コラム
メンタルヘルス

職場で女性のメンタルヘルスをサポートするために組織はどうあるべきか

性差やその他の属性にかかわらず、誰もがメンタルヘルスの問題を抱えるリスクを持っています。その一方で、客観的データとして、女性の罹患率が高い病気や女性特有の問題が存在することも、事実です。本記事では、職場における女性のメンタルヘルスに焦点を当て、組織のあり方を考えていきたいと思います。

職場と女性特有の健康問題

最初に、職場と女性特有の健康問題の状況から、見ていきましょう。

約半数の女性が勤務先で困った経験をしている

経済産業省の「働く女性の健康推進に関する実態調査2018」によれば、半数以上の女性が「女性特有の健康問題により勤務先で困った経験がある」と回答しています。

女性特有の健康問題で困った経験
出所)経済産業省「働く女性の健康推進に関する実態調査2018」P99〜P100 をもとに筆者作成

「困った経験」の内訳として多いのは、月経関連の症状や疾病、PMS、更年期障害、メンタルヘルスです。PMSや更年期障害には、身体的な不調だけでなく、精神面の不調(イライラや不安感、集中力の低下など)も含まれます。そういった意味では、多くの女性がメンタルヘルス不調と直面しながら、仕事を続けていることがうかがえます。

メンタルヘルスの傷病は女性に多い傾向

もうひとつ、統計データをご紹介します。以下は、厚生労働省の「令和2年患者調査」の統計患者数より、メンタルヘルスに関連する傷病分類の20代〜60代を抜粋したものです。

男女別メンタルヘルス推計患者数
出所)厚生労働省「令和2年患者調査」をもとに筆者作成

推計患者数の総数は女性が多く、とくに気分[感情]障害、神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害は、女性の罹患率の高さが目立ちます。個人差が大きな問題ではあるものの、統計データは「女性は、より適切なメンタルヘルスのサポートを必要としている」ことを示唆しています。

現場で実感した問題点

続いて、現場レベルの視点に移ります。筆者は、男性社員が9割を占める企業を経験したあと、次の転職先では一転、女性社員が9割を越える環境に変わりました。女性社員が多い職場で、組織づくりに従事したのですが、現場では、さまざまな問題を実感しました。3つのポイントに絞ってご紹介します。

1. 「お互い様」の罠

1つめは「お互い様の罠」です。女性が多い職場では、女性特有の悩みを共有しやすく、「助けを求めやすい雰囲気」は自然とできていました。月経・PMS、不妊・妊活、妊娠中、子の看護、産休・育休など、女性たちが多様な事情を「お互い様」の精神で、助け合うカルチャーです。

一見、すばらしいように見えます。しかし、年単位の時間軸で観測したとき、大きな問題が隠れていました。それは「女性特有の問題の“お互い様”は、平等には訪れない」という問題です。フォローする側のメンバーが固定化し、業務量負荷がアンバランスになっていました。積もり積もった過剰な負荷は、当然ながらフォローする側のメンタルヘルスに悪影響を与えます。

2. 男性の「無知」

2つめは「男性の無知」です。男性は、女性特有の問題について無知であるがゆえに、まったく配慮できないか、過剰に配慮しすぎるかの両極端になりがちでした。後者(配慮しすぎ)の具体例を挙げると、「月経と察すると何でもOKになる、甘い管理職」がいました。過剰な配慮は、職場に不平等感が蔓延する原因となります。一般論としての「男性が、女性の問題を理解して寄り添う」こととはまた別に、管理職であれば、業務パフォーマンスの勘案を含め、適切な対処が求められます。

3. 組織の問題の「すり替え」

3つめは「組織の問題のすり替え」です。職場の女性同士の関係性について「女の敵は女」と揶揄されることがあります。しかしながら、職場で社員同士の関係がぎくしゃくするとき、原因は「組織にある」ことがほとんどです。にもかかわらず、社員の人格のせいにしたり、ましてや「女だから」という理由で片づけるのは悪手です。組織にとっても社員にとっても、ポジティブな未来がありません。

女性のメンタルヘルスを守るために組織ができること

では、組織は女性のメンタルヘルスを守るために、どうあるべきでしょうか。

「無理をしない」が許される環境整備

まず挙げられるのが、「無理をしない」が許される環境を整備することです。「心身の健康のためには、無理はしないことが大事」と誰もが知っていますが、なかなか実現できません。無理をして、心身の健康を損なう人がたくさんいます。これは、カルチャーや社員のチームワークに依存するのではなく、「組織の仕組み」として構築しておきたいポイントです。

「今」報いる

具体的には、「周囲の気持ちよいサポートを引き出す仕組み」があると、組織全体が円滑に回りやすくなります。「お互い様」とサポートする社員の厚意に甘えるのではなく、手当などの報酬によって報いる必要があります。ひとつのアイデアとしては、Google社の導入で広く知られるようになった「ピアボーナス(Peer Bonus)」があります。ピアボーナスは社員から社員へ報酬を送る仕組みで、職務以上のことをした仲間に「ボーナス」で報いることができます。ピアボーナス専用ツールが複数のベンダーから提供されています。ご興味があれば調べてみてください。

必要な人員をきちんと増員する

必要な人員をきちんと増員することも、組織として行うべきことです。労働基準法では、生理休暇や妊娠中の業務転換など、女性労働者に対する配慮が定められています。

  • 第68条
    使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
  • 第65条第3項
    使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

これらは使用者(企業)の義務であり、本来なら一緒に働くほかの社員には無関係なことです。ほかの社員に負担を強いることなく、企業としての義務を果たせるバッファを見て、人員を確保しておくことが、組織としての生産性を高めます。

最大公約数に合わせた制度をつくる

ここまで女性にフォーカスしたお話をしてきて逆説的ではあるのですが、女性に限定しない制度の整備は、女性のメンタルヘルス問題に好影響を与えます。たとえば、特別休暇、フレックスタイム制、リモートワークなどです。「休暇をとってもいい」「無理はしないように」と伝えるだけでなく、自然と「休暇をとりながら」「無理はせずに」働ける環境を理想として、目指していきましょう。

さいごに

本記事では、職場における女性のメンタルヘルスをテーマにお届けしました。筆者自身、体調を崩して休職した経験があります。チームのメンバーに迷惑をかけることが申し訳なくて、限界を突破しても無理をし続けました。自分がマネジメントに回ってからは、過去の苦い経験から、「休んでも、周囲に迷惑がかからない環境整備」を心掛けてきました。

それは、「本来、企業が負うべき義務を、第三者の社員に肩代わりさせない」ことでもあります。組織が、誰かの無償の善意に頼りすぎることは、避けなければならないと考えます。それが、組織全体のメンタルヘルスを守ることへ、つながるのではないでしょうか。

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〈三島 つむぎ〉
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

   
       

         
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