのようなこともあり、副反応の発生頻度などが明らかになって、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとされました。
その後、HPVワクチンの安全性について確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められます。
そして、令和3(2021)年11月に、専門家の評価により「HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えている状態を終了させることが妥当」とされ、原則令和4年4月から、他の定期接種と同様に個別の勧奨を行うこととなりました。
結果として、HPVワクチンの積極的推奨が控えられていた期間、HPVワクチンの定期接種の対象年齢(小学校6年から高校1年相当)だった女性の中には、接種を逃した方がいることになっています。そのため、この接種を受けていない人たちに、あらためてHPVワクチンの接種の機会を提供するのが、「キャッチアップ接種」として始まったのです。
キャッチアップ接種は、以下の2つを満たす人が、その対象となります。
2022年12月現在では、16歳から25歳までの女性がキャッチアップ接種の対象となります。
では、上記のような対象年齢以降の女性の場合はどうでしょうか。HPVワクチンの使用についての添付文書では、接種年齢の上限は書かれていません。16歳頃までに接種するのが最も効果が高いのですが、それ以上の年齢で接種しても、ある程度の有効性があることが、国内外の研究で示されています。
また、HPVワクチンは、定期接種の対象年齢以上の世代への接種においても、明らかな安全性の懸念は示されていないともされています。*
海外の報告では、45歳までの接種はHPVワクチンの効果が認められており、アメリカでは女性に対して26歳までの接種を推奨しています。*
このように、HPVワクチンは、定期接種の対象年齢以上の世代に接種した場合であっても一定程度の予防効果が期待できます。一方で、性交経験によるHPV感染によってワクチンの予防効果が減少することが示されている、という報告もあります。*
筆者としては、定期接種の対象年齢以上の場合は、子宮頸がん検診を定期的に受診することの重要性が、接種対象の女性以上に高くなると考えます。定期接種の対象年齢以上の女性の場合は、かかりつけ医などへ相談して、ワクチン接種するかどうかについては判断していただきたいと思います。
HPVは子宮頸がんだけでなく、咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどの男性の発がんにも関係があることがわかっています。ゆえに、男性もHPVワクチンを接種することでこれらのがんの予防効果が期待できます。
そのため、海外では男性へのHPVワクチンを定期接種にしている国もありますが、日本では男子はまだ対象になっていません。
日本では、男性に対しては令和2(2020)年より4価ワクチンが承認され、適応疾患は、前駆病変を含む肛門癌、及び尖圭コンジローマ(男性)となっています。*
しかし、このワクチンは定期接種ではないので、希望する場合は全額自己負担での接種になります。
それでは、子宮頸がんの予防効果があるとされているHPVワクチンの接種率向上に効果的と考えられる、企業の対策について提案していきます。あくまでも、接種するかどうかは従業員自身が決めることなので、打たないからといって本人に不便がでるようなことは避けなければなりません。そういった点には注意して、以下のような対策をとっていきましょう。
HPVワクチンの効果や子宮頸がんの実態などの啓発を行うことで、従業員のヘルスリテラシーを高めることが重要です。ワクチンと併せて、女性従業員に対して子宮頸がんの定期検診を呼びかけることによって、より高い予防効果が期待できるでしょう。
男性従業員や、すでにキャッチアップ接種の対象時期を超えた女性社員に対しても、これらの啓蒙活動を行うことで家族や友人などへのHPVワクチン接種について考える機会を与えることができる効果も期待できます。
子宮頸がんという女性特有の健康問題については、他人に相談しづらいという女性もいるかもしれません。あるいは、男性であってもHPVワクチンに興味があるものの、友人や上司に相談することがなかなかできない人もいる可能性もあります。
対策として、専門知識をもつ産業医などの相談窓口を設置することも効果的と考えられますので、産業保健スタッフなどの窓口となるスタッフは、スタッフ間でも最新の、正しい知識を共有するように心がけましょう。
今回は、HPVワクチンについての実情と、接種率向上のための対策について解説しました。
子宮頸がんワクチンは、一時期は接種後に起こる反応のため積極的な接種勧奨が差し控えられていましたが、現在では安全性が確認されたとされており、HPVへの感染を防ぐことによる子宮頸がん予防の効果が期待できます。
ワクチンをめぐる状況は、今後も変わっていき、将来的には男性も定期接種の対象となるかもしれません。
それぞれの企業の状況に応じ、担当者は常に新しい知識のアップデートを心がけ、従業員に対してHPVワクチンに対する理解度が深まるような働きかけをしていきましょう。
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行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。